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【千葉県鴨川市×二枚目の名刺】スポーツと観光の概念を一新する「地域おこし」始動!(後編)

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千葉県鴨川市とNPO法人二枚目の名刺が協働し、「鴨川市に平日のスポーツツーリズム(スポーツと観光を組み合わせた取り組み)を作り、スポーツを通して地域おこしをする」ことを目的とする取り組みがスタートした。

前編では、このプロジェクトが、いかにして立ち上がり、どのような未来へのビジョンを描いているのかについて、鴨川市のスポーツコミッションの中心人物である鴨川市・スポーツ振興課の岡野大和さんに話を聞いた。

【千葉県鴨川市×二枚目の名刺】スポーツと観光の概念を一新する「地域おこし」始動!(前編)

後編では、ここに『NPO二枚目の名刺』が参画し、協働することを決めた背景や今後の展望について紹介する。

 

二枚目の名刺との協働

こうした夢を実現するために、岡野さんが協働を呼び掛けたのが『二枚目の名刺』だった。今年11月には都内で、鴨川市に「2枚目」として関わりながら、プロジェクトに参加するメンバーを募る“マッチングの場”も設けられた。

では、『二枚目の名刺』はなぜ、いち地方自治体と組むことを決めたのだろうか。メンバーの一人である小林忠広は、こう述べる。

スポーツを通じて社会を豊かにするという軸の部分で、共感できたのが大きかったですね。このプロジェクトを通じて、これからのスポーツの在り方とか、地域の在り方とか、さらには働き方といったものに、インパクトを与えられるようなきっかけを生み出せたらと思っています」

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(二枚目の名刺のメンバー・小林忠広)

そして、実際にプロジェクトリーダーとして活動するのが、25歳の若手社会人、山村柊介さんだ。

「僕自身、ずっとサッカーをやってきて、もっとスポーツを活用して地域を盛り上げられないかと、以前から考えていたんです。理想とするのはイングランドのサッカーで、あんな風にスポーツが日常に文化として根付いている社会。『スポーツ×地域』というのは、スポットではなく、後続する時代にどんどんつながっていくもので、それがいつか地域のアイデンティティになるんです。そうした発展性が楽しそうで、気付いたらここまで走ってきていました(笑)」

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(当プロジェクトのプロジェクトデザイナー・山村柊介さん)

山村さんは、岡野さんの言うビーチサッカーの“緩さ”にも、「今のスポーツの硬派さを砕き、輪を広げていくきっかけになる」と、その発展性に期待を寄せている。

また2枚目の名刺として携わる人たちが集まるプロジェクトだからこそできることを訊ねると、こんな答えが返ってきた。

「今回のプロジェクトは、地域に隠れた資源を”コト”にしていくことで、従来のスポーツそのものではなく、日常にありふれた光景や行動をスポーツに組み込むことをコンセプトにしています。こうした一般市民に向けた取り組みだからこそ、一市民であるメンバーが自由闊達に意見を交わすことで、国や企業が創り出すコンテンツとは異なるものが生まれるのではないかと思います。それはきっと、これまでにスポーツに触れたことのない人や地元の人にとっても魅力のあるものになるはずです」

女子スポーツとパラスポーツの可能性

鴨川市がビーチスポーツとともに重要視しているのが、「女子スポーツとパラスポーツ」だ。女子スポーツに関しては、やはりオルカ鴨川FCの成功が後押ししているのだろう。南房総で全国リーグを戦う初めてのスポーツクラブは、地域の人々の愛情を一身に浴び、今や鴨川市の一つのアイデンティティとなっている。

岡野さんは言う。

「これまで『するスポーツ』どころか『見るスポーツ』にも興味がなかった人たちが、オルカの遠征に付いて四国にまで行ってしまう。彼らは時間にもお金にも余裕がありますから、現地でちゃんと観光をして、美味しいものを食べて、温泉に入って帰ってくるんです。これも間違いなくスポーツツーリズムだし、そういったものが、これから必ず文化になっていくと思うんです」

そして、2020東京オリンピック・パラリンピックを約2年後に控え、パラスポーツに対する考え方も変わりつつあると、岡野さんは力説する。

「これまでは健常者のスポーツをパラに落とし込んできましたが、例えばボッチャなどはもともとパラ競技としてスタートし、今では一般に浸透するようになりましたからね。つまり、パラスポーツを健常者に落とし込む“逆ベクトル”が生まれ始めている。時代はまさにパラダイムシフト。こうした傾向は、パラリンピックでさらに加速するはずです」

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365日やり続けるための課題と展望

「ビーチ」「女子」「パラ」と、今回のプロジェクトのキーワードがいくつか浮かび上がってきたが、では、今後に向けて課題を挙げるとすれば、どんな点になるのだろうか。

「地域づくり、まちづくりにはお金の問題も絡んできますが、最後は人の問題、すなわち“誰がやるか”なんです。一日だけのイベントならその日のために人を集められるかもしれませんが、極端な話、365日それをやると考えた時に、やはり何らかの仕組みを作る必要があるでしょう。そこが課題になると思います」

そう話す岡野さんに対して、二枚目メンバーの小林さんは、「結局、その地域に愛着を持ってやり切れる人がいるかどうかでしょう。そういった方、つまり岡野さんのような方がいれば、それに乗っかる形で2枚目的な新しい発想も生まれる」と期待する。

ただ、人の問題に関して、岡野さんには“秘策”もあるようだ。それは、アスリートの雇用である。

「僕が作った女子ビーチサッカーのチームには、間違いなくそういう仕事をやってもらおうと思っています。それは同時に、スポーツの地位向上にもつながるはずなんです。たとえ競技者としては稼げていないとしても、スポーツという分野で見れば稼げている。そういう仕組みを作れたら、地域も社会も、スポーツをやる人たちへの見方が変わってくると思うんです」

すでに来年2月には平日のスポーツツーリズム第1弾が企画され、そこをターゲットに動き始めているという。

神主の仕事は「たまに」と言い、鴨川市のスポーツを柱とした街づくりが、「この数年の自分のメインワーク」と語る岡野さん。

「スポーツを文化にすること、つまりスポーツを日常化させることを阻害しているのは、すごく皮肉な言い方をすれば、僕はアスリートだと思っています。現役引退なんて言葉はなくしたほうがいい。トップアスリートとしては引退しても、スポーツをすること自体の現役を引退する必要はないんですから」

「とにかく『楽しい』を追求していきたい。スポーツという言葉を辞書で引けば、そこには『楽しい』という意味もあるんですから。楽しいスポーツが勝つ瞬間を、日本にも作り出したい。それが究極の目標です」

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800年以上の歴史と伝統を誇る「天津神明宮」の神主さんの口から飛び出したとは思えないほど、岡野さんが紡ぐ言葉はどれも刺激的で革新的だった。彼ならば、旧来のスポーツの概念を覆し、鴨川市に新たなカルチャーをもたらしてくれるかもしれない。

「鴨川は日本で一番早く日が昇る場所なんです。日出ずる国の日出ずる処から、日本の新しい文化、トレンドを発信し、新しい社会を作り出していきたいですね」

そういえば──。岡野さんが作った女子ビーチサッカーチームの名前は、「ゾンネ鴨川B.S.」。「ゾンネ(Sonne)」とはドイツ語で「太陽」の意味だ。

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吉田 治良(よしだ・じろう)
ライター
サッカーダイジェスト、ワールドサッカーダイジェストの編集長を歴任し、現在はフリーのライター兼エディター。1967年生まれ。