第4回 「副業・兼業」政府の議論の中で見えてきた可能性と課題

「パラレルキャリア」「兼業・複業」という言葉をここ数年で耳にすることが多くなってきた。個人、企業双方にとって「働き方」が変化し始めており、その動きは都市部から地方にも広がり始めようとしている。

日本の「働き方改革」の政策立案や「内閣府プロフェッショナル人材」に携わるみずほ情報総研株式会社 社会政策コンサルティング部 雇用政策チーム シニア コンサルタントの田中文隆さんによる、日本全体に少しずつ拡大しつつあるワークシフトの話を中心とした連載、第4回目は「副業・兼業が議論され始めた背景と政府の取組」をテーマに寄稿いただいた。

副業・兼業が議論され始めた背景と政府の取組

第2回コラム「働き方の枠組みが変わる~働き方改革最前線の現場~「わが国における働き方改革検討の動き」では、政府の働き方改革、特に多様な働き方について第2次安倍政権発足時の議論から紹介してきたが、今回は多様な働き方の中でも、特に「副業・兼業」について各種実態調査の結果を活用して整理してみたいと思う。

政府で、副業・兼業が本格的に議論されるようになったのは、「一億総活躍プラン(平成28年6月)」や「日本再興戦略(平成28年6月)」を受けて、内閣府「働き方改革実現会議(平成28年9月~平成29年3月)」の9つある検討項目の1つとして「テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方」が加わったことに端を発する。

(経済産業省)

各省の動きでは、経済産業省が平成28年11月に「『雇用関係によらない働き方』研究会」を立ち上げ、雇用関係によらない働き手(4,000名調査)の実態を把握した上で、働き手や企業、仲介機能を持つプラットフォーマー、そしてそれら3者を取り巻く社会環境(社会保障・労働法制等)に関して議論を深め、提言を出した。

「副業・兼業」と「雇用によらない働き方」というワードは一見、直接的に繋がらないように思えるが、わが国においては、複数の職場と雇用関係(契約)を結ぶことは、使用者による社員の労働時間通算の管理や社会保険按分等の問題があり現実的ではなく、実態として1社と雇用契約を結びながら、他方で業務委託契約等を結ぶことで「副業・兼業」が成立していることが背景にある。

また、本研究会では企業観点から言えば、自社の社員の「副業・兼業」についてどのように捉えていくかという問題と同時に、市場や技術の予見が難しい中、業務のあり方を見直し外部人材(副業・兼業という形態など)を積極的に活用していかにオープンイノベーションを促していくかということと通じるものであるとして議論がなされた。

(厚生労働省)

厚生労働省では、平成30年1月に「モデル就業規則」や「ガイドライン」を提示し、平成30年7月から「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」において、事業主を異にする場合の労働時間制度の在り方に関する議論をスタートさせるなど働き手や企業、仲介機能を持つプラットフォーマーそしてそれら3者を取り巻く社会環境(社会保障・労働法制等)の整備を進めようとしている。

【図表1】雇用関係によらない働き方(イメージ)

(出典)経済産業省「雇用関係によらない働き方」に関する研究会報告書 P.6 平成29年3月

 

働き手4,000名調査結果から見えてきたこと

前述のように、「雇用によらない働き方」の実態を把握するために、働き手4,000人に対するアンケート調査を実施した。雇用によらない働き方には多様な形態があり、以下の3つの分類に区分して、それぞれA層2,000名、B層1,000名、C層1,000名のサンプルを確保した。

A層は「雇用関係なし」の層である。すなわち、個人事業主やインディペンデントコントラクター 、フリーランサーなど、どの事業主とも雇用関係にない働き方をしている者 である。B層「雇用関係あり×雇用関係なし」は、例えば1社で雇用関係をもって就業し、同時に空いている時間でプロジェクト契約等を結び働いている方々である。正社員サラリーマンの場合の副業・兼業は、この形態に当てはまる方が多いのではないか。C層「雇用関係×雇用関係」は雇用関係を複数の会社と結んで働いている層を対象としている。契約社員やパート社員などの雇用形態で複数の会社で働いている方が含まれている。

【図表2】調査対象者(3分類)

(出典)経済産業省「雇用関係によらない働き方」に関する研究会報告書 P.10 平成29年3月

 

先ず個人属性、職種の実態からみていこう。各A層、B層、C層ともに性別では、雇用者全体と比べると比較的男性比率が高い。年齢層では大きな違いはみられない。

【図表3】性別・年齢

(出典)経済産業省「雇用関係によらない働き方」に関する研究会報告書 P.12 平成29年3月

 

