リクルート二葉美智子さん

これまで身に着けてきたスキルや知識を、経験のある仕事で活かし、 育児や介護などによる時間的な制約の中でスマートに仕事を終わらせ、適切な評価を受けていく。それが「ZIP WORK」という働き方だ。

ZIP WORKスタートから1年を迎え、当時描いていた育児や介護など時間的な制約がある人たちだけではなく、今はまた別の価値を見出しているようだ。

ZIP WORKを推進する側と、実際にその制度を利用し始めた人の思いとは。

前編では、このZIP WORKを含めた活動を推進するiction!プロジェクトの事務局長を務める株式会社リクルートホールディングス(以下、リクルートホールディングス)・リクルートHR研究機構の二葉さんに、経緯と現状、展望について聞いた。

 

二葉美智子さん(ふたば・みちこ 以下二葉さん) 

99年、リクルート入社。人材領域の営業に従事後、2005年、中国展開で上海に。帰国後はグローバル人事、中途採用、ダイバーシティ推進、CSRを経て、2016年4月からiction!事務局長(現職)。

 

ZIP WORKとは何か?創られた経緯とその実例

二葉さんによると、この『ZIP WORK』には、3つの特徴があるという。
「時間が限定された働き方である」
「専門的な知識やスキルを活かせる」
「専門性に見合う報酬と、昇給などのキャリアアップの機会がある」

そもそも同社では2015年7月以来、「さあ、育児も仕事もしやすい世界へ。」というスローガンで、「iction!(イクション)プロジェクト」を進めてきた。第一子の出産後に仕事を辞めた女性の約4割が後悔、といったデータなどを基に、二葉さんたちは「働く」と「子育て」の両立を担う施策を進め、社内外で話題となった。「ZIP WORK」は、この「iction!」プロジェクトの一環という位置づけだ。

個人の価値観が多様になる中、グループ全体として、社会課題や変化にどう対応するか。二葉さんたちのチームは、主婦が働き続けられない理由、社会復帰できない理由をデータ分析した。そこで見えてきたのは、こんなことだった。

「彼女たちの最大のニーズは『限られた時間で働きたい』。場所の制約もありました。『幼稚園のお迎えが間に合う場所と時間帯で働きたい』。そういう切実な声がたくさんあったんです」

二葉さん自身の職場では、こんな実例があった。事務スタッフを派遣社員で受け入れようとし、フルタイム勤務で募集をかけたところ、3カ月ちかくを経ても良い人材が見つからなかった。業務自体が滞り、日に日に焦りを感じるなか、二葉さんはふと思いついた。

週2日と3日に分けて、交互に来てもらう募集をしてみたら、どうなるかな

募集をやり直してみた。すると、たちまち2人の採用が決まったのだった。
1人は、ある一部上場企業で秘書や広報を経験したのち、陶芸関連の講師の資格を取得。スクールを自宅で週2日、開いており、教室のない日だけ働きたいという要望だった。二葉さんが求めていた、秘書経験者という条件に合致した。もう1人は家事との両立のため、フルタイムは難しいけれど、経験豊富でバイタリティにあふれる人だったという。

「要件にピッタリの人がこんなに早く決まるなんて。3カ月待っても来なかったのに、勤務日を分けた瞬間、『はやっ!』って(笑)」。
そこで二葉さんは実感したのだった。彼女たちのような、眠っている人材がたくさんいるはずだ。企業側が、時間と要件において何かしら譲歩をすれば、良い人が探せるはずだ、と。

ZIP WORKERとして働く人たちの多様性、見えてきた価値

いまちょうど40代にあたる女性たちは、高等教育を受ける人が増え、男女雇用機会均等法を経て、大手企業に総合職で採用され始めた世代だ。学歴や経験を十分に持ちながらも、結婚や育児など、何かしらの制約のために1度、仕事を辞めてしまった人たちが多い。

ここで二葉さんが大事にしたかったのは、「時短」という言葉が含有している何かしら負の概念の払拭だ。雇用形態に限らず、自分のスキルを活かす。まったく新しい働き方を構築する。そうしてスタートを切ったのが「ZIP WORK」プロジェクトだった。二葉さんは「ZIP」という英単語の選択に、強い思いを込めた。

リクルート二葉美智子さんZIPWORKを語る

ZIP WORKについて語る二葉さん。彼女の熱意もこのプロジェクトを推進する大きな原動力であろう。

すばやく働く、パッと終わらせるという意味なんです。短く、カッコよく働くのが『ZIP WORK』。元気よく、活力的に、新しいスタイルの働き方として広めたかった」
パソコンを使う人にはおなじみの圧縮zipファイルのように、瞬間的な速さとまとめ上げる能力と。そんな印象を受ける言葉だ。

二葉さんたちはまず、同社のグループ企業内で、彼女たちが働ける場を探し回った。すると人事、広報、経理などいくつかのポストが見つかった。一方、応募には500人以上の人たちが集まり、二葉さんたちはニーズの高さをいよいよ実感した。一方でこのとき、予想していなかった事態が起きた。二葉さんは振り返る。

「育児、介護の人を考えていましたが、実際には兼業、副業のために手を挙げた方が結構いらっしゃったんです。ビックリしましたね」

実際に働き始めた人たちの内訳を見てみると、育児が35%、フリーランスでの兼業・副業が30%。つぎに家事と介護。起業準備中の人がいた。さらに、男性も1割いた。年代別では、30代後半から40代後半が7割だった。

