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「資金」と「経営支援」を提供する「ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京」

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いま、社会貢献のスタイルが変わってきている。これまで、いわゆる社会奉仕型のボランティア活動が社会貢献の一般的な方法だった中、近年「成果志向型」の社会貢献方法として「ベンチャー・フィランソロピー」が現れている。そこでは、社会課題を解決する活動への様々な投資を行い、その成果を「社会的インパクト」を生み出すことを目指している。

このような、スタイルが日本ではどのように実践されているのか、2003年に日本初のベンチャー・フィランソロピー組織として設立されたソーシャルベンチャー・パートナーズ東京 代表理事の岡本拓也氏に話を聞いた。

 

支援ではなく、投資・協働

 

ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(SVP東京)は、社会課題の解決に取り組む革新的な事業に対して経営支援をするNPOだ。

他の中間支援組織と大きく異なる点は2つ。1つは、年間100万円を限度に資金を提供すること。しかもこの資金は「パートナー」(SVP東京では、会員のことを、「共同事業主である」という意味を込めてこう呼ぶ)が払う会費(1人年間10万円)の中から拠出される。もう1つは最長2年と長期にわたり支援する点だ。支援先のフェーズは2年の間で様々に、そして大きく変化する。SVP東京のパートナーは、それに伴走しながら組織の経営基盤の強化や事業支援を実施する。

SVP東京代表理事の岡本拓也氏はこう説明する。「スタートアップに必要なのは、資金と経営支援。SVP東京は、まさにこの2つを提供する。出資する100万円の使途を聞くには聞くが、細かく報告してもらうことはしない。100万円は決して大きなお金ではないものの、創業時に自分たちの裁量で自由に使えるお金があることは、成長へのインパクトがある」

これは「ベンチャー・フィランソロピー」と呼ばれるモデルだ。資金やリソース、経営における専門性を非営利組織に対して長期的に提供することで、その組織力と活動の継続性の向上を図ることを狙う。1990年代に米国西海岸で始まり、ベンチャーキャピタルのモデルを応用し発達してきた。

SVP東京が加盟するSocial Venture Partners International(SVPI)は、97年に米シアトルで創設。そもそもマイクロソフトの社員がビジネスで成功を収めた後に、自分たちのスキルと経験が非営利セクターでも役立つと考えて設立した団体だ。現在、SVPIの加盟団体は世界10カ国、40地域に広がる。そして、岡本氏は2015年からSVPIの理事も務めている。

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「投資家というより伴走者として、いかに一緒にインパクトを出していくかに主眼を置いた活動をしている」と岡本氏は強調する。SVP東京では「支援」ではなく、「投資・協働」という言葉を使う。支援する側とされる側の関係ではなく、共に社会を変えるパートナーの関係であることを重視しているからだ。

2003年の創立からこれまで、SVP東京が投資・協働してきたのは35団体。例えば、病児保育のフローレンスは初期投資先の1つだ。サービスインの直前に投資が始まり、財務計画やブランディングを全面的にサポート。事業規模が10 億円を超えるまでに成長した今も、SVP東京のパートナー2人が理事として関わっている。

街中でワンコイン検診を実施するケアプロは、創業3年目の2010年から協働をスタート。12年1月には第三者割当増資の引受という形で成長資金を提供、株主となった。これはSVP東京として初めての試み。「IPOを目的としない社会企業に対する株式投資は世界的に見ても担い手が少ない。今後とも社会企業支援の新たなあり方の確立を目指していきたい」(岡本氏)。

 

「セオリー・オブ・チェンジ」が選定のカギ

 

SVP東京が協働した投資先は各分野で目覚しい成長を遂げている。こうした先をどう選んでいるのか。毎年3、4月頃、投資先を募集。投資先として募集する組織の活動分野(イシュー)はあえて絞らない。広い範囲で、社会の変革に取り組む組織を募集している。例年50件程度の応募があり、その中から3~5団体が投資協働先として選定する。100万円の資金と5人以上のチームで組成したプロジェクトチームで原則2年間、組織基盤の強化に向け伴走し、問題解決へのインパクトを高めることを目指す。

選考基準には「起業家精神」「事業モデル」「共感性」「社会的インパクト」「SVPとのマッチング」の5項目を設定しているが、最も重視しているのは「セオリー・オブ・チェンジ」だ。セオリー・オブ・チェンジとは、社会課題がどのような負のサイクルから発生しているのかを分析し、正のサイクルにシステムごと変えていくフレームワークをいう。

1990年に米国で創設された教育NPO「Teach For America」(以下、TFA)を例に説明しよう。TFA は教員免許の有無に関わらず、米国内の一流大学の学部卒業生を2年間、国内各地の教育困難地域にある学校に常勤講師として赴任させるプログラムを導入。今や年間予算は300 億円、同様の仕組みを世界35カ国以上で展開する。

質の高い教育を受ける機会が乏しい→高等教育へ進めず、いい仕事につけない→低所得で自分たちの子供も貧困に陥る、という悪循環にどうアプローチするのか。TFAの創設者は、質の高い教育を提供できない教師がレバレッジポイント(問題解決のテコの支点)だと考えて、貧困地区に優秀な学生を教師として送り込むことで課題解決につなげた。「このモデルの何が優れているのか。事業として儲かるからじゃない。問題解決の視点とモデルがすばらしいから。だからSVP東京でもセオリー・オブ・チェンジに重きを置いている。実際、留職を手掛けるクロスフィールズはこれが大きな決め手になり、まだ創業して間もないサービス開発前の同法人を投資恊働先に選定した」(岡本氏)

