野澤武史×サンウルブズ・田邉淳さん後編

前編「コーチとしての既存の枠を抜け、新しい文化を創りたい」はこちら

「一から新しい文化を創る」ことへの挑戦

野澤:プロコーチになることを選ばれたきっかけと、心境の変化などがあれば教えてください。

田邉:日本人のラグビーコーチって、自分が所属していたチームを教えている人がほとんどで、そこから出られないし、学びの場がほとんどないよね。既に7割8割方出来上がっているチームをそのまま続けるっていうのがほとんどなんじゃない?

野澤:僕も母校でコーチングした時期がありましたが、確かにそうかもしれません。

田邉:でもサンウルブズにはローテーション(疲労を軽減させるため、試合ごとに出場選手を変えていくこと)がある。そういう中で文化を創っていくという初めての経験ができる。それが自分には魅力的に思えた

野澤:想像できない苦労がありそうです。プレーヤーの見極めと言うか、そうした環境でも力を発揮できる資質は何なのでしょう?

田邉:オールブラックスでは「good peopleがgood All Blacksを作る」って言われている。ニュージーランドにはラグビーができる奴なんていくらでもいる。だから、アスリートを探すわけではないのね。そのチームの中でプレーしたいと思っている、”All Blacksになりたいやつ”を探す

野澤:なるほど~。

後輩に残す「コーチストーリー」を築いていきたい

野澤:スラッシーさんが現在の立場になったのは、どういったいきさつからですか?

田邉:パナソニックに「現場のコーチとしてやれる限りやっていきたい」ということを伝え、その上でジャパンエスアールとの契約に至りました。自分としては片道切符の気持ちでやっているし、今後どういう形で自分が携わっていくかはわからないけど、このチームにずっと関わっていきたいというのが今の気持ちかな。サンウルブズが優勝した時に、いったい何が変わっているんだろう? そのストーリーを作っていきたい。

野澤:それは面白いですね、未来志向。

田邉:20歳以上年下の子たちがコーチになる時に「こうやって強くなっていったんだよ」と言える何かを残したい。コーチをコーチングできるようなマネジメント能力を身に着けたい。それは…まあ、先のことだけど。今はまだ、コーチとしてのストーリーは全然ないわ。

野澤:「コーチとしてのストーリー」ってどんなことですか? キャリアですか?

田邉:例えばパナソニックだったら、強いチームを維持していくストーリーになるよね。でも、サンウルブズはまだ強くない。その2者ではまったく描くプロセスが異なる。サンウルブズをどうやって強くして、いかにして優勝に導いていくか。そのビジョンは、正直去年は全くなかったな。

野澤:まだ少し時間がかかるかもしれないですね。

田邉:ただ、ゴリもやっているけど一貫指導というのは一つのキーだと思う。ジャパンとサンウルブズの強化に強い相関関係を作ることで、一つ光が見えてくると思う。その大枠の中でユース世代のラグビーを作っていく。自分が挑戦したいのが、新しいチームをどうやって機能させていくかということ。ダンカーターがいるわけじゃないチームをいかに勝たせるか…。ハリケーンズ(昨年スーパーラグビーで初優勝を飾ったニュージーランドのチーム)だって21年もかかっているんだから。俺らはまだ2年目、まだ19年残ってるやん。

指導者層を充実させ、適材適所で活躍できるサイクルを

野澤:日本ラグビーの中長期的な強化の中で「こういうことやっていった方がいいんじゃないか?」ということはありますか?

田邉:一貫指導の中で、指導者をもっと増やしていく必要があるな。ニュージーランドのやり方で一ついいなと思うのが、コーチングチームの組み方によって、コーチの層を厚くしていくという方法。ユーススタッフを3年間固定で回して、3年経ったら全く違うスタッフが来る。このシステムで6年9年と回していけば、どんどんコーチできる人やパックが増えていく。その中で協会がベストなコーチを選ぶことができるようにもなるやろ。

野澤:ということは、まずは指導者を変えないといけない?

田邉:指導者を変えないといけないんじゃなくて、指導者を回すサイクルを変える。そうしているうちに、ヘッドコーチ向き、スキルコーチ向き、FWコーチ向き…というタレントがわかってくるでしょ。ニュージーランドには、同じようなパッケージが各フランチャイズにあるわけよ。ジェイミーとトニーブラウンの関係もそうだけど、そのパッケージが多いほど、上の人は選びやすくなっていく。

野澤:日本の場合はスキルコーチから始まってヘッドコーチになっていく、みたいな流れですよね?

田邉:適切な場所でその人が持つ能力を最大限使ってあげないと。それこそ、ゴリは腰が軽いんだからリクルート向いてると思うよ。色んな所に出向いてるし、口達者やし、お酒も好きやし(笑)。

野澤:ありがとうございます(笑)。

田邉:俺は今回のサンウルブズでは英語と日本語を駆使して選手とスタッフをつなぐ役割を担っていると思うし、フィロ(ティアティア)の右腕になっていきたいと思ってる。

野澤:日本語と英語の両方が喋れて、ニュアンスも含めて伝えられるコーチの存在は、サンウルブズという多国籍チームでは必要不可欠です。

田邉:ヘッドコーチはやらなきゃいけないことが山ほどあるから、日々のセッションプランは俺がベースを組み立てる。メディア対応、怪我人の入れ替え…とてもじゃないけどグラウンドのことまでできないんだろうなって思ったよ。サンウルブズでも去年そうしたことが何回かあったけど、勝つ勝たない以外のところで価値観を見いだせる瞬間がある。今年はその経験を増やしたい。コーチをやっていてよかったと思える瞬間をね。

野澤:コーチっていろんなグレードがありますけど、「コーチを辞める」って言えないですよね。

田邉:コーチ以外に面白いことがあるって思う? 俺は宝くじ当たってもコーチをやるよ(笑)

野澤:まさにコーチの魔力(笑)! 本日はありがとうございました。

スラッシーさん、お忙しい中、本当にありがとうございました! いつも目から鱗のお話ありがとうございます。今回も世界各国のコーチとのディスカッションの話、すげー刺さりました! 「答えがないことに立ち向かう」というのはビジネス界でも同じことですね。これからタフな戦いが続きますが、また東京で飲みましょう!

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写真:ハラダケイコ
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野澤武史

野澤武史

歴史教科書で有名な山川出版社で経営に携わる一方、日本ラグビーフットボール協会リソースコーチとして若手選手の強化・発掘を手掛ける。テレビ解説や、新聞・雑誌ので執筆も行い、著書には『7人制ラグビー観戦術-セブンズの面白さ徹底研究』(ベースボールマガジン社)がある。グロービス経営大学院卒業(MBA取得)。