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ラテン語の「Pro Bono Publico(公益のために)」を語源とする「プロボノ」。社会人が職業上のスキルや専門知識を生かし、社会課題解決に取り組むNPOなど非営利組織を支援する活動のことだ。ここ数年で、プロボノという⾔葉は着実に浸透。ビジネスパーソンが寄せる関心は高く、プロボノ活動を推進する団体も増えている。

そんなプロボノがどのように日本で始まり、これまでの経緯を歩んできたのか。2005年、日本でのプロボノの先駆者として産声をあげたNPO法人サービスグラント 代表理事の嵯峨生馬氏に話を聞いた。

NPOの組織基盤強化を実現する取り組み

プロボノを通じてNPOを応援するサービスグラントは、プロボノワーカーとNPOをマッチングする、いわゆる中間支援型NPOだ。代表理事の嵯峨生馬氏は、サービスグラントのマッチングにおける最大の特徴は「支援先の基盤強化につながる成果物を提供することにある」と強調。プロジェクト前に契約書を結び、成果物の内容には徹底的にこだわる。

嵯峨氏の経験によると、サービスグラントの活動以前、NPO等の団体には、様々なメンバーが出入りしつつも、アドバイスや情報提供に終始することが多く、多様なメンバーの力を上手く成果として形に残すことができなかった。そういった背景を踏まえて、サービスグラントが運営するプロボノ活動は、成果物を明確に設定しプロボノワーカーの支援が終わった後も、組織の活動基盤といった仕組みが残るようにすることを重視している。

具体的には、ウェブサイトやパンフレットなどの印刷物をはじめ、ファンドレイジング(資金調達)関連で言えば寄付者や支援者を開拓するための営業資料作成や、運営マニュアル、事業計画、マーケティング基礎調査などがある。「NPOにはノウハウがたくさんあるが、残念ながら暗黙知の部分が多く継承されていない。NPO自体の世代交代が大きな課題となる中、こうしたノウハウを形式知化していくニーズは今後ますます増えていくはず」(嵯峨氏)。

働き盛りの世代が身近に感じられる工夫

2005年、3件のプロジェクトを20人のプロボノワーカーで手掛けたところからスタートしたサービスグラント。現在(2014年度)のプロジェクト実施件数は1年間に73件、支援先NPOの活動分野は医療・福祉、子ども・教育など多岐にわたる。サービスグラントにスキル登録をしたプロボノワーカーは2384人(2014年度)。このうち半数以上は実際の活動に参加しているという。登録者は20代後半から50代までと幅広い。男性が6割前後を占める。最近の傾向として40代、50代が増えてきている。

一般的に、ボランティアの参加層は「M字曲線」を描き、大学生や退職後のシニア世代が主な参加層であったが、プロボノワーカーとしてスキル登録するメンバーは働き盛りの世代が多い。サービスグラントでは、こういった層がプロボノを身近に感じ、参加できるよう運営の工夫をしている。通常、プロボノワーカーは5,6人のチームを作ってNPOの支援プロジェクトを行い、メンバーは「3〜6カ月」「週5時間」を目安にプロジェクトに参加する。嵯峨氏はチーム制を採用した理由を「個々人でNPOに参加すると、本人にかかる負担が大きい。何人かで取り組んだほうが楽しいし、切磋琢磨してもらえるのではないかと考えた」と説明する。(嵯峨氏)。

また、3〜6カ月にわたるプロジェクト期間中のモチベーションを維持するために、参加者に細かく役割を設定している。ずっと同じペースではなく、例えばマーケッターやビジネスアナリストなら前半、上流の部分で活躍するといった具合だ。

このような運営の工夫もあり、サービスグラントへの登録者のうち、46%がボランティア未経験者だ。「社会貢献への意識はみなさん共通して持っていると思うが、それを強く意識している人は感覚的には全体の10%程度。『会社の仕事の中だけではない他の場所で自分のスキルを生かしたい』『他社の人たちと何か新しいことに挑戦し、視野を広げたい』という動機で参加する人が多い。2、3割がリピーターだ」(嵯峨氏)。

さらに、リピーターの参加者にはできるだけ違う役割を与えるようにもしている。マーケッターならプロジェクトマネジャー、プロジェクトマネジャーならアカウントディレクターといったように、様々な関わり方を提示している。嵯峨氏は今後、目指す姿として「今のテーマはいかに自分たちの仕事を減らして、いかにプロボノワーカーに任せていくか。事務局が運営するプロボノから、プロボノが運営するプロボノにしていきたい。実際、その担い手がどんどん育ってきている」と話す。

