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大阪朝鮮高校を全国強豪校に導いた、前大阪朝高ラグビー部監督・呉英吉さんへのインタビュー後編をお届けします。

全国大会に出場できなかった朝鮮高校を花園常連校へ。呉前監督のラグビー観の原点とは?>【前編】はこちら

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自分の物差しで見て、納得したことだけを教えたい

(前回まで:呉先生は2007年から8年間、大阪朝鮮高級学校ラグビー部の監督を務め、花園に7回、選抜に5回出場。花園のベスト4に2度・ベスト8に2度、選抜の決勝進出に1度、チームを導いた経歴を持つ)

野澤:凄まじい経歴です。呉先生がコーチングで大切にしていることを、ぜひ教えてください。

呉:自分が経験して、納得したことを教えることです。経験もしてないのにああだこうだいうのは嫌です。

野澤:ご一緒していても、呉先生には「今、これがトレンドですよ」とかは通用しないし、あまり信じない(笑)。

呉:「そんなもの、なんぼのもんじゃい」と(笑)。

野澤:でも、一度認めて「おいしい」ところがあると、どんどんそれを取り入れて、自分のものにしていかれる。いつも、まず先生の「物差し」に当ててから結論を出されているのだと思います。

呉:「好きこそものの上手なれ」ではありませんが、今でもラグビーは僕の中で仕事ではなく娯楽なんです。だから遊び心は忘れたくないし、人がしないことをやりたい。それが野澤コーチの言う「物差し」になるのかな。ちょっとひねくれ者なんです(笑)。

野澤:本質を見る眼はどこで養われたものですか?

呉:環境がすごく内向きだったことかな。それをいつも打破することを考えて行動していました。たとえば朝鮮小学校にはサッカーしかない。でも、僕は野球を習っていました。学校でのサッカーも大事だけど、僕は野球が好きなんだ、という気持ち。そこは他の子とは決定的に違いましたね。

野澤:そして現在は、非常に尖ったコンセプトでラグビーに携わっている。

呉:僕には何の違和感もないんですよ。韓国ラグビーにしても、高校の監督をして、日本ラグビーに携わって研修に行くのも、こうして野澤コーチと話すのも。逆に言えば、こうした垣根がないことがラグビーの一番の良さでしょう。

野澤:今でも覚えているのが、はじめて大阪朝高の夏合宿にお邪魔した時の、呉先生以外の「お前、誰やねん?」という雰囲気(笑)。

呉:OBは公式戦を知らない世代やからね(笑)。

野澤:でも、一回認めてくれると、本当にあったかかった。僕も慶応に16年いたので「内向きの人間」です。引退後、4年間母校でコーチをやって、その後リソースコーチとして、初めて自分から「やらせてください」とお願いしてコーチングをしました。呉先生と私の共通点を探すなら、僕もその「内」に留まりたくないんです。そのコミュニティから飛び出すことで、新たなものが生まれる、と考えています。

呉:わかりますね。

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次の世代にバトンをつなぎ、新しいことにチャレンジしていく

野澤:いよいよ2枚目の話に入りたいのですが(笑)、呉先生が2枚目の名刺であるNPO法人大阪コリアンフットボールクラブ(以下、OKFC)に参画することは、すごい変化だったと思うんです。

呉:自分で選んだということもありますが、出会いが重なってそうなったんです。

野澤:なるほど。

呉:たとえばOKFCの会長に初めて会った時、僕はそこから何かが始まるとは思ってもいませんでした。そうしたら後日連絡が来て、改めて会った時に「こんなことしたい」と言ったら「分かった」と。そこからですよ、すべての物語が動き出したのは。

野澤:呉先生を突き動かす原動力は、人との出会いなのかもしれませんね。

呉:最近は歳を取って、変化と決断を求められる周期がどんどん短くなってきています。「やらな」と「どうなんねん」という想いが、いつも混在しています。

野澤:それでも、前に進まなければならない状況に身を置いている。

呉:もちろん、高校ラグビーを見ると「ああ、やっぱりここもええなあ」とも思いますが、下の世代に任せることも必要ですから。

野澤:先生はいつもご自分で決断をされている。人生の責任を自分で取るというんですかね。その腹のくくり方が面白くて、ずっと先生と関わっていたいというのがあります。呉先生に言われると断れない。混じりっ気なしの真剣勝負なので、嘘がすぐばれちゃう。迫力がすごくあるんですよ。

呉:ありがとうございます(笑)。毎年5月に開催されるワールドユース(北九州で開催される、日本と海外の高校生が出場する大会)では、指導者たちも海外のやり方を見たりして、懇親会でお酒を飲みながら花園の話をしたりするんです。生徒たちのおかげでこういうところ(花園)に連れてきてもらって、こういう場で戦いができる。その舞台を用意してくれている生徒たちに感謝しているし。その部分を自分だけ味わうのではなく、若い指導者たちにも味わってもらいたい。みんなそんな想いを持っていますよ。

