公務員が市民・議員・行政マンを繋ぐために立ち上げた「NPO法人6時の公共」設立イベントレポ

潜入「6時の公共 法人設立記念トークイベント・祝賀パーティ」

4月下旬の金曜の夜。とあるレストランのバンケット。
思いの外おしゃれな会場の雰囲気と100名ほどのお客で埋まった客席の熱気に鼓動が早くなるのを感じながら、司会者に促されて私はマイクを持ちスクリーンの前に立った。

まさか地方公務員の私が“トークショー”などというものに出演して話をすることになるとは……。

6時の公共

そこは昨年12月に設立された「NPO法人6時の公共」の設立記念トークショー&祝賀パーティの会場。私は“公務員のプロボノ活動を推進する者”という立場でそのトークショーに出演し、日頃、さいたま市役所で地方公務員として働くかたわらで、公務員のキャリアに関する活動をする任意団体の代表を務めるとともに、NPO法人二枚目の名刺でプロジェクトデザイナーとして「公務員×2枚目の名刺プロジェクト」を立ち上げた経験などから話をさせていただいた。

トークショーでは、出演した4名と6時の公共の代表理事である仁平貴子氏から「公務員は役所の外に出た方がいい」「公務員のパラレルキャリアを後押しするもの」など様々なメッセージが発信され、祝賀会では6時の公共に様々な想いを寄せる公務員、議員、学生、団体職員など多様な参加者が互いに交流した。

本稿では、トークショー出演者として、そして祝賀パーティ参加者としてそのイベントの様子とイベントから感じ取った6時の公共の今後の可能性などについて報告したい。

NPO法人6時の公共
「自分たちのまちは自分たちでつくる」社会の実現を目指して地方公務員が中心になって設立した団体だ。団体の説明資料によると、市民・地方議会議員・自治体職員の間の学びの「翻訳者」、対話の「媒介人」となり、信頼関係でつながった多くの“まちづくりのプレイヤー”を育て、社会の課題解決に向けた新しい知恵の結集と各プレイヤーの実社会における立場からの主体的な行動変容を促すために、①まちづくりや行政の仕組みなどについての学習会の開催、②メールマガジンやSNS等を活用したまちづくりプレイヤーの意識を涵養する広報・啓発、そしてゆくゆくは③まちづくりに関する教育教材の作成及び普及まで手がけることを計画している。

“自分たちのまちは自分たちでつくる社会”の実現を目指して

4月27日(金)の夜に千葉市内で開催された「6時の公共 法人設立記念トークイベント・祝賀パーティ」は、NPO法人6時の公共の考えに賛同する人、今後の活動に関心を持つ人など100名余りの参加者が集まり、盛況のうちに開催された。

6時の公共

冒頭、代表理事の仁平氏はスピーチで以下のような内容を参加者に伝え、今後の活動への参加と協力を呼びかけた。

・県庁職員が中心の勉強会が、いつの間にか民間の人や議員の参加者も増えてきた経緯
・“市民、地方議員そして地方公務員。地域課題に対して3者の解決方法のイメージがバラバラ”という設立者としての問題意識
・“「自分たちのまちは自分たちでつくる」社会の実現”という団体としてのミッション
・オンラインでの視聴も可能な学習会の定期的な開催をすること

話はイベントから離れるが、市民である皆さんは、自分の住んでいるところがどんな街で、今後どのようになっていくのか知っているだろうか。

例えば、働く場所を増やすために企業を呼び込もうとしているのか、子育てしやすい環境を整えようとしているのか、交通の便を良くして高齢者に優しいまちにしようとしているのか。

本来、それを決めるのはこの街に住んでいる私たち自身だ。

でも、実際のところそれを自分事として考えている人がどれだけいるだろうか。「それは政治家が考えることだ」「それは役所が考えることだ」、心のどこかでそんな風に思っていないだろうか。市民にとってどこか他人事のまちづくり。

そんな市民が少なくない中で、市民の声を集める地方議員は、声の大きな一部の市民の影響を受けやすいという難しさがある。また、本来なら地域のニーズと行政との橋渡しを期待されているにも関わらず、「○○はできないのか」などと住民の要望を届けることに終始しがちである。

