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福島県郡山市で3つのヘアサロンを経営しながら、ハサミノチカラのメンバーとして活動している佐藤涼さんインタビュー後編をお届けします。
前編はこちら

故郷の美容専門学校の現状

ーーー佐藤さんは、郡山の美容専門学校の学生さん達に「ハサミノチカラ」の活動を伝えることもされてますよね。 

佐藤:そうですね。自分がハサミノチカラに参加することで気づけたことが多いので、タイミングがあれば学生さんに限らず誰にでも伝えていきたいなと思っています。美容専門学校の学生さん達は、これから美容師になって行く人たち。でも、美容師って楽な仕事じゃないんですよね。

入社したときも楽じゃないし、じゃあ歳とれば楽になるかというと逆にもっと大変になっていく。でも、学生さんってそういう想像ができていないし、学校の先生も明るい未来しか語らない。現実を教えてくれないんですよ。でも、必ず苦しいときはくるけど、「選択肢があるだけでも幸せ」「挑戦できるだけでも幸せ」ってことだけは学生さんに伝えたい

———フィリピンの子ども達を通して、佐藤さんが感じられたことですね。

佐藤:僕らが学生の頃って、どんな美容室に就職したいかって聞かれたら「大きくてかっこいい美容室!」って答えてたんですけど、今の学生さんは、「アットホームで、人間関係がいい美容室」って答える子がすごく多い。人間関係に重点を置いてるんです。でも、コミュニケーションギャップって減らすことはできても絶対ゼロにすることはできない。100%人間関係がうまくいくんじゃないかっていう甘い気持ちで仕事していると、うまくいかなくなった時に辛くなって辞めてしまう。

職場の人間関係って、家族でも恋人でもないんだから、コミュニケーションギャップは絶対埋まらないものなんだよ、自分が相手を理解しようとしないとダメなんだよ、ということを知って欲しい。ハサミノチカラを通して学生さんに伝えたいことは、美容師ってそんなに楽な仕事じゃないけど、豊かな国に生まれたことや、挑戦できる環境にあることを幸せに感じて欲しいということ。

ーーー美容師になりたいと思う学生さんが減っているとお聞きしました。 

佐藤:郡山の例でいうと、10年前は美容学校も学年で100人いたんですよね。3クラスくらいあって。それが、ここ2〜3年は30人くらいしかいない。1/3にまで減ってるってことですね。

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ーーー以前はカリスマ美容師に憧れてとか、美容師ってカッコイイ職業っていうイメージがあったじゃないですか。でも、今は1/3にまで学生さんが減ってしまってる。今美容学校に通っている学生さん達は、なぜ美容師になりたいんでしょう?

佐藤:難しい質問ですね。美容に対する憧れだったり、デザインが好き、美容が好きという子も確かにいます。でも、今すごく多いなって感じるのは、高校卒業するけど大学には行きたくない。でも働くのも嫌だ。専門学校にでも行こうかな。そんな子が多いように感じます。

ーーー人の役に立ちたいとか、そういった視点から美容師を目指す子は?

佐藤:あぁ、それもあるかもしれません。ボランティアに興味を持ってる子は多いです。うちのサロンは1店舗だけ病院と提携しているんですね。その病院でカットをしたいからうちのサロンを志望した子がいます。そこはアシスタントも付けられないし、ほとんどカットだけしかできないので、最初はビックリしましたけど、そういう子が増えてますね。

ーーー2011年の震災がきっかけの一つになっているのでしょうか。

佐藤:それはあるでしょうね。結局は周りの大人達や社会がそういう方向に動いているから、その中で育てられた子ども達が、意識が高くなっているのは感じます。

ーーー美容学生にハサミノチカラの活動を伝えるというのは、とても素敵だなと思います。 

佐藤:たまたまフィリピンだというだけで、ハサミ一本あれば、いつでもどこでも美容の力って発揮できますから。美容師って素敵な仕事なんだけど、大人の立場としては、それを素敵と言い続けられる環境を作らないとなと思います。ハサミノチカラも、必ずしも僕らがリードすることがいいとは限らなくて。若い子達に任せちゃってもいいんじゃないかなとも思います。僕らがやり続けると古くなっていきますからね。みんな歳も取っていくし、考え方も古くなっていくし。「今」を表現するなら、若い子の方が絶対正しいんですよ。仕事もそうで、今の時代に向いているものを作り出すのって若い子達だから。

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ベテラン美容師にも働ける場を作る

ーーー先ほど、病院と提携しているとおっしゃってましたが、そもそも病院内にサロンを作ろうと思ったのはなぜなんですか?