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プロボノスタイルの広がりと多様化

サービスグラントのプロボノワーカーは年々増えている。いわゆる現役世代から、より多くの人が自分に合うスタイルで参加できるよう、サービスグラントではプロボノスタイルを多様化してきた。

例えば、プロボノワーカーが取り組む成果物については、活動当初は、Webサイトの制作が主であったが、参加者・NPOのニーズの多様化に合わせて、パンフレット・営業資料、運営マニュアル作成や事業計画、マーケティング立案、などメニューの幅を広げてきた。また、取り組みが広がるにつれて、企業や行政等との協働も実施するようになった。今もNECやパナソニックなどと「企業プロボノ」での協働を続けている。企業の社員が組織横断のチームを作り、NPOの支援を行うことで、企業のCSR活動が社内外に認知され、また、社員としても満足度が高まる取り組みとして注目されている。2014年度の企業との協働プロジェクトは20件。行政との取り組みが21件、財団が2件あった。

さらに、最近では、より多くの層が参加できるよう、取り組みのスタイルも多様化している。その1つが、1日体験型の「プロボノ1DAYチャレンジ」だ。団体内部の課題の棚卸や優先順位付けをする「課題整理ワークショップ」のほか、Facebookの立ち上げやイベントのチラシ作成など比較的軽めの負担で参加できるようにした。「最近は3〜6カ月のコミットメントは難しいという人が少なくないので、短期プログラムを導入した。1DAYチャレンジと銘打つものの、当日集まっていきなり取り組むというわけにはいかない。事前準備をしたうえで当日に臨むというスタイルにしている」という。

このほか「ホームタウンプロジェクト」では、行政や町内会・福祉団体など地域コミュニティが抱える様々な課題解決を応援する。「ふるさとプロボノ」は、少子高齢化、過疎化、経済的自立など日本の地域社会が抱える課題解決を応援する地域交流型プロボノプログラムだ。現地に実際に出向くのは1回だけだが、2泊3日で合宿を実施する。観光的な要素はほとんどなく、朝から晩までひたすらヒアリングを重ねるというストイックさ。そこでの情報を基に提案をまとめる格好だ。

育休中の女性が参加する「ママボノ」

また最近、注目を集めているのが「ママボノ」だ。育休中もしくは将来的に復職を考えている女性がプロボノを通じて復職に向けたウォーミングアップをするためのプロジェクトで、これまでに30人以上が参加している。

共働き家庭の自宅の片付け支援や草の根の国際交流を進める団体などを支援し、プロジェクトの進行管理やマーケティング、新規事業の提案を手掛けた。「待っていました」とばかりに素晴らしい仕事ぶりで、サービスグラント史上最高の190ページにわたる提案書を作成したチームもあったという。「育児による時間的制約が生じ、出産前と同じようには働けない。ママボノでプロジェクト管理やリーダーの経験を積み、いずれ管理職になったときに役立てたいという参加者もいた。育休中は豊かな時間。単にマイナスをゼロに戻すのではなく、ママボノの経験を通じて、何かプラスアルファされた状態で現場復帰してほしいと思う」。

ママボノ導入は、意外なことがきっかけだった。「支援先にどんなサービスを求めているかを調査したところ、『平日の昼間にサポートしてほしい』という声が非常に多くて驚いた。この時間帯に活動できるのがママだった」という。

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プロボノ元年を経て今

2010年は日本の「プロボノ元年」と呼ばれた。嵯峨氏がサービスグラントを立ち上げて約10年。プロボノを通じて、NPOを応援する仕組みを首都圏以外にも根付かせたいと、2011年より関西にも事務局拠点を置き、活動を広げている。さらに、それ以外の地域でもプロボノプロジェクトの運営ができるよう、「プロボノ・コーディネート人材」を育成する研修プログラムを提供する。

サービスグラントが掲げるビジョンは「社会参加先進国へ」。嵯峨氏は「社会課題の解決においても、基本的な考え方や行動様式が社会全体で共有され、そこに集まるたちが立場の違いを尊重しながら、当たり前のように協働できる社会。サービスグラントは日本を、世界を社会参加先進国にすることを目指して挑戦を続けたい」と意気込む。

注)本記事は、二枚目の名刺ラボ(2016/3/27開催)でサービスグラント代表理事の嵯峨生馬氏が説明した内容と質疑内容をもとに作成しております。

(荻島央江)

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二枚目の名刺 編集部

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