主な職種をみると、A層では、「クリエイティブ、専門職系」が3割以上を占め、他のB層、C層と比べて圧倒的に多い。一方、B層とC層では経営企画・人事・財務・法務・広報・マーケティングといった「経営・ビジネススキル系」の職が多く、またC層は製造生産スタッフ・物流・運搬・保守保安・各種メンテナンスといった「現業系」の占める割合が比較的高い。

【図表4】職種

(出典)経済産業省「雇用関係によらない働き方」に関する研究会報告書 P.13 平成29年3月

 

キャリア形成志向の副業・兼業はまだ少数派

現在の働き方を選択した理由について、A層では6割が「自分のやりたい仕事があったため、自分の好きな仕事に集中するため」と回答しており最も多い。一方、B層・C層においては、「十分な収入がほしいため、副収入がほしいため」が45%と最も高い。「スキルアップやスキル・資格の活用のため」は、B層でも1割強にとどまっている。スキルアップやスキル・資格の活用など、いわゆる自身のキャリア形成志向の「副業・兼業」は、まだ少数である。

【図表5】現在の働き方を選んだ理由

(出典)経済産業省「雇用関係によらない働き方」に関する研究会報告書 P.19 平成29年3月

 

雇用されない働き方では、自己研鑽への取組は後回しになるという課題も

スキルアップ・自己啓発を目的とした研修・セミナー、勉強会等への費用をみると、A層、B層、C層いずれの層も、ほぼ半数が「0万円」と回答している。また、何らかの理由で研修・セミナー、勉強会等を受講していない層がA層で7割、B層とC層で5割と多くがスキルアップに関する具体的行動に至っていないことが分かる。

雇用関係のない働き方こそ会社主導のスキルアップ機会が見込めないため、自発的なスキルアップへの取組が求められると思うが、その動きは芳しくない。仲介機能を担うプラットフォーマーやフリーランス関連の業界団体では独自に研修・セミナーや講座等を設ける動きを取り組み始めており、このような動きに対する支援も必要となるだろう。

【図表6】スキルアップ・自己啓発の状況

(出典)経済産業省「雇用関係によらない働き方」に関する研究会報告書 P.21 平成29年3月

 

「二枚目の名刺」独自調査結果から見えてきたこと

NPO法人二枚目の名刺では、平成27年1月~2月にかけて従業員が1,000名以上の大企業に勤める正社員に対して、副業・兼業に関する意識調査を実施した。筆者も一部、調査設計に参画させて頂いたが、当該調査結果から大企業正社員の意識と実態についてみていこう。

本調査は、大企業勤務者に焦点を当てており、前述の経済産業省調査でいえば、B層が比較的近いサンプルである。

副業実施率は約8%、副業意向者は55%

大企業勤務正社員の男女20代~60代における副業実施率は7.7%であるが、1年以内には副業実施意向のある者が10.3%、1年以上先であるが副業実施意向のある者が45.4%となり、約6割強が副業に対してポジティブな反応を示している。また、年代別にみると20代、30代の若年・ミドル世代で副業意向の比率が高くなっている。

一方で、政府が副業・兼業の環境整備を整えていこうとする中、労働政策研究・研修機構「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査(平成30年9月)」(PDF:http://www.jil.go.jp/press/documents/20180911.pdf)では、1,000人以上の大企業においても、「副業・兼業を許可する予定はない」が7割を占めており、慎重な姿勢の企業と個人の間には一定のギャップが存在している。

長時間労働の是正や圧倒的な人材不足の中、社員を出来れば囲い込みたい、自社の業務に集中してほしいという本音も背景にはあるのではないか。

【図表7】性・年齢別にみた副業・兼業の実施率、関心度合い

(出典)NPO法人二枚目の名刺「大企業勤務者の副業に関する意識調査 結果報告書」P.7 2017年2月

同調査で、副業実施者に副業で使っているスキル・知識をきいたところ、「趣味のスキル・知識」が6割と最も多く、「仕事で得た専門スキル/知識」が4割であった。

この結果を「趣味系項目&ビジネス系項目を選択」、「趣味系項目のみ選択」、「ビジネス系項目のみ選択」と3つのカテゴリーに分け、副業を始めた理由をみると「趣味系項目&ビジネス系項目を選択」している層は、「活躍する場を増やす」、「新たな職種経験を積む」といったキャリア形成志向が多い一方、「趣味系項目のみ選択」の層は「お小遣い稼ぎ」目的が多い。

多様な働き方に是非は無いが、少なくとも大企業社員の副業・兼業について議論をする際にも、多様な像があることには留意が必要である。さらに、上記のような企業と個人の意識のギャップを掘り下げていくためには、本調査で一定割合確認できた「キャリア形成志向」の副業・兼業人材像にも着目していくことが必要ではないか。その中には、いわゆる「パラレルキャリア」 や「越境学習」 というコンテキストで議論される新たな働き方を体現している層が含まれる。

