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2016年のリオパラリンピックで日本を銅メダルに導いた、ウィルチェアーラグビー日本代表アシスタントコーチ・三阪洋行さんへのインタビューの続きをお届けします。

“草ラグビー”で育った三阪さんが、練習中にケガを負い、ウェルチェアーラグビーに出会うまでの軌跡
【前編】はこちら

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信頼を得るために、フレンドリーな自分になる

(前回までの話)ウィルチェアーラグビー連盟総務長の声かけでニュージーランドに留学した三阪さんは、言葉の壁に突き当たり、ホームステイ先の自室に引きこもってしまう。

野澤:その状況を打開するきっかけが、何かあったんですか?

三阪:留学して1ヶ月くらい経った頃に風邪を引き、ベッドの上で留学生活を振り返ってみたら、何も残っていないことに気が付いたんです。「変わろう」と決意してニュージーランドまで来たのに、知らず知らずのうちに受け身になっていました。語学学校でも、クラブチームでも、ただ目の前のことをこなすだけで、何一つ能動的に動けていなかったんです。「このままノコノコ帰れない」と、とても焦りました。

野澤:なるほど。

三阪:それで、「自分を変えるにはまず見た目から」と丸刈りにして、自分からコミュニケーションを取ることにしました。言葉は分からないけれど、まずは“自分がどんな人なのか”を知ってもらわなきゃいけないと思い、積極的に話しかけたり、食事に誘ったりしました。最初はうっとうしがられたんですが、「ヒロはそういうキャラなんや」と思ってもらえるようになりましたね。

野澤:親しくない人をご飯に誘うのはハードルが高いですよね。

三阪:めちゃくちゃ大変でしたよ。何かを聞かれても答えられないので、こちらからひたすら喋ることで会話を無理矢理成立させていました(笑)。そうしたら「面白いな、お前」となって、ランチをしたり、家に呼んでくれたりするようになりました。自分をさらけ出せば、相手も安心し、信頼が得られるんです。

野澤:相手の信頼を得るために、自分のキャラをつくる。面白いですね。

三阪:うっとうしいくらいに自分から働きかけていくことで、“愛されキャラ”という立ち位置に就くことができたと思います。おかげで試合中にも助かることがありました。ウィルチェアーラグビーは10秒に1回ドリブルをつかないと反則なのですが、僕忘れがちだったんですよ。そうしたら、「10セカンドって日本語で何て言うか教えろ」と聞かれて。大会に出ると、ベンチから「ヒロ、ジュウビョウ、ジュウビョウ!」ってニュージーランド人が日本語で言ってくれて(笑)。

自分を変えるきっかけ

「Are you OK?」が、コミュニケーションの仕方を変えてくれた

野澤:他にニュージーランドでの学びはありましたか?

三阪:日本とニュージーランドでは、障がい者に対する「対応の仕方」が異なりました。それを知ることができたのは大きかったですね。

野澤:というと?

三阪:車いすに乗っていると、ニュージーランドでも知らない人に声をかけていただくことがあるのですが、その時のフレーズは「Are you OK?」、訳すると「大丈夫か?」なんですよ。日本では「お手伝いしましょうか?」(「May I help you?」)ですよね。最大の違いは、手伝うことありきなのか否かという“前提”です。「“できない人だから”お手伝いしましょうか」なのか、「これは“できる”のか?」なのか。つまり、ニュージーランドは障がい者でも“できる”ことが前提。「でも、必要な時はいつでも手伝うよ」と続くわけです。この言葉のニュアンスの違いは大きいです。

野澤:深いですね。

三阪: 最初から「できない」と言われると、「いやいや、できますって。やってみなければわかりませんやん」と反発したくなることがあるんです。でも、「できる」ことを尊重してもらえると、できることは自分でやり、できないことは助けて欲しいと素直に意思表示できる。「障がいがあっても、自分は好きにやっていいんだ。もしできないことがあったら、その時は誰かが助けてくれるんだ」という安心感が得られたことで、考え方や人とのコミュニケーションの取り方が変わりました。

物事に本気で向き合ったことで、自分に自信が持てた

野澤:なるほど。いろんなものを持ち帰ったんですね。でも、ニュージーランドで得たものは、人から与えられたものではなく、三阪君が自らもぎ取ってきたもの。これは大きいよね。

三阪:そうですね。日本に帰国する前に、ホストファミリーがパーティーを開いてくれたのですが、僕がニュージーランドで出会った人たちのほとんどが来てくれたんですよ。最後、「帰りたくない」って1時間泣きっぱなしでした(笑)。その時、「俺、すごいことしたな」って思えましたね。

