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2017.02.22

左京泰明さん(シブヤ大学代表理事)×野澤武史「「ラグビーと同じくらい情熱を注げるフィールドへ」

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【今月の二枚目ラグビー人】
左京泰明(さきょうやすあき)氏
NPO法人シブヤ大学学長。小学5年生でラグビーを始め、早稲田大学でプレー。主将を務めた4年生のシーズン、関東大学ラグビー対抗戦グループで11年ぶりの優勝、全国大学ラグビーフットボール選手権大会で5年ぶりにチームを決勝の舞台に押し上げる。卒業後は大手商社を経て、2006年より現職。

連載第5回はNPO法人シブヤ大学学長左京泰明さんとの対談です! 左京さんとは大学ラグビーの同期、共にキャプテンとして早慶戦を戦った仲でもあります。彼がシブヤ大学を通じて、どのようなうねりを社会に生み出そうとしているのか? 秩父宮ラグビー場からほど近いオフィスで話を伺いました。

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(今回は、シブヤ大学と同じく、2枚目の名刺を持つ人たちに活動の場を提供している二枚目の名刺のディレクター・安東が同席しました)

総合商社の経理部からパブリックセクターへ

野澤:これまでの連載では、「2枚目の名刺を持って活躍している人」にインタビューをしてきましたが、今回は左京自身が2枚目ホルダーに活動の場を提供していますね

左京さん(以下、敬称略):はい。まず僕の現在のメインの名刺は、NPO法人シブヤ大学の代表理事です。2006年から始めて、昨年9月で丸10年になりました。以前は総合商社で働いていたのですが、学生時代からビジネスセクターよりも“パブリックセクター”と呼ばれる公共機関で働く方に興味がありました。早稲田大学ラグビー部の先輩で、当時外務省にいた奥克彦さんが、国際的な場で志を持って働いていることに憧れていたんです。

総合商社では、「数字を見る仕事をしておくと後々絶対に役に立つぞ」と言われ、経理部に所属していましたが、約2年半勤務して退職しました。就職して1年が過ぎて、少しずつ社会人として働くことに慣れてきた頃から、「本当にこの会社の中でキャリアを積んでいきたいのかな…」と漠然と思い始めて。それで、当時大学時代の仲間たちと大手町のスターバックスに集まって、ちっちゃな勉強会を始めたんです(笑)。

安東:毎日やっていたんですか?

左京:いいえ、金曜日だけです。最初は自分が会社でしている仕事の話をしていたのですが、だんだんと「自分は今、こういうことに興味があるんだ」という話をするようになっていったんです。

野澤:そのように変わったきっかけは?

左京:2005年頃、国際的にソーシャルビジネスが注目されたタイミングがあったんですよ。「融資」という、ビジネスセクターで使われていた手法が、パブリックセクターの貧困層支援のプログラムとして使われて、ノーベル平和賞を受賞しました。これを見た時に、すごく面白いなと思ったんです。

さらに、日本ではまだ一般的ではなかったパブリックセクターの仕事に対するチャレンジ意欲がふつふつとわいてきて、やってみたくなってしまった(笑)。それで辞表を提出し、NPO法人グリーンバード(ゴミ拾いボランティアをするNPO)の理事長をしていた長谷部健さんを訪ね、活動に参加させて頂くことになりました。

ちょうどその頃、渋谷区議会議員の一人でもあった長谷部さんが、渋谷区の新規事業として提案していたのが「渋谷の街を丸ごと大学のキャンパスに見立て、自由に教えたり学んだりする」という、「シブヤ大学」のコンセプトにつながる仕組みや場づくりでした。

心から情熱を注げるフィールドへの挑戦

野澤:それをどうして左京が?

左京:議会で提案しても、なかなかうまく進まなくて。僕自身がNPOを自分で立ち上げてみたいと思っていたので、「この事業をNPO化して、私に代表をやらせてください」とお願いして、NPO法人シブヤ大学を作りました。

野澤:なるほど。立ち上げるまでに、葛藤だとか商社の上司に止められたりだとかもあったと思うんだけど、一歩を踏み出せたのはなんでだろう?

左京:一番大きかったのは、アーティスト集団チームラボの代表・猪子寿之さんとの出会いですね。ボランティアスタッフとして参加したセミナーの後で、「左京君は今、何やってんの?」と聞かれ、「いつかは自分でNPOを立ち上げて仕事をしたいけれど、今は準備期間だと思って会計の勉強をしています」という話をしたら、「no value(まったく意味がないね)」と言われたんです(笑)。「会計士になりたいの? 会計士が必要なら雇えばいいじゃん」って。その通りだと思いました。

“準備期間だ”と正当化しながら、決断することを先延ばしにしているんだと、今いる場所から飛び出してチャレンジできずにいる自分に気付いたんです。それで、次の日に辞表を提出しました。

安東:次の日に!?

