「“大人の学び”の提供を軸に名刺を水平展開するコーチングディレクター」野澤武史×中竹竜二さん

【今月の二枚目ラグビー人】
中竹 竜二(なかたけ りゅうじ)氏

公益財団法人日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター。1973年福岡県生まれ。早稲田大学人間科学部卒業。レスター大学大学院修了。三菱総合研究所勤務を経て早稲田大学ラグビー蹴球部監督就任。2010年、日本ラグビーフットボール協会、コーチングディレクター就任。2012年より3期に渡りラグビーU20日本代表ヘッドコーチに就任。また自身で会社も経営し、企業のリーダー育成に取り組んでいる。主な著書に『部下を育てるリーダーのレトリック』(日経BP)、『マネジャーの最も大切な仕事』(英治出版、監訳)

コーチがコーチングを学ぶことで、チームが進化できる

野澤:これまでの中竹さんのキャリアを教えてください。

中竹:いわゆるフルタイムのコーチになったのが、早稲田の監督に就任した10年以上前です。日本の多くの指導者と全く違うキャリアだったのは、ほとんどコーチの経験なく大きなチームの監督に、しかもフルタイムでなったこと。今考えても本当に大きなチャレンジだったと思うし、当時もそう思っていました。清宮さん(現ヤマハ監督)という偉大な先輩の後でしたから。

野澤:ヘビーですよね(笑)。

中竹:ただ、社会人にも勝った後でしたから、誰がやっても比較されるだろうし、ネガティブスタートだろうなと。逆に自分として腹を括れたところもありました。それであれば、私のようなキャリアがない人間がやることに意味があるのかなって。

野澤:なるほど。

中竹:監督になり、コーチングと出会い、どっぷり漬かって、実践しながら「コーチングに正解はない」ということを実感しました。2連覇できたのは、1年目のシーズンに決勝で大敗して、負けから学んだから。早稲田の監督を4年間やって、自分はこの道を誰かに譲って違うフィールドに進もうと考えていたときに、日本協会からコーチングディレクターの話が来て、「あ、コーチのコーチって大事だな」と思ってこの職に就いたんです。

野澤:話が来て、初めて「コーチのコーチって大事だな」と思ったのですか?

中竹:自分自身が全くの“ど素人”で監督をやって、運よく優勝できましたが、学ぶ場が全くなかったし、たまたまいい仲間に巡り合えて勝つことができたけれど、同じように悩んでいる人がいるんじゃないか、という思いは前からあって。それからもう一つ、「何で自分みたいな素人に、他の指導者は負けてしまうんだろう」という疑問をずっと持っていました。コーチングを学べば進化できるはずなのに、多くの優秀なコーチが、伝統やあるべき論の中で潰れていってしまっているんじゃないかと考えました。

野澤:「進化」という言葉、刺さります。

中竹:なぜ、いいコーチと悪いコーチがいて、再現性がないんだろうと思っていたし、36、37歳という若い人間がこうしたことに取り組んでいくことは非常にチャレンジングなことだけど、やってみたいという思いが強く沸いたということですね。

「オフザフィールド」で時間を共有したことで絆が生まれた

野澤:僕が中竹さんとのコーチング活動に携わらせて頂いたのが2012年からですが、そのときには既に現在のユース&リソースの形(※ユースコーチ:ユース日本代表を指導する高校指導者と日本協会所属の指導者が合同で参加する合宿型研修)があって、「研修を通じて苦しみながら、いいものを作っていくんだ」という雰囲気がありました。立ち上げ期に難所などはありましたか?

中竹:日本の社会では指導者の立場が強く、どう教えるかというのは非常に難しい領域という認識がありました。だから、私自身は、トップダウン型の全国一律のコーチング網を作るやり方ではなく、指導者が自ら考えるボトムアップ型に敢えてこだわりました

野澤:実際の手応えはいかがでしたか?

中竹:批判が多かったのも事実です。ただよかったのは、現場の皆さんが本気だったこと。「学びましょう、みんなで。僕も学びます」というスタンスで、今と同じく夜中まで研修を行いました。さらに、そこからの飲み会です。さっきまで僕が講師でコーチの方々が受講生だったのが、飲み会になった瞬間に逆転現象が起き、「てめえ、さっきの研修は何だ!」と毎回飲まされました。

野澤:現場のオペレーションの交通整理は避けては通れないですね。

中竹:正しいことだけ言って、「皆さん、後はよろしく」では絶対ダメで、選手でもオンザフィールドに加えオフザフィールド(グラウンド外での立ち振る舞い)が重要だ、と言うように、やっぱりコーチもオフザフィールドでの時間の共有があって初めて同じ絵を見られます。飲みの場は大人にとって本音をぶつけられる場ですから。

野澤:そんな中、手ごたえを感じた瞬間はどんなときでしたか?

