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東京都社会人サッカーリーグ3部に所属する社会人クラブ、TOKYO CITY F.C.。創設者の山内一樹さんは、2枚目の名刺としてCEOを務めている。

本業は、自らが学生時代に立ち上げたスポーツの動画コンテンツをSNSで配信する企業で、30の大学だけでなく、Jリーグをも顧客にしている。

順調な企業運営。では、ここからなぜ、サッカークラブを設立するという動きに至るのか。山内さんがサッカークラブのオーナーという2枚目の名刺を持つに至ったのは、強い課題意識からだった。

前編はこちら

 

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「本業で、若い人たちにスポーツに興味を持ってもらうための施策づくりをずっとやってきました。しかし、いろんなプロクラブに『こんなふうにSNSを使ったらどうですか?』などと提案しても、実績がないとなかなか受け入れてはもらえませんでした。その一方で課題感があったのは、Jリーグやプロ野球のファンの高齢化であり、「若者のスポーツ離れ」だったんです。観戦もそうだし、若い人がなかなかスポーツをしなくなっている現状を、社会課題として感じていた。けれど、本業を通して提案しても、なかなか実現には至らない。『だったら自分たちでクラブを作ってしまおう』となったわけです。当時、そういった想いに共感してくれる15人くらいのメンバーを、SNSを通じて集めて、彼らと一緒にサッカークラブを立ち上げたんです」

 

──クラブの創設は2014年の2月。Jリーグと本業のほうで仕事を始める1年ほど前ですね。Jリーグ入りを意識はしていましたか?

「まず、僕らはJリーグ入りを最終目標としているわけではありません。今は正直なかなかイメージ出来ていないですが、いずれJリーグというものが見える場所まで来たら、Jリーグに入って何をするか、が重要だと思っています。Jリーグは地域密着という理念のもとに、ある種完成されつつあるモデルですが、今の我々は少しだけ視点を変えて、もっと若い人にフォーカスするというか、若い人がカッコいいと思えるクラブ、若い人が応援したい、一緒にサッカーがしたいと思ってもらえるようなクラブを作りたかったんです。だからこそデジタルメディアにもすごく力を入れているし、クリエイティブなところもこだわりを持ってやっています」

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(渋谷スクランブル交差点がモチーフの独自ブランド展開第一弾の「Tokyo City Bandana」

画像提供:TOKYO CITY F.C.)

 

──普通のクラブの目標は、少しでもカテゴリーを上がっていくことだと思います。そうした思いは捨てているわけですか?

「いえ、捨てているわけではありません。ただ、僕たちがビジョンとして掲げているのが、“PLAY new FOOTBALL, PLAY new TOKYO”。つまりプレーヤーにとってもファンにとっても、新しいサッカーの楽しみ方を作っていくのが、ひとつの大きな目的なんです。例えば、東京で僕たち世代の3、4人の男女が集まって遊ぼうとなった時、スポーツを見に行こうとはなかなかならない。飲むか、あるいはフェスとかバーベキューに行くか。そういった時に、遊びの選択肢のひとつになれるようなクラブでありたいんです」

 

──若者のスポーツ離れは深刻だと? 

「スポーツをする側にとっては、高校から大学に上がる時にひとつ壁があって、社会人になるとなおさらハードルが高くなる。ただ、大人になると競技的なスポーツにあまり魅力を感じなくなる一方で、例えばカラーラン(※色とりどりのカラーパウダーを浴びて走るイベント)みたいに、楽しみながら走って、しかもSNS映えもするような、遊びの一環に近いスポーツへの関心は高まっています。そういったところを広げていきたいと考えています」

 

──TOKYO CITY F.C.でも様々なイベントを企画し、実現しているようですね。

 「クラブの新体制発表会をやったんですよ。正直、J9の体制発表なんて誰も来ないですよね(笑)。そこで『光るサッカー』というコンセプトで、プロジェクションマッピングみたいに、光るボールを蹴るとその軌跡が地面に描かれていくという参加型のイベントを企画したら、50~60人くらいお客さんが集まってくれました。インスタ映えもしますから、SNSで発信してもらえる。こういったことをやると、例えばアートが好きな人なんかも来てくれる可能性がありますからね」

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(画像提供:TOKYO CITY F.C.)

