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新連載:TOO AKIRAの「幸せな働き方」探訪
働き方改革、新しい働き方に関するニュースが連日リリースされる中、「そもそも、なぜ働くのか?」ということを自らに問いかける人が増えている。そして、その傾向を反映した「幸福学」も提唱され始めている。2枚目の名刺webマガジンでは、幸せな働き方を実践するトップランナーへの取材を通じて「2枚目の名刺を持つ意味とは何なのか? それは人を幸せにするものなのか?」を問いかける旅に出ることにした。(NPO法人二枚目の名刺「TOO AKIRA」こと酒井章)

【今回の二枚目人】
さくらインターネット株式会社
田中邦裕社長

~「社員の幸せな働き方」を考えたら、パラレルキャリアになった~

IT業界の中で、野心的な仕掛けを行っているさくらインターネット株式会社は、人事制度でも先端的な試みを行ってきた。そして創業20周年を迎えた昨年、社員が改めて個人のキャリアや働き方について見直す機会を持てるよう、社外活動を支援するパラレルキャリアなどの新制度を導入した。同社の田中邦裕社長に、制度導入の意図や、そこに込めた「想い」を聞いた。

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「クリエイティビティ」が求められる世の中に

酒井:本日は、働き方、キャリア自律など、御社の取り組みと共に、社長の想いをお聞かせ願いたいと思います。まずは、事業環境への認識から、お話し頂けますでしょうか。

田中社長(以下、敬称略):大きなフォーカスで言いますと、事業環境というよりも「世界が変わってきた」ということがあります。第四次産業革命とも言われますが、昔は人を集めればなんとかなる、資本を集めれば何とかなるという部分がありました。しかし今は、人も資本も余っているし、自動化によって人の数がそんなに多くは必要なくなっています。

以前は、情報を持つ人が情報の非対象性によって強さを持っていたり、物理的にもすぐには変えられないようなものを前提としたサービスで競争力を保っていたりしたのですが、それらの希少性が薄れてきました。光ファイバーで情報は無尽蔵に送れますし、物流についても、電子データ化すれば売り切れということがなくなるからです。その分、コンテンツ自体や提供している価値そのものが重要になってきています。そうなると、求められている希少性は「クリエイティビティ」になってくると思うのです。

90年代から第四次産業革命に至る25年間に、世の中の動きや流れが変わっていったのではないかと思います。若い人の働き方が変わったとか、少子高齢化したからではなく、世の中自体が変わってきている。日本特有のものだとするのは違うと思いますが、こうした変化が日本は世界の中で最も大きいですから、課題先進国としてこのギャップを埋めることが、企業が飛躍するきっかけになるんじゃないかなと考えています。

「今いる社員で事業を創っていく」スタイルへのシフト

酒井:世界が変わる、日本にチャンスがあるというのは、事業を続ける中で感じられたことですか?

田中:そうですね。当社がクラウドを提供し始めて5年ですが、それ以前からインターネットインフラ、コンピュータインフラを提供してきた中で、常に市場の競争にさらされて来ました。例えば、2000年代初頭のネットバブルの崩壊で、サーバーレンタル料金が10分の1くらいの新興企業が出てきてシェアをとられたことがありました。いわゆる既得権益や、これまでに維持してきたものが簡単になくなってしまうということを体験し、「我々が強みを持って行くべきなのは、クリエイティビティなんだろうな」と実感しました。

酒井:ビジネスを通じて想定外のことを経験された中で、「クリエイティビティ」というキーワードが出てきたということですが、そのきっかけは?

田中:ある方から紹介された、リチャード・フロリダ著の『クリエイティブ・クラスの世紀』という本です。「クリエイティビティを成長に活かす国や都市が伸びている」という内容ですが、私の中ですごく腹落ちし、クリエイティビティという言葉を使うきっかけになりました。でも、その背景には先ほどお話しした競争環境の変化があったと思います。

昨日も「IT飲み会」で基調講演をさせていただいたんです。クラウドを作っている人、ウェブを作っている人、システムを開発している人、あるいはITに精通した弁護士の方など、ITを取り巻く様々な人たちが集まっている中でお話しさせていただいたのが、「人に事業を合わせていく」という事業スタイルです。人材不足がこの業界では共通の悩みなので、どうしても「こういう部分のこういうスペックが足りない」ということに走りがちですが、私は逆転の発想をすることで解決できると考えています。

例えば、これまでの「新卒一括採用方式」。私は、これは悪くなかったと思っています。ただ、問題は3つあります。1つ目は、多様な人たちを均質にしてしまっていること。2つ目は、一部の人たちしかクリエイティビティを発揮できず、それ以外の人たちは、ただサービスを支える人になってしまっていること。最後に、(専門的なスキルではない)基礎的なスキルを発揮できる人たちが活かされていないこと。日本はどちらかというと、そういう人をできるだけ採らないようにしたり、派遣の方で埋めようとしたりしてきました。