左京:猪子さんにも「辞表を出しました」と伝えたら、「ホントに!?」と驚かれましたけど(笑)。

一同:(笑)。

野澤:左京の話を聞いていると、悩んでおくことの重要性を感じるよね。モヤモヤが目の前の景色を変えるきっかけになる。2005年は俺らが社会人3年目。僕は神戸製鋼でラグビーやって…何も考えていなかった(笑)。ひたすら自問していた話を聞かされると、正直、人間の器を感じずにはいられないよね。

左京:僕は大学でラグビーを辞めて、社会人になってからは違うフィールドで、ラグビーをやっていた時と同じかそれ以上の情熱を注げるような“何か”がしたいとずっと思っていました。ラグビーには選手生命があるけれど、仕事はずっと続けていけるじゃないですか。

「社会的な活動は儲からない」という常識を覆したい

野澤:シブヤ大学の活動をする中で、ターニングポイントはありましたか? 左京の志はどう変化していったのかな?

左京:自分の志というよりも、環境が変化したことの方が大きいかもしれませんね。例えば、2007年に講談社から『シブヤ大学の教科書』という本を出版したのですが、その頃書店に行ってもその本をうまく見つけることができなかったんです。ソーシャルビジネスというコンテクストだと思っていたので、ビジネス書のコーナーに行ってみたのですが置いていなくて。どこかな、地域のコーナーかな、と書店内を回っていたのですが…。

野澤:そうしたら?

左京:置かれていたのは「サブカルチャー」のコーナー(笑)。

一同:(笑)。

左京:今でこそ、どこの書店にもNPOやソーシャルビジネスの書棚がありますが、その頃はまだなかったんですよ。それがこの10年で変わったことの、一番わかりやすい例なのかなと思います。

野澤:なるほど。

左京:「社会的な活動や世のため人のためにする仕事は儲からないよ、世の中そんなに甘くないよ」っていう風潮があるじゃないですか。僕はそれが嫌なんです。「世のため人のためになることが儲からないと社会は変わらない。だから今の常識を覆すんだ! 世の中にとって役立つことこそが儲かる社会にするんだ!」と思っています。

だって、松下幸之助の時代はみんなそう言っていたでしょう。いつしか日本はそれを忘れちゃって、何となくビジネスがアメリカのようにfor profitだけになってしまっている気がします。

企業も個人も「何のためにするのか」という目的を持つべき

野澤:会社の仕事って、目標が与えられて、それを追っていけばある程度できると思うんだけど、パブリックセクターの活動って明確な目的がないとできないよね。「どこに誰を連れていきたいのか」というゴールがないとうまく成立しない気がする。

左京:そうですね。この前、廣瀬俊朗さん(元日本代表キャプテン)と対談する機会があったのですが、彼がチームのマネジメントで一番大事なものとして最初に挙げたのが「大義」でした。これは「目的」とも言い換えられますよね。今、ビジネスセクターに求められているのは「何のためにあるのか」という目的意識なのかもしれませんね。

安東:個人としても同じことが言えるようになってきていて、「何のために働くのかというミッションを持っている方が成果を出している」というデータがあります。

野澤:でも、トヨタのWHY5ではないけれど、何度も何度も自問して掘り下げないと目的は見えてこない。ミッションまで到達できるかどうかの差は何なのでしょう。

左京:一つは、「自問することがどれだけできるのか」ということですよね。日本人は小さい頃から考える訓練をあまりしてきていないので、考えることに慣れていないと思うんです。ミッションよりも、もっとプリミティブなこと、好きなことやワクワクすることって何だろう?というのを、子どもの頃からもっと考えて、試して、知っておくと良いのかなと思います。

P.F.ドラッカーの本の中にも書かれてある「自分のお葬式をイメージする」こともいいですよね。自分のお葬式に誰が参列し、何と言ってくれるのか。それを考えてみると、後で後悔するような毎日は送れないんじゃないかなと思います。

また、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で「あなたの愛するものを見つけなさい」と言っていましたよね。これは個人の幸せだけに留まらず、仕事をする上でも大切なことだと思います。寝食忘れて没頭できるくらい好きなことでないと目的を遂行したり、人よりも一歩秀でたりすることは難しいですよね。

趣味と仕事の境界線とは…?

