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創業から間もなく100年を迎えるパナソニック。連結売上高約8兆円、従業員数は約25万人、4つのカンパニー、37の事業部という巨大組織で、急速に存在感を示しているのが、組織や部門を横断してメンバー同士の交流を図る社内若手有志グループによる交流団体「One Panasonic」だ。

社員の志・モチベーションの向上、知識・見識の拡大、組織・年代・国籍を超えた人的ネットワークの構築をミッションとし、面白くて新しい商品やサービスをどんどん生み出せる土壌をつくることを目指す。どのような着眼点でこの取り組みを始め、どんなふうに活動の幅を広げているのか。NPO二枚目の名刺が主宰する「二枚目の名刺ラボ」でOne Panasonic代表の濱松誠氏に話を聞いた。

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パナソニックは松下幸之助というカリスマが創業した、間もなく100周年を迎える言わずもしれた大企業だ。濱松氏はパナソニックを「古くて、でかくて、重たくて、複雑。」と表現する。パナソニックに限らず、売上高1兆円を超える企業の多くに当てはまるだろう。とりわけ創業者や創業家が経営陣に残っていない場合はなおさらマネジメントが難しい。濱松氏はボトムアップで何とか会社を変えられないかと考え、社内若手有志グループによる交流団体「One Panasonic」を立ち上げた。
「もちろん売上高約8兆円の企業をそう簡単には動かせません。でもひびを入れたり、何かうねりをおこしたりするくらいはできるのではないかと信じて、活動を続けています。」

超大企業の課題

「One Panasonic」のメンバーは大企業(組織)病を改善したいと思っている。スピードが遅い、縦割り組織、細分化された仕事、リスクを取らない、事なかれ主義、保守的・安定志向……など課題は様々あるが、最も恐れているのは「言ってもムダ症候群」だ。「言ってもムダだと思う経験をするうち、社員は会社や仕事に対して何も言わなくなります。こうなってはいけないと経営者は常に言い続ける必要があるし、従業員一人ひとりが常にこう思っていないといけません。」

もちろんパナソニックのような大企業だからこその良さがある。「人、技術、信頼、ブランドなど有形無形の資産を豊富に持っていること」だと濱松氏は言う。従業員でもその価値を理解していないことがある。だから、この価値についても強く言い続けていく必要がある。
会社を変革していくためには組織と年代の壁を超えなければならない。「One Panasonic」は、社員の志・モチベーションの向上、知識・見識の拡大、組織・年代・国籍を超えた人的ネットワークの構築をミッションとし、面白くて新しい商品やサービスをどんどん生み出せる土壌をつくることを目指している。経営者や人事でなく、「OnePanasonic」だからこそできる方法があると考えている。

「会社も完璧ではない。組合もそう。いわば「第三の波」として多くの人を巻き込みながら自発的に取り組んでいます。」

内定者懇談会が最初の一歩

One Panasonicを立ち上げのきっかけは内定者時代に遡る。先輩社員と接する機会がなかったことが発足に繋がった。様々な職種の先輩社員と入社前に話したかったが、当時はそうした機会がなかった。入社1年目の2006年、独自に内定者と社員との懇親会を開催。初年度の参加者は40人だったものの、年を重ねるにつれ人数は増え続け、2011年までで延べ人数約400人が参加するまでに成長した。しかし6年も続けると、周囲に「次のフェーズがあるのでは」「もう若くないぞ、まだ若手か」と言われ始めた。

「『有志の会なのに。そんなことを言うなら協力してくれよ』と思いながらも(笑)、確かにマンネリになっていたのは否めず、次のステップを思案しているときに、パナソニック、パナソニック電工、三洋電機という風土の異なる3社が統合したのです。2012年のことでした。」

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そこで新生パナソニックとしての現場レベルでの一体感を醸成しようと、3社の若手を集めて、12年3月、One Panasonicというイベントを開催した。当時の統合のスローガンに倣い「One Panasonic」とネーミングになった。広報や秘書の助けを借り、この会には大坪文雄社長(当時)も参加し、一般社員にとっても貴重な機会になった。One Panasonicはここからスタート、現在、全国に散らばるメンバー十数名人で運営し、参加者の総数は2000人に上る。

様々な立場の人を味方につける

大企業の強みは有形無形の資産を豊富に持っていることだ。一方、大企業の場合、社内の人脈がつながりにくい。つながっていないから生かせない。そこで社内での人脈をつくることを狙って、One Panasonicでは「全体交流会」と「テーマ別交流会」の2つを開催している。
全体交流会は東京、大阪、名古屋、福岡でそれぞれ年4回イベントを開催。毎回、100~200人の社員が集まり、社長をはじめとする経営幹部のほか、社外から著名人をゲストの講演会を行っている。互いの顔が見える形で質疑応答を行い、質問が途切れることはない。お仕着せの会議とは雰囲気が明らかに違う。

意外な難しさは部課長層などミドルの巻き込みだ。自分より10も20も年下の輪の中に入りにくいもの。そこで、部課長層が積極的に参加したくなるよう、ミドルが若手に自身の経験を語る「ようこそ先輩」を企画。「話したい」というミドルは多く、若手社員にとってもロールモデルを見つけられる、両者がつながる場になっている。
自分たちがやりたいことを貫き通すためには、様々な立場の人を巻き込み、味方になってもらうことが重要だ。活動当初、「ワンパナは幹部に迎合している」というネガティブな意見もあったが、今ではそうした声は聞こえてこなくなった。

