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公務員人生を変えた二度の転機と、2枚目の名刺の関係性〜福岡市役所・今村寛さん(前編)

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今村寛さんは、福岡市役所の現役の管理職(経済観光文化局総務部長兼中小企業振興部長)でありながら、業務外では自治体財政をゲーム感覚で体験できる「財政出前講座with SIMふくおか2030」の講師として2014年から全国各地を巡業。これまでに全国で150回以上開催し、参加者の延べ人数が約5500人という実績※をお持ちです。4年経った今でも全国から依頼が相次ぎ、半年以上先まで開催日程が決定しているというから驚きです。

※福岡市役所内で80回以上開催し、約2000人が参加した実績を含む。

本業では着実に実績を残し、また2枚目の活動でもひっぱりだこの今村さんに、管理職という立場で2枚目の名刺の活動を行う上での留意点や、同立場からの視点、また若い世代へのメッセージを中心にインタビューを行いました。

今村寛さん
1969年神戸市生まれ。1991年に福岡市役所入庁。
2012年から2016年3月まで財政調整課長を務めた経験から、地方自治体の財政状況をわかりやすく説明する「財政出張出前講座」と、財政シミュレーションゲーム「SIMふくおか2030(*1)」の開催依頼を受け、全国各地を飛び回っている。

(*1)SIMふくおか2030
仮想自治体を舞台に、2030年までの15年の間に5年ごとに起こる様々な課題に対して、6人1チーム(仮想自治体の幹部職員)になって判断を積み重ねていく、対話型シミュレーションゲーム

職員一人一人に、財政のことを知ってもらわなければ!

金治:今村さんと言えば、代名詞である「財政出張出前講座 with SIMふくおか2030」の講師として全国を飛び回っておられますが、まずは本業について教えていただけますか。

今村:今は、経済観光文化局中小企業振興部長として、福岡市における中小企業・商店街の経営支援、人材確保、伝統産業の振興などを担当しています。

金治: 2枚目の名刺の活動を行うことになったきっかけは何だったのでしょうか。

公務員人生を変えた二度の転機と、2枚目の名刺の関係性

(財政出張出前講座withSIMふくおか2030の様子)

今村:元々は、財政調整課長に就任した2012年に、福岡市の職員向けに「財政出前講座」を開催したことがきっかけでした。
その年、福岡市は行財政改革プランを策定する年で、財政調整課の仕事で将来の見通しを推計したところ、当時の予算配分のままでは限界がくることが明らかになったんです。このままではまずい。職員一人一人に、財政のことをもっと知ってもらわなければならない、と思い、役所内で財政出前講座を始めました。
福岡市では、一件ごとに財政課が査定する「一件査定」ではなく、部局ごとに先に予算編成に必要な財源を配分する「枠予算」という予算配分の方法を採用しています。財政調整課がすべて査定することには限界を感じていたので、「自分たちが使いたい予算の財源は自分たちで創出してください」というメッセージを伝えたい、という想いから始めました。

金治:最初は財政調整課のお仕事として、福岡市役所の中で財政出前講座が始まったんですね。それが今や全国区ですよね。ご自身が所属する福岡市役所の中だけではなく市役所の外で、しかも業務外の活動として講座をやることになったきっかけは何だったのですか?

今村:2014年にたまたま福岡で財政出前講座を聴いた長崎県諫早市役所の職員さんから、「うちの職員向けにもやってください!」と依頼されて、諫早市役所の職員の勉強会で財政出前講座をやったのが最初でした。そこからポツポツと「うちの勉強会でも話してください」「研修の講師として来てください」といった依頼が舞い込むようになりました。

金治:すぐに全国各地で今のように年間10回も20回もやるようになったのですか?

今村:いや、そんなことはありません。お声がけいただく回数が爆発的に増えたのは、座学だけだった財政出前講座に自治体財政のシミュレーションゲームを組み合わせてからですね。当初は財政出前講座の座学のみ行っていたのですが、2014年に熊本県で開発された自治体財政シミュレーションゲームSIM“熊本”2030に魅了され、そのSIM熊本2030をベースに福岡市を舞台にしたSIM“ふくおか”2030を開発し、2015年に財政出前講座と組み合わせたんです。それが大ブレイクし、全国各地からたくさんの依頼をいただきまして、現在のように広がっていきました。
回数を重ね、参加者の反応を見ているうちに、自治体が違っても財政の構造や困りごとは皆同じであり、このコンテンツがその課題解決の糸口になり得るのだ、という実感を得ています。

市役所不信、初めて「役所辞めたい」と思った

金治:同じ福岡市役所内とはいえ、最初に財政出前講座を「やってみよう」と行動を起こすには大きなエネルギーが必要だったかと思います。しかも、今では福岡市役所内で80回以上、市役所の外でも70回以上やられていて、これだけの回数の講座やるには、今村さんの中に何か財政出前講座にかけるエネルギーやモチベーションがあるのではないかな、と思ったのですが。

今村:実はその話は、私の公務員人生の中で最大の転機となった東京財団の半年間のアメリカ研修への参加と、研修に参加したいと思うに至る“冬の時代”までさかのぼります。
研修の数年前、福岡市が取り組んでいた事業の破綻が続いており、私は財政課の担当係長として2004年に複数の事業の破綻処理の業務に携わっていたのですが、その仕事をしながら、「どうして役所のやっていることは失敗するんだろうか?」という疑問をもっていたんです。ちょうどそのとき、銀行から転職してきた同い年の職員と一緒に破綻処理を担当していたんですが、その職員が毎日のように、「なぜこんなプロジェクトが稟議を通ったんですかねぇ。」と呟いていたんです(笑)。
そんな同僚の言葉を聞いて、長年自分が正しいと信じてきた組織をあっさり否定された気がしました。自分が当たり前だと思っていたこの組織は、なんてくだらない組織なんだ。役所ってそんなもんなんだ。財政課では査定マシーンとして嫌われるし、こんな場所に身を置いておくことは本当に自分の幸せになるのだろうか?と、それまでの前提がガラガラと音を立てて崩れました。
このとき初めて、「役所辞めたい」と思ったんです。
そんな財政課不信、市役所不信のマイナス感情が続いていたときにたまたま東京財団の研修のことを知り、一度まっさらな状態で学びなおしたいと思い、思い切って申し込みました。

公務員人生を変えた二度の転機と、2枚目の名刺の関係性

金治:その後、半年間の研修ではどんなことを学ばれたのでしょうか?