では、プロであるはずの行政マンはどうだろうか。行政マンもそれぞれの“持ち場”で努力はするものの、“「自分ごと」として課題解決にあたる余裕がない。市民の声に寄り添ってばかりもいられない、組織や制度の壁にジレンマだってつのる。”(NPO法人6時の公共HPから)

そんな状況を6時の公共は、“(市民と議員と公務員)3者の関心、解決方法のイメージがバラバラ”と表現する。彼らは定期的な学習会の開催を通じてその3者を学びや対話によって結びつけ、「自分たちのまちは自分たちでつくる」社会の実現を目指している。

6時の公共は、代表理事の仁平氏が千葉県庁の職員であるのを筆頭に、理事らメンバーの大半を千葉県内に勤める地方公務員が占めている。公務員も職場での名札を外せば、まちづくりについてもっと本音で議員とも市民とも語ることができ、3者が繋がることができるのではないか。そのための場を自分たちの手で作ろう。そんな仁平氏の熱量に心を動かされたメンバーで設立されたNPO法人だ。

行政マンは触媒・コーディネーター・応援団であれ

続いて、“地域で活躍する公務員の新しい働き方や地域貢献活動への理解を広げる”という狙いで開催されたトークショーには私を含め4名が出演し、仁平氏がコーディネーターを務めた。

トークショー出演者
くとの 氏 (ニコニコ学会β運営委員長)
加藤 年紀 氏 (株式会社ホルグ 代表取締役社長)
小松 孝之 氏 (株式会社ちばぎん総研 調査部 部長)
島田 正樹(さいたま市職員/公務員キャリアデザインスタジオ代表/NPO法人二枚目の名刺メンバー)

まずは、各出演者が3分間の持ち時間で『自己紹介と活動紹介』の話をする時間。

トップバッターの加藤氏は、自治体応援ウェブメディア『holg.jp』を立ち上げた経緯や、その運営者として、全国各地で活躍している地方公務員にインタビューをしてきた経験などを紹介した。

2番手となった私からは、公務員キャリアデザインスタジオの活動やNPO法人二枚目の名刺のプロジェクトの話をお伝えした。

3番手の小松氏は、自治体の調査や戦略策定などを支援するコンサルタントとして、千葉県内の地方創生や市民協働の取り組み、そこから感じる、地域、そして地方公務員の特徴や問題意識などを紹介した。

最後の くとの氏は、国立大学教員で異性装者という2つの顔を持ち、ニコニコ学会βというユーザー(市民)参画型のイノベーション創出のコミュニティ運営の経験もあることなどを中心に、自身の活動などについて紹介していた。

出演者はそれぞれの特徴的な経験をもとに大変興味深い話をしていたが、中でも小松氏のこのメッセージが印象に残っている。

“まちづくりは化学反応。行政マンは触媒であるべきであり、コーディネーターであるべきであり、そして応援団であるべきだ”

DSC_3426

行政マン、特に地方公務員の仕事は今、大きな変化のときを迎えている。地方分権の進展に伴う役割の変化に加え、地方創生や人生100年時代の到来、AIやIoTといった技術の進歩などに伴い、地方公務員のこれからの在り方が描きにくくなっている。それが現役の地方公務員としての私の実感だ。小松氏のメッセージは、私を含む、その日会場にいた多くの“当事者”たちにヒントをもたらしたのではないだろうか。

「俺が許す」と背中を押してくれた上司

各出演者からの“3分間スピーチ”のあとは、いよいよ4名が並んでのトークショー。

6時の公共の代表理事の仁平氏がコーディネーターを務め、彼女が投げかける問いに各出演者が答える形で、トークショーは進んでいった。話題の中心となったのは、“公務員が如何に役所の外に出ていくか”

6時の公共

公務員が如何に役所の外に出ていくか、つまりは2枚目の名刺を持つかという点では、例えば公務員のパラレルキャリアをどう思うかと問われた小松氏から「どんどん出た方がいい。(東北の被災地でのお話を紹介しながら)千葉の公務員は控えめな印象があるけれど、実は温かくて誰かの支援が好きな気質があるようだ」といった後押しするようなコメントも。