中竹:常に混乱の中、批判が飛び交っていましたが、3年目ではっきり「今年は皆さんが僕になってください」と明言したときです。「初めて僕がブロックに行ったとき、皆さんが僕のことをすごく批判し、すごく敵対してぶつかったように、現場で嫌われてもコーチのコーチをする、コーチが学ぶという環境を作りましょう」と言いました。「僕は喜んで嫌われてきたので、皆さんも喜んで嫌われてください」と。「絶対最後は感謝されるし、これだけ仲間がいるから大丈夫です」とね。

ちょうどU20のヘッドコーチになった年で、「ブロックキャンプもTID(※Talent IDentification=人材発掘・育成)キャンプも行けないので全部お願いします」と言ったら、ほとんどのユースコーチが「任せろ!」と言ってくれて。手応えを感じると同時に、「これで一つの仲間になれた!」と思いました。

野澤:熱い!

中竹:実はその少し前に、私のやり方やスタンスに対する批判が続いていたので、「もう辞めた方がいいのかな」と初めてユースコーチのトップ2に懇親の場で愚痴を漏らしたことがあったんです。そうしたら30分前まで文句を言っていた2人が、「何言ってんだてめえ! お前がいたから俺たちここまでやってきたんだから、そんな弱音吐いてどうすんだ! 俺たち絶対味方だからな」と言ってくれて。

野澤:泣けますね。

中竹:だったら文句言わないでやってほしいな、と。

野澤:(爆笑)。

中竹:さっきまで文句言っていたのに、「いやいや、そういうことじゃないんだ。もっと大きな敵がいる」みたいな話になり、「俺たちは絶対一緒に戦う」と言ってくれて。ああ、本当の仲間になってくれたんだなというのが、その後の私を後押ししてくれました。この2人が文句を言いながらも、やってくれたのが本当に大きかったですね。

野澤:こういう雰囲気がユース&リソースコーチの中にあることを、ぜひ皆さんに知って欲しいです(笑)。

コーチの仕事は、ゴールに必要なキーワードを伝えること

野澤:中竹さんと一緒にコーチをやった人が絶対に面食らうのが、「ゴールとキーワード」の話でしょう。

中竹:そもそもトレーニングをどう捉えているのかが大切です。よく使われるPDCAはゴールがなくてもサイクルがグルグル回るようにできています。だから「P」はプランニングだけではなく、準備を含まないといけないのです。

野澤:“的確な”というのが肝ですよね。

中竹:そう、的確なゴールを定めて準備をしなければいけません。ゴールを「トライをさせる、勝つ」と設定してしまうことがあるけれど、それはゲームのゴールであって、“トレーニングのゴール”ではない。トレーニングのゴールは、そのトレーニングの中で完結していなければならないんです。気をつけなければいけないのは、20分本気でやって汗をかくと充実感が出て、ゴールのことが頭からすっぽり抜け落ちてしまうこと。ゴールを達成することが必要だと思って始めたのに、ゴールがあったことすら忘れてしまう。

野澤:それではなぜ、ゴールを設定してもコーチング中にゴールとキーワードが混ざってしまうのでしょうか?

中竹:コーチの指示が、選手がゴールを達成するために必要な要素になっていないのではないでしょうか。足を速くするための練習で「足を速くしろ!」と叫んでも、コーチングになっていないですよね。この場合「腕を振れ」とか「足を上げろ」といった、ゴールを達成するための要素を分解して、それをキーワードにしてあげることが必要なわけで、それがコーチの仕事です。

野澤:ということは、コーチ自身、最初のデザインのところが上手くいっていないから、コーチング中にゴールとキーワードが混ざってしまうのですか?

中竹:そうですね。パスを練習しているときに、気になることがどんどん出てきて、途中からディフェンスの話を始めて、集中力の話になって、最後は「ノーミスって言っただろ!」ってのは、よくある話です。

野澤:笑えるけれど、心当たりはあります(笑)。

リーダーに大切なことは、フレームを作り浸透させること

野澤:ゴール設定の重要性に加え、ユース世代での「Good」「Bad」「Next」
というフレームワークの浸透も中竹さんの功績だと思います。どうしてもレビューは「Bad」だけになりやすい。

中竹:そうですね。

野澤:特にいいところを言うことが日本人は苦手です。試合の中で言えばできてないところだけではなく、通用していることを共有する。それを誰もが知っている「Good」「Bad」「Next」という英単語で表したことが浸透につながったように思います。

