自分をより高めたい。だからパラレルキャリアを選択して今がある

限られた時間を有効活用し、自分のスキルを組織の中で活かす人たちを支えるプロジェクト「ZIP WORK(ジップワーク)」。旗振り役のリクルートホールディングスにとっては、想定していなかった意外な反応が起きた。「週に2、3日。10時〜16時」などというギュッと圧縮した時間で働くこと。当初見込んでいた育児・介護によって限られた時間しか働くことが難しい人だけでなく、フリーランスで活躍しながら副業・兼業を目指す人たちが着目し、応募が相次いだということだ。

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後編の今回、登場していただく長橋紗綾さん(ながはしさあやさん 以下、長橋さん)も、そのひとり。
ファイナンシャルプランナー(以下FP)として日々奔走する傍ら、この夏から「ZIP WORKER(ジップワーカー)」として投資運用会社で働くことをスタートさせた。まさに「2枚目の名刺」を駆使しながら、実りある日々を送り始めた長橋さん。いま、どんな思いを抱いているのだろう。

ライフプランニングを作る仕事、そこに浮かび上がる自分の課題

「お客様が『こういう自分でありたい』と思うものを明確化し、数字に起こすのがFPの仕事。それを叶えるために何ができるか。お金の側面から考え、実現のお手伝いをするんです」

長橋さんは、そんなFPの仕事に2008年から従事している。一般家庭や個人事業主などを対象に、ライフプランニングを顧客に寄り添って考え、アドバイスする仕事に携わる。自分の仕事にやりがいを持っていること、それが個人の生き方を応援することに繋がる充実感、長橋さんの仕事に対するまっすぐな想いが伝わってくる言葉だった。
仕事をし続けるうちに、自らの課題がいろいろと浮かんできた。

ZIPWORK長橋さん

ご自身のこれまでを改めて見つめ直し、語る長橋さん。

「とりわけ投資運用の分野に関して、勉強がもっと必要だと感じるようになったんです」
もっとお客様のためになりたい。自分の知見を深めたい。学びを経て前進したい。
そんな熱い気持ちが長橋さんを取り巻く。
ただ、どこで学べば良いのか。セミナーに通えば良いのか。本を読めば良いのか。その程度で済むようには、自分にはどうしても思えず、長橋さんは妙案が浮かばないでいた。

そんな中、長橋さん自身に朗報が舞い込んだ。眺めていた「ZIP WORK」の求人募集の中に、学びたいと思っていた投資運用を扱う会社の派遣社員の案件が掲載されていたのだ。

これこそ自分が求めていた課題、面白いと思う業務だった。これは応募するしかない!」
コンサルタント業を営む夫も大賛成だった。気になることがあるならば、現場で一緒に働いてみて、実際その場に我が身を投じてみれば、よく分かる。これが、コンサルタント業で生計を立ててきた二人に共通した信条だったのだ。

長橋さんはさっそく応募してみたところ、会社とマッチングし、リクルートグループの「リクルートスタッフィング」から派遣され、派遣社員生活がスタート。週3日、午前8時40分から午後5時10分まで、投資信託の月次レポートを作成する部署に配属された。実際に働きだしてみて、投資運用の現場に身を置くことは自身の学びを深めると感じた。就業日以外の2日はFPの仕事を継続する。こちらは自分で時間管理が自在にできるが、いずれの業務の日でも夕方には帰宅し、夕食をつくり、午後7時には家族で食卓を囲む。

運用会社の勤務開始日、自分を紹介してくれた職場の管理職の方の言葉が長橋さんは忘れられない。
「いつもはFPをやっていらっしゃる長橋さんです。FPの合間に、派遣で来てくれます」
周囲の反応が嬉しかった。

定時まではいてもらわないと、フルタイムでないと困る……、そういった声は何ひとつなかったし、当たり前のように兼業・副業をしていることを理解してくれている空気感がそこにはあった。
2つの仕事をおこなうことは、自らの学びと実践の場に設定し、相互の仕事を通して、挑戦とフィードバックを得ながら、キャリアの前進を育むようだ。少なくとも、長橋さんはそのように2つの仕事を自分の中で有機的に結びつけている。

子育て、夫の転勤、というライフイベントにおける女性のキャリアの揺らぎと、変わらない仕事への想い

長橋さんが仕事を通じて痛感するようになったのは、女性のライフプラン構築の難しさだった。顧客との話題でのぼるトピックには、こんな内容が相次いだ。

「何年後には子どもが欲しい。その頃にはどれくらいの貯えがないといけないのか」
「育休を取りたいが、その場合に気を付けておきたいことは。復帰後のキャリアは」
「親の年齢が気になる頃までに、ある程度のキャリアに就いておかないと」

