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「ロート目薬」で知られる大手製薬会社のロート製薬(株)が、4月から社員の柔軟な働き方を後押しする「社外チャレンジワーク制度」と「社内ダブルジョブ制度」をスタートしました。これらの制度を通じて、一人一人の働き方や会社のあり方が変わり、社会の変革にもつながると期待されています。

アイデアを生んだプロジェクトメンバーの一人で広報・CSV推進部の吉本有希さんと、提案の実現に踏み切った人事総務部の矢倉芳夫さんに聞きました。

 

人事改革の一環で生まれた「社外チャレンジワーク」

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−−−−社員の副業を認める「社外チャレンジワーク」と、兼業を推奨する「社内ダブルジョブ」。これらの制度が生まれた背景を教えてください。

矢倉:ロート製薬が2016年2月に発表した、新しいコーポレート・アイデンティティ(CI)「NEVER SAY NEVER(不可能は絶対にない)」には、先人たちの飽くなき挑戦の“DNA”を受け継ぎ、常識の枠を超えてチャレンジし続けていく決意が込められています。このCIと同時に制定されたのが、「社内ダブルジョブ制度」と「社外チャレンジワーク制度」です。

「社外チャレンジワーク制度」は、「副業」を希望する入社3年以上の社員が、会社にその内容を申請し、認められれば可能になるというもの。「社内ダブルジョブ制度」は、一つの部署にとどまらず、複数の部門・部署を担当できる制度です。いずれも社員の発案で生まれました。

吉本:もともとは2014年に若手社員を中心とした「明日のロートを考える(略称ARK)プロジェクト」が発足したことにさかのぼります。私が参加していた人事改革プロジェクトのグループでは、一人一人の自立を促し、“気概”を育てる働き方について模索していました。「会社の流れのなかだけでなく、組織にいながらにしてベンチャー精神を持って働く社員を増やすにはどうすればいいか」。そんなことをテーマに話し合うなかで出てきたのが、「副業」のアイデアです。

社員一人一人の視野が広がるきっかけになればと「社内ダブルジョブ」が生まれ、さらにダイナミックな活躍のためには、社外でも働きやすい環境があったほうがいいと「社外チャレンジワーク」を提案しました。これまでも新規事業立ち上げの際などに、他社と共同で進める機会が多くありましたが、社外の人とつながりを持つことは成長のチャンスにもなります。社外での経験値が上がれば、社内で新しい挑戦をするときに役立つだろうと考えました。


−−−−社員から発案されたアイデアを、会社としてはどう受け止めたのでしょうか。

矢倉:まぁ「いろいろ言ってくれるなぁ」というのが、提案を受けたときの正直な感想です。実践はなかなか大変ですから(笑)。でも、「制度ありき」の提案ではなかったことで、すんなり実現につながりました。「こんな制度がないと困る」「在宅勤務を制度化して」といった一方的な主張ではなく、一人一人の働き方が変わるきっかけになる提案だと思いました。

吉本:プロジェクトの目的は、制度をつくることではありませんでした。「今までやったことがない働き方をして、日本を変える」というもっと大きな目標があったので、そのことをちゃんと伝えられるような提案を目指しました。

矢倉:ロートの経営理念の冒頭に「私たちは、社会を支え、明日の世界を創るために仕事をしています」とあり、社会貢献は本業を通じてこそ実現できるものだという確信があります。その意味で、制度づくり云々の前に社会とのかかわり方や働き方を考える視点が不可欠ですが、提案はまさに会社が求めていた社会とのかかわり方に関する視点を捉えていました。

常識を超えたアイデアを生み出す仕組みづくり


−−−−日本ではまだまだ「副業」を禁止している会社が多いのが現状です。解禁に踏み切った背景には、会社としてのどんな思いや戦略があるのでしょうか?

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矢倉:制度づくりにあたっては、始める前から規則などをきっちり決めるのではなく、やりながら変えていく前提でスタートしました。何か不具合が出てきたら、その都度修正すればいいので、実現が難しいとは思いませんでした。

根底には「世の中の常識と違うことをやる」という、先代から受け継いできたロートのDNAがあります。社員の成長はもちろん、もともと「常識を疑う」という姿勢を大事にしてきました。これまでにも、例えば新入社員の採用にあたり、就活ナビの活用をやめて電話でのエントリー受付を開始しました。ネット経由での3万人の応募者の中から、本当にロートへの思いを持つ人と会うのが難しいと感じていたからです。結果、成績だけでなく人となりを見ることができるようになり、より熱意を持った人材の採用につながりました。

一般的に効率的といわれる方法を「本当にそうだろうか」と疑い、思い切って手法を変えることで、新しい道が開けることがあります。

吉本:ロート製薬の社内人事制度も、とてもダイナミックです。人事異動のタイミングやまったく経験のない分野で働くことも多々あります。社員にとって、新しい環境で働くストレスはありますが、それは成長のチャンスととらえることもできます。変化のある環境に身を置くことで発想力の転換にもつながると思います。