ビジネスモデルや事業計画よりも、協働先組織のビジョン、セオリー・オブ・チェンジを最大限に重視して協働先を選定する。その先に具体的なビジネスモデルや事業計画を一緒に創りあげていくことで、協働先とSVP東京のパートナーが共に成長することができるのだ。

 

普段の仕事では得難い醍醐味

 
パートナーは毎年10万円を出資し、さらに自分たちのスキルを総動員してソーシャルベンチャーに伴走していく。SVP東京のパートナーは累計で約250人、現在は約120人が在籍する。男性が6割以上を占め、年代は20代から60代。新卒から上場企業の社長経験者までと幅広い。学生時代から国内外問わずボランティア経験がある人が多いのも特徴だ。継続率は9割で、平均在籍年数は4、5年という。「SVP東京はパートナーが個人で10万円のお金を拠出している。それも決して少ない金額ではない。それでも社会課題の解決につなげていく活動に手応えや価値を感じ、本気でコミットしたいというメンバーが集まっている」。

活動は平日の夜や土日が中心だ。月に5 〜10時間程度が一般的だが、パートナーによっては投資先へのサポートに3カ月で100時間を費やす人もいる。チームリーダーになると投資先から毎日のように電話がかかってくるほど、深い信頼関係を築いている。

「投資・協働先のサポートにかけるコミットメントは本物だが、それだけ得られる学びや成長は大きい。起業家と2年間、正面から対峙することで心に火がつくようだ。社内でプロジェクトを起こしたり、転職したりするほか、起業する人も目立つ。また投資先に請われて、役員として入るケースも少なくない」(岡本氏)
SVP東京では、これまで、パートナーの人数を積極的に増やす方針は採ってこなかった。それは、社会変革に挑む協働先に伴走する、という活動の特性上、パートナーの信頼性を担保することを重視してきたからだ。しかし、活動開始から10年以上経ち、創業当時はクローズドな人間関係の中から立ち上がってきたコミュニティを、どのように信頼性を担保しつつ、さらに広げていくか、まさにこれからのチャレンジと捉えている。

 

企業・行政へのモデルの広がり

 
このようなモデルを広げていくために、最近は企業との連携に力を注ぐ。現在、パートナーの会費のほか、資金の半分はここから得ている。UBSは2009年からコーポレートパートナーとしてSVP東京の活動を支援。投資・協働先を支援するプログラムを共同で実施している。アクセンチュアにはSVPを卒業した団体を紹介し、コンサルタントのスキルを活かした経営参画をコーディネートしている。

また、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)はSVP東京のモデルを自社で実施している。自ら協働先の団体を募集・選定し、約半年間、組織の経営・事業に伴走しながら、共に社会的インパクトを創り出すことに挑戦している。「きっかけは、『SVPのパートナーはすばらしい』と実感したことから。このモデルを採用すれば、自社社員もあんなふうになれるはずだと考え、取り組みを開始したところ。役員が非常に乗り気で、変化が起き始めている」(岡本氏)。
さらに、  このような取り組みは、行政にも広がりつつある。2016年3月には、内閣府より社会課題解決への投資の成果をどうやって測定・評価するか、についてまとめた「社会的インパクト評価の推進に向けて-社会的課題解決に向けた社会的インパクト評価の基本的概念と今後の対応策について-」が発表され、国としてもベンチャー・フィランンソロピーを、後押ししていこうという機運が高まっている。

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自らがチェンジメーカーに

 
SVP東京は以下のミッションを掲げている。

SVP東京は、パートナー個人が自らの動機や情熱に基づいて、自らの時間、資金を投資し、専門性を発揮することを通じて、投資・協働先たるソーシャルベンチャー(社会的な課題に対し革新的な進歩をもたらそうと試みる事業)との共同事業に取り組む場である。

SVP東京は、志ある個人のコミットメント、別の個人の勇気とやさしさを引き出す、ポジティブな共感再生産の場である。自分を見つけ、友人を見つけ、生きる意味を見つける。肩書きを離れ、自立した自由な個人として歩き始めるための道場である。

社会課題の解決に取り組む組織はどれも革新的な事業を行っている。それを支援するSVP東京自体もまた、常に変化していくことを目指している。

「現状に満足しているわけではない。今後も枠にとらわれず、新たなことに積極的に挑戦していく考えだ。その1つとして、社会的課題の解決につながる事業への投資を指す『社会的インパクト投資』を、ケアプロ株式会社への出資以外にも増やしてゆく構想がある。我々が掲げるミッションは、ソーシャルベンチャーへのコミットメントであると同時に、参加している個人が自らチェンジメーカーになっていこうという意思の表明だ」(岡本氏)

 

注)本記事は、二枚目の名刺ラボ(2016/3/27開催)でソーシャルベンチャー・パートナーズ東京代表理事の岡本拓也氏が説明した内容と質疑内容をもとに作成しております。

 

(荻島央江)

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