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“残業ありき”なIT企業の変化。働き方改革プロジェクトのリーダーは3人の子どもを育てながら働く営業部マネージャー

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「イクメン」「イクボス」という言葉が生まれてしばらく経つが、現在の日本の労働環境やさまざまな要因などから、男性が子育てに関与することが難しい状況もまだまだ続いている。

一般的には「激務」というイメージのあるIT企業で営業マネージャーとして活躍する三尾幸司さん(みおこうじさん 以下、三尾さん)は、社内の働き方改革プロジェクトや、他社向けの女性活躍推進のためのワークショップなどを開催。その取り組みが評価され、2016年には「イクボスアワード」を受賞している。

一方で、「2枚目の名刺」としてNPO法人コヂカラ・ニッポンに参画し、子ども向けにMBAのメソッドをアレンジした「コヂカラMBA」を実施している。

私生活では3人のお子さんの子育てをパートナーと協力して家事を行うだけでなく、小中一貫校のPTA会長も務めている。

そんな三尾さんは、結婚して子どもができたことをきっかけに、生き方や働き方が変化したそう。

前編では、三尾さんの本業でのさまざまな取り組みや、子どもができたことによるご自身の変化について話をうかがった。

事業部の「働き方改革」リーダーに

三尾さんは現在、株式会社JSOLの流通・サービスビジネス事業部の営業グループに所属し、チームマネージャーという立場で、顧客向けにITサービスやコンサルティングサービスを提供する仕事を主な業務とし、部下のマネジメントも行っている。

今から数年前、社内で新たな取り組みをすることになったことが、働き方改革の発端となった。

「社内の各部門からメンバーを集め、新しいビジョンを作るという取り組みを半年間かけて行うことになりました。その中で、自分たちの価値ややりたいことは何か、などを考えていくうちに、私自身も『働く価値や、仕事に対する自身の価値観は何だろう』と考えるようになりました。そこで『残業ばかりではなく、スキルアップや子ども向けのキャリア教育などもやっていきたい』という自分の考えに思い至りました。ちょうど当時は世の中でも、働き方を変えようという流れが起き始めていた時期でもありました。その後、社内でも働き方改革をすることになり、うちの事業部のリーダーを任されることになりました」。

三尾さんが提案したのは、以前から多かった残業の削減。週の残業の上限を7.5時間までとし、それ以上残業が必要な場合には、上司に申告するという決まりを設けた。その結果、昨年対比で残業を3割減らすことに成功した。

それまで三尾さんの会社では部門によって残業ありきで働くという空気や、仕事量が多いことが恒常化していたという。具体的な施策として、残業時間上限の設定、ノー残業デーの設定に加え、上層部からの後押しもあったことで、働き方改革が実現した。実施後のアンケートでも、社員からは肯定的な意見が多かったという。

「僕だけが働きかけるのではなく、社内の上層部で、働き方改革に理解を示してくれる方々がトップダウンとして、社員に働きかけてくれています。会社の風土が早く帰ることに対してネガティブだったりすると、社員は後ろめたくて早く帰れないですよね。会社が後押しをしてくれているという部分も大きいと思います」。

メリハリをつけて働き、成果を出す

ただ「残業をしない」ことを目指すだけでなく、子育てと両立しながらその働き方を続けるために、三尾さんはさまざまな工夫をしている。

「平日の夜は、子どものお迎えや家族で過ごす時間を作りたいので、打ち合わせなどの予定を入れないようにしています。仕事が終わらない時は持ち帰って、家で子どもと遊んでから仕事をしたり、『今日は社内で残業をする』と決めておこなう、といったように、メリハリをつけて働いています」。

社内では三尾さんの働き方に理解を示す人が多いものの、異議を唱える人もいる様子。

「“自分自身がこういう働き方をしたいから、その分やらなければいけないことはきちんとやる”というスタンスで仕事に取り組んでいます。もちろん、現在のような働き方をする以上、余計にしっかりと成果を出さなければ、というプレッシャーはありますね」。

さらに三尾さん自身は3人の部下をマネジメントする立場。自分がパフォーマンスを上げるだけではなく、社内の人間とも意思疎通をしていきながらプロジェクトを前に進めていくために、月1回部下と面談しながらプライベートの状況把握をすることや会議時間自体を短く設定し何を決めなければならないかを明確にする、といった施策もおこなった。