【図表8】副業・兼業で使っているスキル/知識

(出典)NPO法人二枚目の名刺「大企業勤務者の副業に関する意識調査 結果報告書」P.15 2017年2月

(出典)NPO法人二枚目の名刺「大企業勤務者の副業に関する意識調査結果報告書」P.55 2017年2月

一部の人事は他社社員の兼業での活用を検討

NPO法人二枚目の名刺の独自調査では、大企業人事担当者(368名)に対しても副業・兼業に関する意識について調査を行っている。

副業・兼業の形態で他社の社員の活用意向のある者は2割強にとどまり、4割弱は「考えたことがない」と回答している。ただし、サンプル数は少ないが副業禁止規定の見直しの予定あり企業では、6割が他社社員を活用したいとの意向を示している。

筆者は、自社社員の副業・兼業を容認していくことと、副業・兼業の形態で外部人材を活用していくことは、別々のものとして議論していくのではなく、パラレルで議論することに気付きや示唆があるのではないかと感じている。

【図表9】業務委託等による他社勤務者の活用意向

(出典)NPO法人二枚目の名刺「大企業 人事の副・兼業に関する意識調査 結果報告書」P.22  2017年3月

副業・兼業の議論は、企業と社員の新たな関係性を考えるきっかけとなりうるか?

ここまで、経済産業省やNPO法人二枚目の名刺の独自調査結果等を活用して副業・兼業の実態の一端をみてきた。

大企業社員の副業・兼業に対するポジティブな意識に関して、企業の副業・兼業に対する意識は慎重なものであった。このギャップは何か。筆者は、その背景には人事視点での副業・兼業論と経営・組織開発の視点からの副業・兼業論がバランスよく議論されていないことにあるのではないかと思う。自社の社員が副業・兼業を行うことの問題点とその反応に耳目が集まり、副業・兼業の形態でこそ活用可能な外部人材の登用や経営・組織に与える効果等については企業内においても、いまだ議論が深められていないのではなかろうか。

前述の調査結果でも、副業禁止規定の見直し予定はないとする企業の3割強が副業・兼業といった形での他社社員の活用について「意向なし」であったり、3割が「考えたことがない」と回答していたりするなど、社内での議論の余地は十分にあるのではないかと思う。

人口減少、さらに人手不足の中で人材のつなぎとめ(リテンション)の重要性が問われているが、企業も個人もこれまでのゼロ・イチの関係性が当たり前ではなくなる世界をイメージしてみることが必要だと思う。離職した社員はかつての社員でなく、今でも兼業・副業で自社にも貢献してくれる人材、そんな時代がやってくるかもしれない。

 

[i]専門性を備え、プロジェクト単位で契約を複数の企業と結んで活動する個人事業主

[ii]なお、士業/自営業/自営業主(飲食店・卸小売店・農業等)については、それのみで就業している働き方は本調査では対象外としている。例えば、弁護士で弁護士業のみを行っている者は除外しているが、弁護士業を行う傍ら、法資格に関する講師業などを副業的に行っている層は対象としている。

[iii]本業をしっかり持ちながら、同時にNPOやプロボノ(専門性を活かした社会貢献活動)、副業など本業以外の活動に取り組み複数のキャリアを実践すること

[iv]自身の所属する組織の枠を自発的に越境して、自らの職場以外に学びの場を求めること

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田中 文隆

田中 文隆

【みずほ情報総研株式会社 シニアコンサルタント 兼 プロフェッショナル人材戦略全国事務局 統括マネージャー】 早稲田大学政治経済学部卒業、大手銀行勤務後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了(国際関係学修士)。 2001年10月、みずほ情報総研株式会社(当時:富士総合研究所)に入社。 2004年~2005年 厚生労働省政策統括官付労働政策担当参事官室に出向(労働経済白書執筆に従事)。 地域雇用創出政策、産業人材政策(成長分野・グローバル等)、多様な働き方に関する政策等の官公庁関連の受託調査研究業務、実証事業等に多数従事。 <その他> ◇労働政策研究・研修機構「雇用ミスマッチ解消のための人材ニーズ研究会」委員(2014年) ◇政策分析ネットワーク主催「地方創生シンポジウム(シニア人材×移住)『シニア人材の活用を通じた「地方創生」の可能性』~まち・ひと・しごと創生総合戦略の閣議決定を受けて~」パネルディスカションファシリテーター(2014年) ◇中小企業庁「地域中小企業の人材確保・定着支援事業検討会」委員(2014年) ◇総務省「地方のポテンシャルを引き出すテレワークやWi-Fi等の活用に関する研究会」ワーキンググループ構成員(2014年) 【MHIRコラム】 2016年8月16日 プロフェッショナル人材の地域還流 https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/column/2016/0816.html