そこで見えてきたものは何だろう。

二葉さんがまず実感したのは、社内で育成できない人材が集まるメリットだ。あるケースでは、社労士の資格を持っていて、かつ30代で人事部長を経験していた人が、グループ人事統括の業務を週3日でやることになったという。
「もちろん、会社では外部の社労士事務所と契約しており、プロは別にいます。でも、チームで一緒に働くなかで、スタッフの一人が社労士の視点を持っているのは貴重で重要なこと。そんな人材、社内では育てられない」

また、こんな「逸材」もいた。大学卒業後、大手メーカーに入社、厳しい上司に資料作成や仕事の進め方などを徹底的に鍛えられたのちに音楽関係の会社に転職し、アーティストとブランドのコラボを仕掛けた。子どもが小学校に上がり、「フルタイムがきつい」として退職するが、その後は独学でグラフィックデザインを勉強。かつ、アクセサリーも製作し、都内のファッションビルで販売も手掛ける。驚くほど多芸の人である。

「チラシすぐ作らなきゃ、って言ったら『mac持ってきます!』。スキルや人脈がじつに多彩な人。こんな人、社内ではまず見当たらないですよね」

さらに、こんなケースもあった。ある大手企業に入社後、新人で新規事業開発を担当。3人のチームから数百人規模の事業立ち上げに関わったが、パートナーの海外留学を機に退職。帰国後も、パートナーからまたいつ海外駐在になるか分からないと言われており「社員として入っても申し訳ない」ということで志望したという。仕事の能力は申し分ない人だった。

そんな彼女たちにとっては、自分がこれまで培ってきた企画力やスキルを余すところなく発揮し、短い時間で「濃く」働ける場が見つかったのだった。

短い時間で働く人を受け入れる会社が享受するメリット

そして「ZIP WORK」は社内を飛び越え、この4月から他の企業へも展開している。人事、企画、広報、営業、法務、経理……。現在、数十人があらゆる業種の多種多様な場で「ZIP WORKER(ジップワーカー)」として働く。ただ、二葉さんたちが他社に展開を始めた当初は、どこの企業も慎重だったという。

マネジメントの負荷がかかりそうだ、という心配の声を多々聞きました。それから、本当に良い人がくるか分からない、とか」

ところが、条件に見合う人がすぐにマッチングでき、芋づる式で案件が出てくると、それらの懸念は霧消した。

こんな優秀な人がいるの?」。一緒に仕事をしていて、時間配分の根本を問うような意見が出るなど、社内の常識とは異なる視点に目から鱗が落ちることが多いという。一企業の組織の内部だけでは生じえない、思わぬメリットだ。

そんな「ZIP WORKER」のなかには採用直後、「限られた時間でパフォーマンスを出せているか」不安になる人が多いという。それだけ、自分の仕事スキルを客観視し、ポジティブ思考の人が多いということだ。二葉さんは言う。

リクルート二葉美智子さんZIPWORKを語る

二葉さん自身も働く母であり統括するマネジメントポジションであることによって個人と組織と双方を見つめている視線がある。

「自分が望む支援施策について何か問うと、スキル系の研修と答える人が多いんですね。資格取得支援や、ITの講習会。自分を高めたい人ばかり」。それが、周囲のフルタイム社員たちの背筋をもピンと伸ばすような好影響を与えているのだ。

これからの組織と個人の関係性

「働き方」。その概念について考えたとき、時間、場所のほかに、契約関係が大きな比重を占めているだろう。現状では、「企業の人事制度に合う人」を受け入れている状況だが、二葉さんは「ZIP WORK」を通じ、そこにメスを入れたいという。
もっとフレキシブルに、企業側が自分たちのニーズに合わせ、『タレント』を外部から呼ぶ。そんな環境が理想ではないかと考えているんです」
雇用形態に関係なく、「企業」と「個人」の繋がりを太くする。持っているスキル、要件をお互いが把握し、柔軟に契約関係を結べるようになれれば良い。企業の持続的成長のために、どんな人材配置が必要か。柔軟に考えられる世の中の実現が二葉さんの理想だ。

個人もセルフマネジメントを求められるだろう。そんな個人をサポートするサービスの整備も必要だと考えている。二葉さんは「自分のカルテ」のようなものがあっても良いのではないかと夢想している。「『あなたはこういう資格を取るといい』なんていうカルテ。個人と企業が双方で意識を変えていかないと」

異なる環境を跨いでみて、そこで学んだものを持って帰る。
それを一人ひとりがやるということが、当たり前になること。
それを受け入れる組織が当たり前にあること。
個人と企業双方が手を取りながら、新しい価値を生み出していくこと。それが「ZIP WORK」の目指す到達点だ。

「ひとりでも多くの人にチャレンジしてほしい」。二葉さんたちの模索は続く。

パラレルキャリア、兼業、複業。
働き方改革が叫ばれ始めた昨今、これらの言葉の注目度はますます熱を帯び始めている。
これらの言葉は個人としてのメリット、価値に焦点が当たりがちで、組織・企業側がメリット、価値をアウトプットすることはまだ少ない中、リクルートホールディングスは組織と個人の関係性を見つめ、新しい施策の実践へ挑戦し続けている。
後編はこのZIP WORKで働いている実践者に話を伺い、個人として新しい働き方に取り組むマインドとその働き方の詳細に目を向ける。

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加賀 直樹

加賀 直樹

ノンフィクションライター兼、韓国語翻訳家。週刊AERAの連載「現代の肖像」執筆メンバー。同誌の各特集の取材にも携わる。元・朝日新聞記者。手がけた著書は「戦争体験・朝日新聞への手紙」「吹奏楽の星」など多数。