今村:研修は、プロジェクトマネジメントや市民との対話、異文化コミュニケーションなどを学びながら、自分の自治体で抱える課題を解決するためのプロジェクトを立案する、という内容でした。

金治:研修に参加した成果としては、どんな学びが得られたのでしょうか?

今村:この研修で最も大きな学びとなったのは、本当の意味の「対話」に出会ったことです。財政課では、相手方が主張する予算要求をどうやってカットするか、どうやって論破するか、ということしか考えていなかった当時の私にとって、対立関係ではなく、同じ方向を向いた対等な関係での「対話」の概念には、稲妻が走るような衝撃を受けました。この学びにより、今の私を見ていただければわかると思いますが(笑)、研修に求めていた成果は十分に得られたと思います。
また、役所という組織、特に財政課については、研修を通じて同じ方向を向いて対話するように変えていかなくては、という気持ちを強く抱くようになりました。結果的に、それが財政出前講座という形で実現するのまで4年間かかるのですが(笑)

今村さんの活動年表

今村さんの活動年表

大きな転換期により財政出前講座をスタート

金治:アメリカでの研修から戻られて、ご自身の中での想いや変化を形にするまで少し時間がかかったということでしょうか?

今村:研修の直後に配属された市民局スポーツ振興課や、初めて課長になった総務企画局企画課でも、もちろん小さなチャレンジはいくつもしていますし、それが成果に結びついたものもあります。でも、研修に参加して得た、「同じ方向を向いた対話」が一番大きな形で実現したのは、財政調整課長のときに始めた財政出前講座だったと思います。
通常業務のみでは難しかった、役所内での価値観の共有、危機感の共有が浸透し、財政課の査定でも、「同じ方向を向いた対話」が実現するようになったんです。

金治:財政調整課長に就任され、その年に財政出前講座を始めていらっしゃいます。財政調整課長になったら、すぐに実行すると決めていたのですか?

今村:いや、このとき財政出前講座の実現につながったのも、研修に参加した時と同じように大きなマイナス感情でした(笑)
財政調整課長に着任した同年に行財政改革のプランを策定する際、第三者委員会の監督の下策定することになったんですが、その座長が元三重県知事の北川正恭先生だったんです。財政課がすべての権限を握り、一つ一つの事業を査定する中央集権的な行政運営ではなく,市民に近い現場に権限と責任を委ね,各部局の自律経営により組織運営を行うという北川先生の持論のもと、「財政課がふんぞり返っている自治体はダメだ」と何度も叱咤激励をいただきました。
また事業の見直しによって生み出した財源を新しい事業の財源にあてる「スクラップアンドビルド」ではなく、まず取り組むべき事業を明確にし、その取り組みに必要な財源を生み出すために既存の事業の優先順位にメスを入れる「ビルドアンドスクラップ」の考え方など、財政運営の基本的な考え方がコペルニクス的に大きく転換しました。
この“北川正恭ショック”によって、いよいよ職員を対象に財政出前講座というものをやらなければならないような流れになりました。

金治:結果的に財政調整課長になられたその年に、二つのショッキングな出来事があって、業務外の活動へと繋がるんですね。

今村:そうですね。研修に参加したことで私の中では大きな変化があったのですが、今思えば、それがこの年の出来事によって一気に覚醒したような感じかもしれません(笑)

公務員人生を変えた二度の転機と、2枚目の名刺の関係性

(同年には、話題を決めず、職員が時間外に集まってなんとなく話すオフサイトミーティング「明日晴れるかな」もスタート)

後編に続く

【満員御礼!作戦会議@神戸 募集締め切りました!】

10/27(土)10:00- 作戦会議「公務員プロジェクト、関西初上陸!」
場 所:120 WORKPLACE KOBE(兵庫県神戸市中央区磯上通4丁目1―14三宮スカイビル)
内 容:公務員こそ2枚目の名刺で社会を変える! 未来を拓く!
「公務員が2枚目の名刺をもつ社会を当たり前にする」ことをミッションに活動をしている「公務員プロジェクト」(正式名称:公務員×2枚目の名刺プロジェクト)。地域の課題に日々向き合う公務員が、組織や立場を越えて課題解決に活躍する社会をつくる。そんなプロジェクトに関心のある人は大歓迎!おかげさまで参加希望者多数により満員御礼となりました。ありがとうございます。
主 催:NPO法人二枚目の名刺

写真:長谷川尚人

※ライターがブログで取材のこぼれ話を執筆しています。Webマガジンでは紹介しきれなかった話も随時公開!>おてんば公務員の徒然ブログ

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編集者

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カメラマン

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金治 諒子
ライター
公務員×2枚目の名刺プロジェクトメンバー。 母であり、妻であり、プライベートで社会活動に携わる姫路市職員。孤独な子育てを経験し最愛の子ども達の前で笑えない日々を過ごす中で、社会と自分の在り方に疑問を持ち、地域に飛び出すようになる。子ども達の世代まで持続可能な繁栄を願う。そのためにまずは、母自身が自分の人生に主体性を持って行動する。