中竹:私自身は常にフレーミングを大事にしていて、リーダーというのは、結局いかにフレームを作り浸透させるか、というところが大事だと思っています。それができれば、相手の頭の中を整理してあげられるから。「一生懸命準備して実行して振り返りをしてください」と言っていましたが、準備の仕方も振り返り方もわからなければ精度は上がってきません。そこで、「レビューは「Good」「Bad」「Next」でやってくだい。それを選手にもやらせてください。準備はゴールを決めて、キーワードを決めて、時系列で組んでください」というフレームを作ったんです。

野澤:それとレビューへのこだわり。これは多くのチームができていないことだと思います。試合の後、パッと解散してしまうチームと、そこからコーチ同士が集まってレビューをするチームでは、長いスパンで見ると雲泥の差が出てきます。レビューって嫌なんですよ。腹の中をつねられているような(笑)。

中竹:分かります。痛みが伴いますから。

野澤:なるべく批判を受けないよう自分を守りたくなってしまうので、「ああ、今日の俺ダメだったな」って認めることは難しい。見栄や自己承認の欲求があって、よく見られたいというのは誰もが持つ感情ですから…。

中竹:私は早稲田でどのチームよりもしつこく振り返りをしたという自負があります。そのときは、ほぼ全員が素人コーチだったので、しつこく振り返りをやったのですが、効率悪くて結構バカにされていたんです。「毎回みんなでビデオ見て、毎回映像止めているの?」って。

野澤:全員で同じビデオを見るのですか?

中竹:そうです。でもやってよかったことは、なぜ抜けたのか、スクラムがなぜ押せたのか、ということについて、その分野が得意なコーチに説明させたこと。その分野の専門ではないコーチも含め、全コーチに向けて説明させたことで、その人の持っている当たり前の知識を全員で共有することができました。

「学び」を軸にした“名刺の水平展開”

野澤:中竹さんの働き方は特殊です。ワールドラグビーから委託されたコーチングディレクターの業務を請け負いつつ、エデュケーターを育成する仕事、メソッドを開発する仕事、講演、執筆…と多岐にわたるわけですが、そういう働き方をしようと思ったのは、なぜですか?

中竹:コーチングディレクターの仕事が非常に重要だと思っているので、これを継続していけるよう、自分で稼がなきゃという気持ちがあります。それで、なるべく効率よく、しかも世の中のためになって、かつ自分が興味あることは何だろうと考えました。そこで辿り着いた答えが余計なプライドを捨て、これまで武装してきた知識や経験をいったん取り払うという「大人の学び」を提供すること。コーチや経営者はプライドが高く、多くの人が失敗を隠しながら学ぶことを避けているけれど、彼らのように最も学ぶ必要がある人たちを変えることが、一番世の中に求められているし、私の得意なところでもある。そこを軸足に色んなことをやっていたら、自然とこんな働き方になりました。

野澤:「学び」という軸があって、そこから様々な仕事が派生している。「名刺の水平展開」ですね。

中竹:そうですね。色々やっているように見えて、実際にやっていることはほとんど一緒だと思います。最近は他競技のコーチも指導することも増えましたが、基本的にコーチングの内容は同じです。

野澤:最後に、中竹さんの野望を教えて頂けますか?

中竹:私がワールドラグビーの仕事を始めた当時のボスであるマーク・ハリスが、世界中で競技の垣根なくコーチを育成する「WAOS」というアカデミーの中心メンバーとして活動しています。日本はこれからオリンピックに向けて指導者育成に関する勢いが増していくと思うのですが、現場でそこをマネジメントできるポジションに立ちたいですね。世界のものよりも進化させた仕組みを作りたい。それはもしかしたら、ビジネスのフィールドメソッドとの融合なのかもしれません。そこについては今年から着手していきと思っています。遠い将来というより、具体的な目標です。

野澤:今日は目から鱗のお話が満載でした! ありがとうございました!

ユース&リソースコーチが今の形になるまでに、どんな歴史を辿ってきたのかを知り、自分は何事にももっと粘り強く取り組まなければいけないな、と再認識できました。この記事に登場したご本人にも、ぜひ、お話伺いたいなあ(笑)。これからも微力ながら日本ラグビーの発展に貢献させて下さい!
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野澤武史

野澤武史

歴史教科書で有名な山川出版社で経営に携わる一方、日本ラグビーフットボール協会リソースコーチとして若手選手の強化・発掘を手掛ける。テレビ解説や、新聞・雑誌ので執筆も行い、著書には『7人制ラグビー観戦術-セブンズの面白さ徹底研究』(ベースボールマガジン社)がある。グロービス経営大学院卒業(MBA取得)。