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本業以外の居場所を持つことで働きやすく。『2枚目の名刺』のやりがいと自身の変化

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訪問介護から介護職のキャリアをスタートさせ現在はケアマネージャーとして勤務する高瀬比左子さん(たかせひさこさん、以下、高瀬さん)は、自身の介護の仕事を通じて感じた課題をきっかけに、『未来をつくるkaigoカフェ』を立ち上げ、活動を続けている。

後編では、kaigoカフェの活動をきっかけに起きた自らの変化、新たな活動などについて話をうかがう。

去年からスタートさせた「名刺作りプロジェクト」

kaigoカフェでは、「介護×笑い」などエンターテイメントをテーマにしたカフェや、地方への出張カフェ、一般企業とのコラボレーション企画や学校への出前講座など、さまざまな活動を積極的に行っている。

そんなkaigoカフェの新しい取り組みの一環に『介護職の名刺作り応援プロジェクト』がある。介護業界で働く人は、数年以上のキャリアがある人であっても、名刺を持っていない人が少なくない。そこに、高瀬さんは以前から問題意識を持っていた。

「介護スタッフは施設や事業所の中で働いていればよく、外部の人と接触する時に使用するツールである名刺を作る必要がない、という、業界の考えの現れなのではないかと私は考えます。業界が、社会とつながることを推奨していないのが現状です。

ですが今後は、事業所が持つ魅力や特性なども、どんどん外に伝えていかなければいけないと思います。新人のうちからでも、外部の人と交流を持ったり、自分なりの介護に対する想いを発信したりするために、名刺を持つ必要性があると考えていました

名刺を持つだけでも、これまでより積極的に人と交流したいと思えるようになる、と高瀬さんは考える。ただ仕事のツールとして名刺を作るのではなく、外部に対して能動的に働きかけたり、交流していったりするきっかけとして名刺を作ることが、自分にも周囲の人にとってもメリットをもたらすという考え方だ。

高瀬さんは、kaigoカフェで多くの仲間と出会ったり、数々の取り組みをしたりする中で新たな課題を発見し、解決するための方法を実践しているのだ。

なお名刺プロジェクトには、kaigoカフェの仲間であり、名刺のデザイン・プロデュースを本業にしている小林弘和氏の協力がある。

【『介護職の名刺づくり応援プロジェクト』事例】

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(写真=未来をつくるkaigoカフェ提供)

高木龍輝さん

介護業界で働く父にすすめられ、介護の世界へ。埼玉県のデイサービスと老健に勤めながら専門学校へ通い、キャリアをスタート。現在はグループホームに勤務。介護の現場で、「介護を受ける人たちが、当たり前の生活をできていない。スタッフも、適切なサービスを提供できていない」と気づいた。高齢になっても、当たり前にその人らしくいられる生活を提供したいと、『当たり前ケア専門士』という肩書きを考えた。

若手として福祉業界を引っ張っていき、同じ志を持つ仲間とつながりを持ちたい。その想いから、自分でも業界の若手が集うコミュニティを開きたいと考え、名刺の裏面にその旨を記載した。

(表)

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(写真=未来をつくるkaigoカフェ提供)

千葉愛理沙さん

幼い頃から祖母や地域のお年寄りに可愛がられて育ち、高齢者に恩返しをしたいという想いから介護の世界へ。自身の仕事を通じて地域の人同士を繋げたり、笑顔を引き出したりしたいと考え、子どもからおばあちゃんまで、幅広い年代の男女の笑顔のイラストを入れた。裏のリボンのデザインは、自分がリボンのように地域の人をひとつに結び・繋げたいというイメージを込めた。

高齢者が健康かつ地域でアクションを起こしていけるようなシステムをつくるなど、地域に根付いた活動をしていきたいと考えている。

カフェ参加をきっかけに自らコミュニティを立ち上げる人も

『未来をつくるkaigoカフェ』の参加者の中には、自らもカフェを主催するようになったり、自分でコミュニティを作ったりと、具体的な行動を起こすメンバーも増えているという。

「『収入を得る場を作る』『新たなビジネスを始める』などだけではなく、自分らしくいられる場や、自分がやりたいことを形にできる場を作る、など、次のステップに進むために巣立っていくメンバーもいます。巣立っていくのが寂しい反面、私と同じように彼らも新たな一歩を踏み出すことができたのだ、と、嬉しく思います。