弊社は最近、アシスタント業務でも正社員雇用をして、庶務系の業務は派遣の方に頼る、というあり方を見直しています。来年、再来年になると、そうした方々が、様々な部署で様々な働き方をするようになっていくと思います。コストをかけたくない仕事も含めて全員でシェアしていくと、おそらく社員全体の満足度が上がるでしょうし、想像もしなかったビジネスが生まれることもあるでしょう。新しい事業を始めるときに、ジェネラリストとして働いている人の得意分野が活きるフィールドも出てくると思うのです。

社員同士で足りない部分を補いながら、「人に事業を合わせていく」。それによって活躍できる人や得意分野が活かせる人が増えるような人事がしたいと思っています。オーバーヘッドにはなりますが、社内全体のクリエイティビティは高まるだろうと期待しています。

社員が自律的に「事業を創造する」時代

酒井:人に事業を合わせる中で、想像もしなかったビジネスが生まれることがあると仰いましたが、これまでに事例はありますか?

田中:実は弊社の、IoTプラットフォームやAIビジネスは、その事業のために採用したわけではない社員たちがすごく頑張ってくれました。最近ピクシブさんと協働した事業は、現場が面白がって取り組んでくれて、結構大きな収益を上げているんですよ。そのような中で感じるのは、「社長だからといって、完全にコントロール権を持てるわけではなくなってきた」ということです。システム構築や会社全体のオペレーションに関わる部分は、半ば強制的に会社の方針でやってもらうことはあっても、事業の創造という観点においては、社長が言うからやるという時代ではなくなってきたのかもしれません。

酒井:これからの時代、事業の創造は現場のチームでやるということになっていくのでしょうか?

田中:そうですね。ただ、そこで気を付けなくてはならないのは、(現場のチームでやるとなった場合)小さなビジネスになりがちなことです。いかに大きなビジネスにスケールアップさせていくか、そのようなビジョンを持たせるかということが重要だと思いますね。社内環境の整備やオペレーションはトップダウンでやらなければなりませんが、事業を創造し、売上を拡大させて、会社を成長させていくということについて、社員が自律的に取り組めるような環境を用意することが必須だと思っています。

「働きやすさ」と「働きがい」が両立する環境を

酒井:そういった部分が、田中社長のキャリア自律の考え方や、御社がパラレルキャリアを導入することにつながったのでしょうか。

田中:パラレルキャリアの導入は、“手段の一つ”だと考えています。私は「働きやすさ」と「働きがい」を明確に分けたいと思っているのですが、これらの違いを考えたことはありますか?

「働きやすさ」には、給料が高いとか、労働時間が短いということが挙げられます。一方で「働きがい」は、承認欲求が満たされるとか、達成感を感じるといったこと。これは、他人から与えられるものではなく、その人自身が感じるものです。よく求人サイトで「アットホームで、仲の良い職場です」といった文言を見かけますが、「働きがい」ばかりが並んでいると胡散臭いですよね。「働きがい搾取」という言葉が流行っていますが、働きがいと同時に働きやすさもないと疲弊してしまいます。そこが軽視されていると考えています。

新橋のサラリーマンがテレビのインタビューで語る職場への不満の多くは、「給料があがらない」「残業が多い」「現場に人が入ってこない」という3つです。私がここ2年ほど、業界の勉強会などで「ITエンジニアの幸せな未来」というテーマでお話ししているのが、「働きやすさと働きがいを同時に追求していきましょう」ということです。給料を上げる、労働時間を減らす、オフィスをきれいにする、食事を出す、育休を取りやすくするといったことは、「働きやすさ」の因子です。でも、ただ単に会社が働きやすい環境を与えるだけだと、社員はだらけてしまうんです。それと並行して個々が「働きがい」を追求してくことで、会社と社員はwin-winの関係になることができると考えています。

田中社長が考える「幸せな働き方」や「企業のあり方」とは?
後編につづく

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写真:布川航太
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酒井 章(TOO☆AKIRA)
一枚目では、企業の人事部門で社員のキャリア形成支援を行い、NPO法人二枚目の名刺では“ミドル代表”として「TOO(隣のおせっかいおじさん)」役を務める。その他、ワークショップ・デザイナーや大学院非常勤講師(グローバルビジネス、キャリア)としての顔も持つ「超名刺ホルダー」。現在、企業人の幸せな働き方を実現する“性善説の人事”のあり方を探求している。