社内上層部からの後押しはあったとしても、働き方改革の旗を振る人は、声をあげて換気するだけではなく、実直な実践者でもあったのだ。

他社でも通用するスキルやノウハウを磨く

現在、3人の部下をマネジメントする立場にいる三尾さん。その方法やアドバイスにも、三尾さんの価値観が表れている。

組織と個人の関係性についてフラットに話す三尾さん

組織と個人の関係性についてフラットに話す三尾さん

「『仕事の中で、自分のやりたいこと・やれること・(会社が)やってほしいことの3つが交わる部分を見つけて欲しい。努力やイヤなことに耐えることも必要だが、そこがどうしても交わらない場合は、必ずしも今の会社で働かなくてもいい。自分の価値観を大事にした方がいい』と、部下には伝えています。僕自身そう考えていますし、もし今の職場で働けなくなったとしても、別の場所でも働けるようなスキルやノウハウを磨くように意識しています」

そのスタンスには、「組織に貢献しながらも依存しない」という、三尾さんの考え方が表れている。

子どもができて、生活や仕事に対する価値観がガラッと変わった

三尾さんの生き方を変えた転機は、「結婚して子どもができたこと」。28歳で結婚したのと同時に、パートナーの2人のお子さんのパパにもなった。

結婚して子どもを持ったことで、三尾さんの生活や考え方で大きく3つのことが変化した。

家族の話になるととても楽しそうな笑顔がこぼれた

家族の話になるととても楽しそうな笑顔がこぼれた

ひとつは、仕事に対する価値観。“子ども”という日々成長している人間と共に暮らすことによって、翻って自分の行動にも意味や価値を再定義するような気持ちに。「ただ働くだけではなく、その中で自分も楽しみたいし、成長したい」働くことそのものに対して自分の向き合い方が大きく変わった印象だ。

次に、タイムスケジュール。独身の頃は時間を気にせず働く生活だったが、結婚後は「家事・育児に関わりたい」と思うようになったことから、必然的にタイムスケジュールをしっかり組んで働く必要が出てきた。そこで三尾さんは、「短い時間で成果を出すためにどうしたらよいか」「いかに仕事で無駄を省くか」という発想を持ちながら、仕事に取り組むようになった。

そして、家族という「大事にしたいもの」が自分の中で明確になったこと。それが三尾さんの中で最大の変化であり、前述2点に連なるそれぞれの想いや行動の原点なのだろう。

「独身の頃は子どもに特に興味はなかったのですが、自分が子育てをするようになってみて、子どもと接する楽しさ・おもしろさがわかるようになってきました。子どもや子育てに関する興味・関心が沸いたことをきっかけに、育児書や教育書を読むようになり、子育てブログもスタートさせました」。
ただ「楽しい」「おもしろい」という子育ての視点から、さらに一歩進み、興味関心を深めていくためのアクションへ。現代における育児方法や子どもに対する教育のインプットだけではなく、自分自身が実践を繰り返し世に発信するアウトプットまで。
三尾さんは子育てを通して、さらに新しい学びと表現を手に入れている。

ご自身のライフイベントをきっかけに、独身の頃とは考え方が一変したという三尾さん。男性の中でも「働き方を変えたい」「家族と過ごす時間を増やしたい」と思っている方は多いだろう。それを三尾さんのように実際に行動に移し、成功させるためには、さまざまな努力や、周囲に理解してもらおうとする姿勢が大切であることがわかる。

後編では、三尾さんの「2枚目の名刺」であるNPO法人コヂカラ・ニッポンの活動や、PTAなどの地域活動、複数の活動を行ううえで心掛けていることを中心に話を聞く。

後編に続く

写真:海野千尋

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手塚 巧子
ライター
1987年生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社勤務等を経て、ライター・編集者として活動中。ビジネス、社会問題、金融、女性・学生向け媒体など、幅広いジャンルにて記事を執筆。小説執筆も行い、短編小説入賞経験あり。
海野 千尋
編集者
2枚目の名刺webマガジン編集者。複数の場所でパラレルキャリアとして働く。「働く」「働き方」「生き方」に特化した取材、記事などの編集・ライターとして活動している。