 

──これまでで一番反響があった企画は?

「旅をテーマにしたフェスに参加してやった、“Color IT Yourself”という企画ですね。世界地図に塗料を入れた風船をつけて、ボールを蹴ってそれを割っていくと、最終的にペインティングされたマップが完成するというイベントです。その後、川崎フロンターレさんにこの企画を横展いただきました。彼らの場合は真っ白なバスをキャンバスに見立てて、世界に一台だけのバスを完成させていましたね」

 

──こういったアイデアは山内さんが?

「僕だけではなく、クラブの人間もみんな本業は別々で、それこそアートが好きな奴がいたり、デザインやイベントが好きな奴がいたりして、彼らの提案を受けて面白そうなものを形にしています。月に一回のミーティングはもちろん、チャットアプリでもアイデアを出し合っていますね」

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(チャットアプリ「slack」を使ってメンバー間のコミュニケーションをとっている)

 

こうなると気になるのは、プレーヤーたちの感覚だ。実際のプレーとこうした事業への参加。関わり方の比重はどの程度なのだろうか。

「”PLAY new FOOTBALL, PLAY new TOKYO”を目指すにあたって大事にしているのが、『共創する』という考えです。サッカーをするだけなら他にもいろんなチームがありますが、でも実際、どうせクラブに関わるなら、そうしたイベントにも積極的に参加したいと思っている選手のほうがうちには多いんですよ。もちろん濃度に差はありますが、比較的いろんな提案が出てくるクラブですね」

 

──では、サッカーで上を目指しているわけではないと? 

「決してそんなことはありません。僕らが目指そうとしている新しいサッカーの楽しみ方も、弱いチームが言ってても説得力がありませんから。上を目指さないと『ただの自己満足だ』と、どうしても思われてしまう。それに気付くまでに3、4年かかってしまいましたが、去年の秋から、もともと湘南ベルマーレで強化の仕事をしていた深澤に声を掛けて、GMになってもらいましたが、そこからチームは上手く回り出しています。今季はここまで全勝。7月29日に行われる住友商事サッカー部との首位決戦に勝利すれば、優勝・昇格が決まります(編集部追記:この試合に勝利し、都リーグ3部で優勝、2部昇格が決定した)」

 

──コーチングスタッフの体制も整えていますか?

 「現在はそのGMが兼任監督で、あとは元々選手だった人間がコーチとして携わっているくらいですが、今後はピッチの中のことも充実させていきたい。よりアクセルを踏んでいってもいいのではないかという議論は、クラブ内でもしています。何人かが本業としてクラブの根幹をなす仕事に携わって、ファシリテーションする必要性も出てきたんじゃないかと。そういう人間がいれば、もっとアクセルが踏めますから」

 

──アクセルを踏んで目指すところは?

 「やはり、若者にスポーツを──というのが一番上にあって、そのために強くなるわけです。強くなることと、様々なイベントを発信していくこと。その両輪があってこそだと思っています」

 

──ピッチレベルで将来的な目標はありますか?

 10年以内に社会人ナンバー1を目指しています。けれどそのためには、元プロ選手のような経験豊富な選手も獲得しなければならないかもしれない」

 

──これまでとは別の難しい側面も出てくるかもしれませんね。 

「強くならなくてはいけないと、みんなで話すようになったのは、去年の春くらいから。シーズンを2位で終えて、昇格を逃してしまったからなんです。当時は今とは違う方が監督をやっていたんですが、結果が出なかったこともあって、辞めていただくことにしました。難しいのは、その方も我々の考え方に共感し、無償で監督をやってもらっていたということ。お金を払っているなら解雇もできますが……。サッカークラブを運営するというのは、きれいごとだけじゃないと痛感しましたね。それは選手も同じで、カテゴリー上がればそれにふさわしい選手を、お金を投資して獲得しなくてはなりません。そんなことを考えていると少し気が重くなりますし、もしかしたら今が一番楽しいのかもしれませんね(笑)」

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──クラブに入るための選考基準はあるんですか? 