また、国立大学教員でありながら、異性装者でもある くとの氏 からは所属する組織からみ出した活動をする際の実体験として、俺が許すと後押ししてくれた上司の存在があったことなどが明かされた。くとの氏 は「好きでとことんやれば評価してくれる人はいる。レベルの高い低いではなく気持ちだ」と組織の枠に収まらない活動に対するエールも送った。

僭越ながら私からは「自分の人生は仕事ではなく自分のための人生。仕事に全力で取り組み成果を出すのはもちろんだが、人生の目的のために仕事を利用する視点も時には必要。それでも自分の人生の目的のために成し得ない何かがあるなら、2枚目の名刺で挑戦すればいい」とご提案した。

公務員との対話と繋がり

トークショー終了後、レイアウトが変更され、祝賀パーティが始まった会場。多くの参加者がお酒を片手にあちらこちらで交流している中、私は時間の許す限り参加者一人ひとりから“6時の公共に期待すること”をお聴きした。

6時の公共

ある地方議員は「公務員の生の声が聴きたい。素の公務員と会いたい」と答え、市民団体を作りたいと考えている学生は「公務員と学生が交流し対話できる機会として期待している」と答えてくれた。また民間企業に勤める参加者からは「テーマによって繋がるコミュニティができることを期待している」といった声も聴こえてきた。

上記も含め、多くの参加者の答えに共通した想いとして私が感じたのは、「公務員との対話と繋がり」への期待だ。正直、こんなに公務員と対話したい、繋がりたいと思っている人がいるとは想像していなかった。

6時の公共の活動が、役所に籠もりがちな公務員と民間の人たちが対話するキッカケになると同時に、公務員ばかりが集まりがちな従来の“勉強会”がもっと民間の人も参加しやすいコミュニティに変わること。これらは本来なら公務員の変化から始まるものだが、6時の公共がNPOとして場を創ることで、公務員と民間の人たちとが対話し、両者の間に繋がりが生まれるような場が自然と生まれてくるような気がした。

一方の公務員にとって、この6時の公共の活動とはどんな意味があるのだろう。

ある公務員はこう答えてくれた。
「何か新しいことをやるキッカケにしたい。公務員以外に民間の人と交流できることを期待している」

こんな風にキッカケを探す公務員が役所の外で民間の人や地方議員などと出会って、何か新しいことが始まる、それは例えば2枚目の名刺を持って自らの価値観に基づいた何らかの活動の始まりになることもあるだろう。

6時の公共というNPOとそれを率いる仁平代表理事には、公務員はもちろん民間もアカデミアも誰も彼も巻き込みながら、そこへと向かうことが期待されている、そんなことを会場に集まった多くの人の“声”から感じた。

6時の公共

公務員の“2枚目の名刺”のロールモデルに

この日、仁平氏はメディアからの取材に対して「6時を境にしたオンとオフの違いというのを意識している。公務員には日中はこらえていて、オフになればやれることもある」と話していた。自らが現役公務員でありながら、本当に創りたい社会の実現のためにNPO設立という形を選んだ仁平氏の気持ちが強く滲んだコメントだった。

彼女自身がそうであるように、これからの社会では自らが成し遂げたい何かのために、本来の仕事とは別にNPOなどの団体を創る、または志を同じくする団体に参加するという形は広がっていくのではないだろうか。それはNPOのような法人ではなく、任意団体であったりプロジェクトであったりする場合もあるだろう。

いずれにしてもそんな変化の中で、自らの価値観に基づき創りたい社会の実現に向けて“2枚目の名刺”を持つ公務員のロールモデルとなると同時に、役所の外での活動を求める公務員に“2枚目の名刺”を持つキッカケとなる場を創り出す。仁平氏そして6時の公共というNPOは、これからの社会でそんな役割を引き受けてくれるのではないだろうか。

 

写真提供:NPO法人6時の公共、小関一史

【参考】
 NPO法人6時の公共 Website

The following two tabs change content below.
島田正樹

島田正樹

さいたま市役所に勤めながら、NPO法人二枚目の名刺「公務員×2枚目の名刺プロジェクト」のプロジェクトデザイナーとして活動。その他、学生に公務員のリアルを伝える活動や、公務員が自らのキャリアと向き合う場づくりなどにも取り組む“パラレルキャリア実践者”。ブログで日々情報発信中。https://ameblo.jp/shimada10708 http://magazine.nimaime.com/shimadamasaki_interview/