佐藤:僕は2代目オーナーなので、僕より年上のスタイリストがいるんですね。50代のスタイリストが2人いて。父親が亡くなって僕が会社を引き継いでから一番最初に考えたのが、残っているベテランの人たちをどうしようかってことなんです。ベテランになった美容師さんが働ける場所を作らないと、と思ったのが、病院内サロンを作るきっかけです。

ーーー50代の美容師さん達は何かおっしゃってますか?

佐藤:こちらを選んで良かったと言ってくれてます。パートさんも募集したんですけど、意外と反応が良くて。以前ハサミを持ってサロンに立ってたけど、子育てなどでリタイアしてる人もいて。病院って、朝9時から夕方5時までだし、土日も休みだから、働く環境が美容室とは違う。だから続けられる。50代〜60代の人が応募してくれて、しかもその中にユアーズ(佐藤さんが経営する美容室)のOBもいたんですよ。

ーーー“ハサミの力”、つまり手に職があるからこそ、復帰できたり、自分の働き方にマッチする場所で自分を活かせたりできるわけですね。

佐藤:パートさん達がみんな言うのは「自分の技術を使って誰かを喜ばせてあげられることが本当に嬉しいんです」ということです。毎年忘年会で言ってくれます。若いスタッフに聞かせたい!(笑)。「感謝の気持ちで切らせてもらってる」って言ってくれて、病院内サロンを作って本当に良かったなって思います。

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“問いかける”シャンプーの誕生

ーーー佐藤さんが立ち上げた「プロジェクトQ」についても伺いたいのですが。「Q」にはどんな意味があるんですか?

佐藤:Qは「クエスチョン」ですね。問いかけです。震災で原発が爆発して、福島県の美容室は営業できない期間がありました。東電にその保証を申し込むんですけど、これが結構面倒臭い。書類書いて送って、ちゃんと書けてないから書き直せって送り返されて、また書いて。保証金は100万円くらいだったんですけど、それ以上に損失の方が大きかったです。この保証金をただ使って終わりにしたくない、なんとか循環させたいと思ってできたのが、「Qシャンプー」です。

もともとあったうちのプライベートブランドのシャンプーのパッケージを変えて販売することにしました。3800円の定価を3000円まで落として、さらに1本につき200円を郡山市に寄付する活動を始めたんです。

多分、原発のことって福島県以外の人は忘れて行く。でも、まだ終わってないよ、現在進行形だよって誰かが伝えなきゃいけないと思って。その問いかけの意味を込めて「Q」なんです。

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ーーー「Qシャンプー」が復興するための力になるわけですね。周りの反応はいかがですか? 

佐藤:反応はありますね。福島のために何かしたいと思ってたんだけど、日々の生活の中で忘れてしまうわけで。福島と宮城と岩手をいっしょくたにしてたりとか。そんな人にポンと投げかけることで、グサッと心に刺さるわけです。

そんなこと言っておいて、実は僕もそんなに熱い思いでこの活動をしているわけではなくて。だって自分も忘れるし、忘れて当然だとも思います。常に忘れないように忘れないようにって思ってるのも疲れるし。常に考えていなくても、心の底で覚えてくれてればいいと思っていて。一回で終わらせるのではなく、小さな力でもいいから継続していくことが大切だと思っています。

普段は忘れていても、思い出したときに何かしてくれればいい。このシャンプーだって、買いたいと思った時に買ってくれればいいんです。

ーーー必要な時に必要なものって巡ってくるんですね。

佐藤:今は、巡り巡ってきたものを大切にしようと思っています。巡ってきたものに対してベストを尽くす。ハサミノチカラでフィリピンの子ども達に出会えたことで、シンプルに考えられるようになったので、気持ち的に楽になりました

父が亡くなった時に、一番泣いていたのが美容師仲間だったんです。それを見た時に、こんな仲間を作りたいなって思いました。そこからハサミノチカラのメンバーに巡り合ったので、それだけでも僕にとってはこの活動には意味があるんです。死んだ時に泣いてくれる仲間ができたなって。まぁ、僕が最後まで生き残ってやるって思ってますけど(笑)。

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様々な活動に精力的に取り組んでいる佐藤さん。情熱的な人なのかと思いきや、実はとてもフラットな見方や考え方をする面白い人だ。ハサミノチカラの航海士は、実は佐藤さんなのかもしれない。これから様々なハプニングや困難を乗り越えながら、ハサミノチカラがどんな航海を辿るのか、非常に楽しみだ。

 

 

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