長橋さん自身、小5と小3の子どもを育てる母親だ。顧客との会話を通じて脳裏によみがえるのは、かつて、自らが正社員のFPとして勤めていた時のことだという。
「下の子が2、3歳の時かな、小児喘息で入退院を繰り返した時期があったんです。入院に付き添い、病院に毎日通う。家にいても夜、発作が起きれば夜間救急にかかって……」
顧客との打ち合わせの予約を取ることが難しくなり、しだいに仕事に弊害が生じるようになってしまった。
仕事との両立を諦め、ついに長橋さんは退職してしまった。その後もFPに関連する仕事は正社員ではなく少ない時間で続けてはいたものの、夫の転勤により再び離れることになる。

ただ、それから5年を過ぎても、FPとして社会に貢献したいという気持ちが消えることはなかった長橋さん。
「仕事がずっと好きだった。家で掃除をするのも好きだけど、働くことでもっと人の役に立てると思っていたんです」

その当時は、早いうちから子どもを保育園に預けてまで出かけていく生活に、罪悪感がまったくなかったわけではない。
長橋さんは、子どもがある程度大きくなったことを機に、各種の資格を改めて取り直し、個人事業主のFPとして再び奮い立った。そんな経緯があった。

ZIP WORK長橋さんの笑顔

女性のキャリアと自分の仕事との密接な関係性に気づき、働く女性の課題に目を向け、自分自身も一歩前へ。

女性がキャリアをクリアしていきながら、自分の求める人生もクリアする。そのバランスって、とても難しい。もっと柔軟な働き方があっても良いはず。そう感じていました」

働く女性に横たわる諸問題をリサーチしていくうち、リクルートホールディングスの「iction!」プロジェクトや、「ZIP WORK」の理念を知った長橋さんは、女性の働き方における日本の新たなスタンダードになり得る施策と期待を寄せながら見守っていた。そして自分自身もその身を投じ体感することになる。

 

複数仕事を始めたことによる変化とは?

この生活が始まって、変わったことは何だろう。
仕事面では、双方の業務の知識が互いを補い合うメリットは望み通り、かつ想定内だった。それよりも長橋さんが最も強く実感しているのは、「時間にメリハリがついた」ことだ。
夜、子どもたちの寝た後にFPの勉強を進め、税制の改正や昨今の動向などについて学ぶ。仕事を増やしても、学びの時間はきっちり確保する。

「FPって、時間のないお客様の代わりに勉強し、必要なモノをお伝えする『ハブ』のお仕事。いかに勉強しているかが、サービスの質にかかわるんです」。知識を日々アップデートさせるべく、学びを怠らない。曜日を区切った分、集中して取り組める気がしてきた。

子どもたちにとっては、「朝、ママと一緒に家を出て、18時にママが帰ってくる」という生活は変わらない。「ダブルワークしていることに気付いていないかも」と長橋さんは笑う。守りたい子どもとの時間をきっちり保って働ける。

家事の面でも変化が生じた。週末に具材を下処理し冷凍しておく「つくり置き料理」を始めてみた。「派遣先のかたが教えてくださったんです。帰宅途中、本屋さんで料理本を買って、ただちに実践しました(笑)」。平日の調理時間の大幅な削減が実現したという。

「きちんとした格好して、きちんとしたお化粧して出かけるママのことが好きだよ」
長橋さんには宝物の言葉がある。子どもがかけてくれた言葉だ。

「FPの仕事って楽しいんですよ。お客様の夢を叶えた時、『わあ、ありがとう』って言ってもらえる。夢の片棒を担がせてもらえた気になる。夢の船に乗らせてもらえた。まるで自分がその一緒に夢を叶えたような気持ちになれるんです」
だからこそ、自分に言い聞かせてきた。
「子どもには、せめて『お仕事疲れた』『仕事に行きたくない』と言うのはやめよう」
その後ろ姿をきっと子どもたちは見ているはずだ。

この先、ZIP WORKのような就業形態がさらに普及し、働く人たちと企業との意識改革が進んでいけば、小さな子どもを育てながらフルタイムという形ではなく無理のない時間範囲で仕事に従事する人が増えるだろう。
長橋さんは、かつて自分自身が抱いていた小さなうちから子どもを保育園に預ける一抹の罪悪感や病気の子どもを育てながらも無理をしながらフルタイムで働くことについて、今後はちょっと違う考え方が広まるのではないか、と思うようになった。

「子どもたちは、最終的には親が笑顔なら嬉しいと言ってくれるはずです。最近は私に『お仕事楽しかった?楽しくてよかったね』って子どもが声をかけてくれます」

新しい働きかたを個人と企業が見つめなおすZIP WORK。
それは個人の働き方の選択肢を増やすだけではない。企業の受け入れの選択肢を増やすだけでもない。
個人を取り巻く家族の在り方や幸せの形を変化させうるし、それを通して、これからを生きる次世代の働き方の選択肢を増やすことに繋がるかもしれない。

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加賀 直樹

加賀 直樹

ノンフィクションライター兼、韓国語翻訳家。週刊AERAの連載「現代の肖像」執筆メンバー。同誌の各特集の取材にも携わる。元・朝日新聞記者。手がけた著書は「戦争体験・朝日新聞への手紙」「吹奏楽の星」など多数。