参加者同士で対話をしたり、ゲストの方の言葉を聞いたりする中で、何かしらのヒントを得ているのだと思います。これまで100近くのテーマでkaigoカフェを実施してきているので、参加を続けていると『自分も何かやらなくては』『自分ができる範囲でやってみよう』と思うタイミングがあるのかもしれませんね。

このkaigoカフェという場所を良い意味で利用し、自分を変えるチャンスや新たな活動のきっかけにしてもらい、良いつながりや関係性を続けていけるのが理想です」と、高瀬さん。

続けることで見えてくるものがある

高瀬さんは一昨年から、カフェを立ち上げたいと考えている人を対象に、運営のコツなどを教える講座も開いている。運営資金やテキスト代などは、クラウドファンディングを利用して集めた。

高瀬さんがkaigoカフェの活動で得た経験は、自分と同じように「一歩踏み出したい」と考える人のために役立てることができるものにまでなってきた。

本業の傍ら立ち上げたkaigoカフェ。忙しい日々の中で続けていくのは、大変ではなかったのだろうか。

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「あまり難しく考えず、自分がやりたいことを『お金になる・ならない』ということは関係なく、まずは始めて、1年でも続けてみることが大切だと思っていました。やりたいことをやる中では、もちろん大変なことや楽しくない面もありますし、執念で続けている、という部分もあります(笑)。途中で断念せず、続けていくと見えてくるものがありますね

困難にぶつかっても、とにかく“やりたいことを続ける”ことを大切にしてきた高瀬さん。その中には、活動を通じて多くの仲間と出会い、さまざまな学びや気づきを得たことも大きいのだろう。

カフェの活動を通じて自分の「軸」が持てるようになった

2枚目の名刺であるkaigoカフェの活動は、高瀬さんの本業にも良い影響をもたらした。

軸がぶれなくなり、自分がどのようなケアを利用者さんにしたいのかなど、本当にやりたいことが明確になりました。また、自分の考えを周囲に理解してもらえるように伝えることができるようになったのも、カフェでさまざまな人達と対話をしたり、SNSなどで発信し続けたりしているお陰だと思います。

また、ものごとを俯瞰して見られるようになった、と思います。ひとつのことに固執しすぎて周りが見えなくなるのではなく、何事も客観視できる目を持てるようになりました」と、高瀬さんは語る。

またkaigoカフェで、同じ価値観を共有できる仲間に出会ったことで、自分の介護への想いを再認識したり、過去の頑張りを改めて認めてあげることができたりした。

kaigoカフェを始めてから高瀬さんは、以前より働きやすさを感じるようになったという。kaigoカフェの立ち上げという具体的な行動を取ったことや、苦労しながらも続けてきたことが、高瀬さんを変えることになった。

kaigoカフェを外とのつながりのきっかけに

最後に、介護業界で働く人へ向けて、高瀬さんからメッセージをいただいた。

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「介護の現場で働いている人は本当に忙しいため、休みの日はのんびりしたいと考える人が多いと思います。ですが、介護の仕事が好きでずっと続けていきたいと考えていたり、自分なりのアクションを起こしたいと思っていたりする方にとって、kaigoカフェはきっと居心地の良い場所のひとつになれるのではないか、と思います。kaigoカフェという職場以外のコミュニティに参加することが、外の世界との新たなつながりを持つきっかけになれば、と思います。

まずはぜひ一度参加して頂いて、魅力を感じてもらえたら嬉しいですね」

本業で感じた課題や疑問を外部の人達と共有したい、という思いから、2枚目の名刺となるKaigoカフェを立ち上げた高瀬さん。

「自分らしくいられる場所」をつくることにこだわる高瀬さんの活動は、結果として他の人にとっても心地よい場所をつくることにつながったり、その人自身の行動を変えたりするきっかけになったりしていることは間違いない。

介護業界で働く中で戸惑いや悩みを抱えている人、自分のフィールドを超えていきたいと考えている人は、ぜひ、kaigoカフェに参加してみてはどうだろうか。

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ライター

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編集者

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手塚 巧子
ライター
1987年生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社勤務等を経て、ライター・編集者として活動中。ビジネス、社会問題、金融、女性・学生向け媒体など、幅広いジャンルにて記事を執筆。小説執筆も行い、短編小説入賞経験あり。