矢倉:組織や特定の部署の中に、同じような経験や価値観の人だけが定着すると、一つの成功体験が根付いてしまい、思い切ったアイデアが出にくくなります。でも、常に“素人”がいる環境をつくれば、新しい常識を生み出す可能性が広がります。素人ばかりでは危ういですが、両方が交わる場を通じて、多様な集まりが実現できる仕組みを意図的につくっているのです。若手だけでなく、幹部層も急に新しい環境に放り込まれることがあり、たしかに思い切った人事といえるかもしれませんね。

会社の枠を超えた働き方で新しいアイデアを生み出せるように


————新しい制度に対する社内の反応はいかがですか?

吉本:これまでもボランティアベースで独自に活動してきた社員は多く、特に東日本大震災以降、ボランティアバスや奨学基金「みちのく未来基金」など会社のプロジェクトなどを通じて支援を続けている人もいます。

一方、無収入ならともかく、今まで本業以外で収入を得ることにためらいがあって、他に何かを始めたくても踏み切れなかった社員がいたと思います。そういう意味で、今回の機会を待っていた人も多いはずです。

矢倉:副業を始める社員が増えていくのはまだこれからですが、すでに副業宣言した社員に対する社内の反応は悪くないと思います。「そんなことに興味があったのか」「知らない一面が知れた」と、新しい会話が生まれています。

ロート製薬は、1899年(明治32年)の創設以来、「ロート目薬」の事業をはじめ様々な場面で失敗と成功を繰り返してきましたが、ここ20年ほど業績は右肩上がりで、社員が切羽詰まった状況に置かれる機会はあまりありません。恵まれた環境ゆえの贅沢な悩みかもしれませんが、今後は社内の限られた関係だけでなく会社の外でたくさんの人とかかわりながら新しいことにチャレンジする精神が必要です。


————発表後、多くのメディアで取り上げられ、大きな反響がありました。周囲の反応を受けて、感じることはありますか?

吉本:発表にあたっては、「社内ダブルジョブ制度」と「社外チャレンジワーク制度」以外にも「健康経営推進グループ」の設置などたくさんの新しい方針や展開について示しましたが、結果的に「副業」が一番注目されました。

ヘルスケアの業界は、ヘルスケア以外の多様な事業を展開する企業も参入し、今どんどん大きくなっています。そうしたなか、常識破りのチャレンジをこれからも続けていくために、これらの制度をうまく融合させながら社会に新しい価値をつくっていけたらと願っています。同じような取り組みをする企業が増えていけば、おもしろいと思います。

矢倉:制度の発表後、知人から久しぶりに連絡があるなど、社内よりむしろ社外からの反応のほうが大きかったと思います。私は、本業とは別に地域のまちづくりに携わっていますが、実は当初は無力さを感じていました。肩書きもなく活動を始めたことで、それまでロートという看板で仕事をしていたと気付いてしまったのです。でも、会社の外で様々な人と交流しながら、多様なリーダーシップのあり方を学びました。会社では、周囲をぐいぐい引っ張っていくリーダーシップが求められがちですが、地域ではむしろ地域のためにひたむきに活動する人を自然とサポートする形で物事が動いていたのです。

何事も経験で、会社の外で学ぶことはたくさんあります。様々な環境に身を置くことで、社員が成長し、結果的に社会への貢献にもつながれば理想的ですね。

 

見返りを求めすぎず自主性を尊重する


————制度を利用する社員やその影響について、どんな期待をしていますか?

矢倉:変化が激しい時代、企業にも変革が求められていますが、社員の人材育成を含め、社内だけで改革するのは難しくなってきています。そこで、社員一人一人が外に出て行って幅広い人脈や視野を持ち、新しいものを生み出していくことが大切です。

これらの制度は、人事がレールを敷いて進めていくのではなく、基本的には社員の自主性に任せて使ってもらうもの。今のところ、20代〜50代の幅広い年齢層から申請があり、年齢や部署などに関係なく活用してもらえそうです。これをきっかけに、より多くの社員の新しいチャレンジを後押しできればと願っています。

————副業する人が増えると、社員の離職のリスクも懸念されますが。

吉本:結果的に会社を離れる決断をする人がいてもいいと思います。ロートを卒業して活躍できるなら、どんどん応援したい。離れても関係が続いていく雰囲気があり、一度離れた後に良さを見直して戻ってくる人もいます。戻ってこなくても何か別の形で一緒に仕事ができれば素晴らしいですね。

矢倉:失うことを恐れていては得るもののも少ないと思います。また、副業を認めたことがすぐに会社のメリットにつながるとは考えていません。短期的な視点で還元を期待しすぎても、本人の自主性とずれてしまいます。「いつかつながればいい」くらいの気持ちで、まずはどんどん外に出て行って成長してほしいです。

(新海美保)

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