一方のテーマ別交流会はハッカソンや女子会、他社交流会などを実施している。社外の同世代の人たち、もしくはいろんな面白いことをしている人たちから学ぶ、交流する、刺激し合うことが狙い。社内のみならず、社外の人脈構築もテーマになっている。

内輪で満足せず、外へ外へと広げていく

活動は交流会だけではない。代表的なものは「モノ博」という商品や技術デモの博覧会だ。自社製品でも担当外の商品や技術について触れる機会が少なく、誰が何をしているのかを、ほとんど知らないという実情がある。この博覧会では、「モノ」を中心にコミュニケーションを図ることで、それぞれの部署、社員の仕事を知り、お互いの強みの理解を深めた。One Panasonicの全体交流会に併設した際には、400~500人が参加。モノがあることで、交流がさらに活発になった。
この「モノ博」を契機に、4000人が集まる社内シンポジウムとのタイアップを企画。もともと各部署の技術などが紹介されている展示会はあったが、パネル説明がメーンで、技術者以外には難しく、あまり面白みがなかった。「あれだけモノ博が盛り上がったのだから、もっと人の集まるシンポジウムと一緒に開催すれば、もっとインパクトが大きくなる」と複数の役員を口説き、事務局の担当者にも熱い想いを伝え、会社との連携が実現。有志の立場でも、実際にやってみせ、ゼロからイチを証明すれば、大きな組織でも動き出す実感を得た。

「アルムナイネットワーク」もゼロからイチを生み出した事例だ。日本マイクロソフトの樋口泰行会長やNTTドコモ執行役員の栄藤稔氏、サイボウズの青野慶久社長などパナソニックを卒業後、社外で活躍している人たちが一堂に会した。パナソニックからも社長をはじめ、役員クラス十数人が参加。外資系コンサルティング会社などではよく聞く話ですが、日本では定年退職者が集まるOB会はあっても、会社を辞めた人の集まりは少ない。
いみじくも樋口会長は「20年前に会社を辞めた時には『裏切り者』と呼ばれた。それが今こんなふうに変わってきているのは感慨深い。ぜひパナソニックと連携して何かやっていきたい」とスピーチをした。
「思いをもった人の直接の言葉しか伝わらないという考えから、経営幹部やミドル層、社外のメンバーとの会食の時間を大切にしています。話した内容をすべてメモし、翌日に議事録としてメールすることを徹底していま。これも最大のリソースである幹部との時間を決して無駄にしないためです。」

短期間での成果を目指さない

One Panasonicの活動を始め、は約3年半経った。参加者からは「やろうとすれば何でもできると思えるようになり、前に進みやすくなった」「以前は自部門の範囲で物事を見ていたが、今は他部門含め全社レベルで見られるようになった」といった声が上がっている。とはいえ、何か具体的な成果が出たとか、売り上げに貢献したのかと問われれば明確な答えらは見つからない。
「ただ未来をつくる活動、ロングジャーニーと捉えて、今後も活動を続けていく考えです。参加者はOne Panasonicに成果を求めるというより、『自分で成果を出さなければいけないのだな』と思って帰る人が多い。One Panasonicが目指しているのは土壌づくりであり、行動を起こすのはあくまで個人だと考えています。」

One Panasonicのような活動は社外からも認められつつある。働きやすさの重要な要素である職場の環境や雰囲気を良くするために、企業が自由に取り組んでいる研修や社内イベントなどの取り組みを表彰する「グッド・アクション2014」(リクルートキャリア主催)で社内コミュニケーション部門の部門賞を受賞。社会とつながり、価値を生み出す挑戦をし続けている経営、組織・人づくりに熱心な取り組みを称え、紹介するための表彰制度「KAIKA Awards 2014」(日本能率協会主催)でも特選事例として選定された。外からの評価で、社内での存在感も増している。
最近はOne Panasonicと似た取り組みを手掛ける富士ゼロックス、NTT東日本、JR東日本、リコー、ベネッセなど数社で「One JAPAN」という団体も立ち上げた。同じ志を持つ若手主導で日本企業の活性化を目指している。

染まるか、やめるか、変えるか

巨大組織の中で、うねりを作り出している濱松氏はこう語っている。
「大事なのは、いろいろな人たちとつながり、いろいろなことをやりまくる。まずやってみることです。我々の生み出す価値であり役割は、心に火をつける(モチベーター) 、人をつなげる(コネクター) 、ゼロからイチをつくり出す(イノベーター)、うねりを大きくする(インフルエンサー) の4つ。よく社員にこう話しています。『染まるか、やめるか、変えるか。この3つしかない。染まるのは格好悪いよね、だったら変えてみようよ』と。やるかやらないかではなく、やるか絶対にやるか。世界を変えるには情熱を伴った行動しかない。そう強く信じて、One Panasonicの活動を続けています。」

注1)本記事は、二枚目の名刺ラボ(2015/12/6開催)で有志の会「One Panasonic」代表の濱松誠氏(パナソニック株式会社コーポレート戦略本社人材戦略部→3/1 に東京のベンチャー企業に出向)が説明した内容と質疑内容をもとに作成しております。
注2)本記事は二枚目の名刺ブログ記事『【二枚目の名刺ラボ】実践共同体を作る②:若手有志が閉塞感を打破し、風土革新に挑む パナソニック有志の会「One Panasonic」』の内容を一部改訂し転載しています。

(荻島 史江)

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