野澤:先生に以前お聞きした「バトン」の話を思い出しました。大阪朝高ラグビー部でも、自分の代はここまでと決め、それが終わったら次の指導者にバトンを渡していきたい、と仰っていましたよね。「勝つ」という野望を持ちつつも、次の世代にバトンを渡して、自分は新しいことにチャレンジする。多くの人が自分の都合中心で動いている世の中で、「ここまでやったら、次の人に任せなあかん」と言い切れる呉先生を、僕は素晴らしいと思う。

呉:自分の立場が変わると、出会う人も変わってきて、気がつけばそちら側の人とばっかり会っているんですよ。今だと、財界の方とか。「俺、そんな立場ちゃうねんけど……」と思いながらも、いい話が聞けたりする。

野澤:これが、2枚目の名刺の大事なところじゃないかなと思います。1日は24時間と決まってるじゃないですか。自分から発信するだけの人もいますが、呉先生には逆に人が向かってくる。人に好かれて「会いたい」と思わせないと、何かをしたいと思っても、時間が足りなくなってしまうと思うんです。呉先生自体がプラットフォームになっていて、そこに人や情報が集まってきて、それらが未来で結ばれていく。韓国版サンウルブズという夢の構想もそうでしょう。

呉:そうなのかな。

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相手の懐に飛び込み、人に支えられることでチャレンジできる

野澤:それと、キーパーソンを押さえるのも上手い!

呉:韓国ラグビー協会の副会長である崔さんに対して、公の場では「会長」と言いながら、2人で会う時は「崔センパイ!」と行くんですよ。そうすると「俺、会長だぞ?」って(笑)。

野澤:なるほど(笑)。

呉:それで飲んだ後に「さっき言いましたやん」ともっていくんです。すぐ言い寄っちゃうので、向こうも「急に親しくなったな」みたいな感覚だと思います(笑)。

野澤:だからなのか、呉先生の周りには仲間が沢山集まってくる。それも面白い方ばっかり。美やざき(夏合宿で大阪朝高が宿泊する旅館)の喫茶スペースはOBで満杯(笑)。

呉:夜10時以降ね(笑)。

野澤:私は本当にチャレンジできる人は、仲間に支えられている必要があると思います。そういう後ろ盾がないと、やっぱり怖くなってしまう。

呉:仲間の話で言うと、清宮監督(克幸、現ヤマハ発動機ジュビロ監督)の同期で大学時代早稲田日本一を経験した岩下伸行との出会いがありました。私がチョンリマクラブでプレーしていた時、たまたま彼が在籍していた名古屋クラブと対戦しました。その後、彼が勤務していたNHKで大阪に異動になり、当時花園の大阪府予選で決勝まで進出した大阪朝高を取材してくれたんです。それで、「ラグビーしないの?」と聞いたら「ラグビーやりたい」と言うんです。それで、チョンリマでやろうと誘ったのですが「ここは在日朝鮮人のチームだから無理や」という話がチーム内から出たのです。僕は「え?何言うてるんですか。僕ら日本ラグビーに認めてもらったんですよ。ラグビーってそんなんやないじゃないですか」と。そうしたら、「そうやな」と。その後、6年間一緒にプレーをし、共に本気で日本一を目指しました。

野澤:熱い話ですね。

呉:それで、一緒にラグビーをやって意気投合し、僕が監督の時はフォワードの強化をお願いしました。ホント出会いですね。僕はそういうことを遠慮せずに言ってしまえるんです。

野澤:「出会える力」に加えて「OKと言わせる力」が呉先生にはあるんです。呉先生に言われたらホント断れない(笑)。これって、人間性なんですよ。うわべの付き合いじゃないし、打算的じゃなし、何なんですかね?

呉:誰に言うかによって言葉の真剣味は違うけどね(笑)。

野澤:だから、ホント面白い。ここで喋れないような話もたくさんあります(笑)。

呉:清宮との出会いの話も面白いよ。あの時は、お互いこんな立場になるとは思いもしなかった…。だから、人と会う時ちゃんとせんとね。いつどうなるか分からない。

野澤:もっと激しい話を伺いたい方は、ぜひ、呉先生を直接訪ねてみてください(笑)。呉先生、本日はありがとうございました!

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【取材後記】

いつもグラウンド居酒屋でお会いしている呉先生と初めてかしこまって?お話しできました(笑)。抱腹絶倒あり、ハッとさせられる名言あり。僕自身にも多くの気づきがあり、大変有意義な時間となりました。先生の壮大な夢がどう進化していくか、今から楽しみです。ぜひ、これからも同じ目標に向かって仕事ができたらと思います。

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写真:本郷淳三

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野澤武史

野澤武史

歴史教科書で有名な山川出版社で経営に携わる一方、日本ラグビーフットボール協会リソースコーチとして若手選手の強化・発掘を手掛ける。テレビ解説や、新聞・雑誌ので執筆も行い、著書には『7人制ラグビー観戦術-セブンズの面白さ徹底研究』(ベースボールマガジン社)がある。グロービス経営大学院卒業(MBA取得)。