野澤:かといって、自分らしく価値を世に生み出していくときに、ちょっと違った方向に行ってしまっている人っていないですか? ただ自分がやりたいだけのことと、世のため人のためになることとの境界線は何なんだろう?

左京:趣味と仕事の違いは「顧客がいるかどうか」だと思うんです。趣味の場合は、自分がやっていて楽しければいいじゃないですか。でも仕事の場合は、自分の提供する価値を買ってくれる誰かがいて初めて成立しますよね。価値というのは、自分が決めるものではなく、相手が決めるものなんですよね。

野澤:そこは2枚目の名刺の活動のキーになりますね。「人がわかってくれない」で止まってしまうとつらい。わかってもらえない自分と向き合って、ブラッシュアップさせていかなければいけない。価値をお客さんに提供していくことと、痛みを伴って成長していくことは両輪なんだ、というのが僕の考えです。

左京:どちらが正解ということはなく、どんな2枚目の名刺を持ちたいかにもよりますよね。趣味的に持ちたいということでももちろん素晴らしいし、仕事にしたいのであれば、先ほどのようなことが必要になってきます。

安東:「誰かに何かをやってあげる」という考えでやると長続きしないし、「何でやってあげたのに感謝されないの?」になっちゃうので、趣味と仕事の間ですることがあってもいいんじゃないかな、と私は思っています。

次の仕事は「渋谷の街づくり」と「若い人のサポート」

野澤:この後、シブヤ大学を通じて実現していきたいことは? もしかしたら、シブヤ大学に留まらないのかもしれないけれど。

左京:社会、あるいは渋谷という街だけを考えても、この10年間で大きく変化しました。僕が検討委員として参加した「同性パートナーシップ条例」が一昨年渋谷区で制定されましたが、今それをモデルにいくつもの自治体が同じ取り組みを始めています。国という単位では難しいことでも、街単位であれば一歩を踏み出しやすいんです。

全国の街のお手本になるような活動を他にも実施していて、例えば代々木公園で泊りがけの防災訓練を行ったり、子供たちのキャリア教育の一環として夏休みにシリコンバレーに連れて行ったりしています。こういった取り組みは、シンガポールや韓国といった海外からも問い合わせを受けているんですよ。

今の僕の仕事は、社会的課題の解決にビジネスの手法を使って事業として取り組んでいくことですが、そのアウトプットを渋谷という街で実践し、渋谷という街の情報発信力で世の中に提案していきたいですね。

もう一つやりたいことは、NPOに関わりたい若い人たちへの支援です。自分が工夫したことや悩んだことを元に、若い人たちが芽を出し育っていくことをサポートしていくことが、僕の次の仕事だと思っています。その二つですね、「渋谷の街づくり」と「若い人のサポート」。それが多分、これから10年、20年の仕事かなと。

野澤:こじつけると、「ゴールに向かっての揺さぶり」だね。早稲田のラグビーはまさに“揺さぶり”じゃないですか。ボールをワイドに動かす。でも、ワイドに動かすのは目的じゃないんですよ、目的はトライなんで。でも、揺さぶることによって相手のディフェンスを動かすわけじゃん。

話を聞いていて思ったことは、「社会やその場を揺さぶって、最後はそこにいる人たちをゴールに連れていく」っていうのが左京の目的なのかな、と。どうですか、こういうまとめ(笑)。

一同:(爆笑)。

左京:「揺さぶり」ね、いいと思う。

安東:渋谷という街を発信源に大きなうねりを作っていくという。

左京:揺さぶりたい(笑)!

野澤:うまくまとまったようで(笑)。今日はありがとうございました。

左京、今回はホントに貴重なお話ありがとう! 同期とは思えないほどビジョナリーで、話にどんどん引き込まれたよ。もっと自分も頑張らないと…考えてるだけじゃno valueだね(笑)。自分も2枚の名刺を使ってどんどん仕掛けていきたいと思った。半年後、飲みながらお互いの定点観測しよう!
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写真:ハラダケイコ
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野澤武史
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歴史教科書で有名な山川出版社で経営に携わる一方、日本ラグビーフットボール協会リソースコーチとして若手選手の強化・発掘を手掛ける。テレビ解説や、新聞・雑誌ので執筆も行い、著書には『7人制ラグビー観戦術-セブンズの面白さ徹底研究』(ベースボールマガジン社)がある。グロービス経営大学院卒業(MBA取得)。
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