野澤:自分が物事にどんな姿勢で向き合うか、ですね。

三阪:本気で向き合った結果、留学前はあんなに嫌いだった自分に対して自信が持てるようになりました。それと同時に、期待もできるようになったんです。

野澤:それって、三阪君がちゃんと行動しているからだと思います。人は、立ち止まっている時ほどネガティブなことを言ったり考えたり、他人にベクトルを向けるじゃないですか。勝負している時って、そんなこと全く気にならない。留学する前は、ご両親が支えてくださる中で、考える余裕があったけど、留学中の4か月は「どこで飯食うねん」から始まって、突っ走っていたから無駄なことが思い浮かばなかったのもあるんじゃないかな。

三阪:余計なことは一切考えなかったですね。その日どう過ごすかだとか、そのために必要な準備で精一杯。前しか見ていませんでした。前例もありませんでしたから。

物事に本気で向き合った結果

障がいを持つ人が、外に出るきっかけを作りたい

野澤:2枚目の名刺の話に移りましょう。今お持ちの名刺を教えてください。

三阪:一枚目はバークレー証券という証券会社の社員です。アスリート雇用で働かせていただいています。社内業務のほかに、試合に出ることや普及活動をすることも仕事の一つ。コーチとして進んでいくことも支援していただいています。

野澤:素晴らしい環境ですね! 2枚目は?

三阪:日本ウィルチェアー連盟の強化副部長です。現在は日本代表のコーチをしたり、選手育成を担ったりしています。3枚目以降は名刺があるわけではないのですが、この競技の普及活動や講演活動、安全対策をやっていきたいと考えて動いています。最近、カウンセリングも始めました。「“障がい”という、同じ悩みを抱えた人たちのネットワークを作りたい」という想いがあります。

野澤:ネットワーク?

三阪:実は障がい者のうち、外に出られている人は約3割だと言われているんです。残りの7割の人は自宅の外になかなか出られていない。僕らみたいに外に出ている方がマイノリティなんですよ。僕も最初、外に出るのは不安だったし、実際に外に出てしんどいこともあったけど、それ以上に外に出て良かったとか楽しかったと思うことの方が多かった。自宅に引きこもっているマジョリティな方々が外に出て行けるようなアプローチを、何か仕掛けることができたらいいなと考えているんです。

三阪さんの2枚目の名刺

「できない」を「こうすればできる」に変えていきたい

野澤:将来の野望はありますか?

三阪:両手足に障がいがあって、自分で生活するのもままならない人たちが、サポートを受けながらトップアスリートとして活躍できる環境があるということを知ってもらいたいですね。街で車いすに乗っている人を見かけた時に、「何のスポーツ選手?」と言われるくらい、パラスポーツが市民権を得ることができればいいなと思います。

野澤:実際、三阪君たちのように国際大会でメダルを穫っているような選手もいるしね。

三阪:最近、小学校で講演をさせてもらう機会があるのですが、「障がいを持っている人が頑張っている」とは絶対思わせません。まずは試合の映像を見せて、「すごい競技だろ」と伝えたうえで、学校で一番強そうな先生を車いすに乗せて、僕が当たらせてもらうんですよ。

野澤:すごいインパクトでしょうね。

三阪:皆驚いてくれます(笑)。できないと思っていたことが、“こうすればできる”に変われば、自宅に引きこもっている7割の人も変わってくれるかもしれません。僕らのやっているスポーツには、それだけの価値や可能性があると思っています。

野澤:奥さんを見つけられる場合もありますしね(笑)。

三阪:そこはきっちりけじめをつけたと言うか(笑)。日本代表のトレーナーだった方と結婚しました。彼女には、ホンマに感謝しています。今この場にいるのは、奥さんのサポートのおかげですから。

野澤:うまい言葉でまとめましたね(笑)。今日は本当に素敵なお話、ありがとうございました!

できないをできるに

【前編】から読む

思い返せば、昨年4月に一緒に指導者講習を受けていた時は、まだリオパラでメダルを獲る前でした。時が経つのは早いなあ。今回の対談で僕自身すごく勇気をもらいました。明日を変えるには、自ら行動するしかない。分かっているようで、一番難しいことですね。三阪さんの夢が近い将来、叶うことを楽しみにしています!「銅メダル大泣きの裏側」「奥様とのエピソード」の素敵なトピックスがカットになってしまってごめんなさい(笑)。ですので、ぜひ第2弾やりましょう!
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写真:布川航太
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野澤武史

野澤武史

歴史教科書で有名な山川出版社で経営に携わる一方、日本ラグビーフットボール協会リソースコーチとして若手選手の強化・発掘を手掛ける。テレビ解説や、新聞・雑誌ので執筆も行い、著書には『7人制ラグビー観戦術-セブンズの面白さ徹底研究』(ベースボールマガジン社)がある。グロービス経営大学院卒業(MBA取得)。