「うちは面倒くさいクラブなんですよ(笑)。サッカーやるだけじゃなく、イベントのアイデアを出して、運営を手伝ってということを理解してもらうのが、まずひとつ。そのうえで、トップチームの選手は技術的な基準値もクリアしなくてはいけません。去年は60人くらいをセレクションして、採用は2人だけでしたね。ただ、SNSを本業としている優位性はあって、インターネットを通じて多くの希望者を集められる点は大きいです」

 

最後に、山内さんにとって2枚目の名刺を持つことの意味、そして今後のプランを聞いてみた。

「まさにうちがそれですが、本業ではなかなかできないことを、クラブを通して実現する、あるいは本業を通して知ったことをクラブに還元する。そうやって2枚目の名刺を持っている人たちによって成り立つチームがあっても、僕はいいと思っています。確かに大きいクラブだと難しいかもしれませんが、例えば川崎フロンターレのためならなんでもしたいというサポーターは、結構いるはずなんです。それをしっかりディレクションしてあげられれば……。もちろん金銭的なことも必要かもしれませんが、そうじゃないところで一緒にクラブを作っていくことは不可能ではない。きれいごとかもしれないけれど、そういうチャレンジを僕はやっていきたい」

 

──今後に向けては、どんなプランを思い描いていますか?

「”PLAY new FOOTBALL, PLAY new TOKYO”の実現のためにも、もっといろんな人を巻き込みながらクラブを作っていきたいですね」

 

──具体的には?

「例えば本業はアパレルだけど、そこで新しいデザインを提案する前にうちのクラブでグッズを作ってもらったり、アニメキャラのデザイナーがいれば、じゃあクラブのマスコットを一緒に考えてみようとか。もちろんそれぞれに対価を払ってビジネスとしてやっていく方法もありますが、ビジョンに共感し、ライフワーク的に関わってもらう人を増やしていくのが理想。そうやって新しい取り組みを作り出していけると、クラブ運営にも広がりが生まれますからね」

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クラブ名に「シティ」と付けたのは、イングランドのビッグクラブ、マンチェスター・シティにあやかったのかと、てっきり思っていた。

 

しかし、そのわけを聞くと山内さんは、

「大した理由はないんですよ」と言って笑った。

それでも──。

 

「地方から東京に出てきた人は、職場くらいしか居場所がないんです。昔からスポーツは地域コミュニティーの重要な要素だと言われてきましたが、それは地方に限ったことではなく、東京でも意外にみんなつながりがなくて、SNSではつながっていてもリアルにつながってはいない。けれど、SNSでつながっていたスポーツ好きが集まると、強いつながりになって、そこから新しいものが生まれていく。若い人たちの居場所づくりも、スポーツができることだと思うんです」

 

そう熱く語る言葉に、「シティ」に込められた想いが見え隠れした。

従来のサッカークラブとは一線を画すTOKYO CITY F.C.。

彼らの今後の取り組みから、目が離せない。

INFORMATIONTOKYO CITY F.C.が2枚目の名刺としてスポーツに携わりたい人に向けたイベント開催!

TOKYO CITY SPORTS MEETING #スポミ

「ライフワークとして携わるスポーツビジネス」

・開催日時:2018年8月3日(金)19:30~21:30 (※受付開始は19:00〜)

・会場:TOKYO CITY F.C. 渋谷オフィス

・対象:スポーツに関する仕事に興味のある学生及び若手社会人

・参加料金:一般2,500円・学生1,500円(軽食代込み)

・登壇者:細野 雄紀氏(JX通信社取締役COO)

中村 友美氏(アメアスポーツジャパン株式会社)

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吉田 治良(よしだ・じろう)

吉田 治良(よしだ・じろう)

サッカーダイジェスト、ワールドサッカーダイジェストの編集長を歴任し、現在はフリーのライター兼エディター。1967年生まれ。