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貧困地域の子どもたちが自立するための美容室をー美容師のプロボノ「ハサミノチカラ」の今(後編)

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「ハサミノチカラプロジェクト」小山崎裕士さんのインタビュー後編をお送りします。

前編>美容スキルを得た孤児たちが働く場を創出したい!ー美容師のプロボノ「ハサミノチカラ」の今(前編)

視察で気づいた認識の違い

ーーーフィリピンで経済的な地域格差が広がっている中、ハサミノチカラではフィリピンに美容室をオープンしようと動いているとお聞きしました。今、どのくらい話が進んでいるのでしょうか? 

小山﨑:去年の11月にフィリピンに行ったときに、マニラの郊外で物件を何軒か見てきました。その地域の家賃の相場、改装費や器具の相場などを調べてきました。美容室の椅子やシャンプー台を扱っている問屋さんに行って、値段を調べたり。それから、実際に現地の美容室に行ってシャンプーブローをしてもらってスタッフさんに話を聞いたりもしました。あとは料金ですね。現地の美容室の料金の相場を調べました。

ーーーフィリピンの料金の相場はいくらくらいなんですか? 

小山﨑:それが、すごくカルチャーショックだったんですけど、日本だと感覚的に「美容室に行く=髪の毛を切る」じゃないですか? でもフィリピンだとカットに対して日本ほど重きを置いていないんですよ。美容室にはカットをしに行くというよりも、ストレートパーマやシャンプー、ネイルをしてもらいに行くという感覚なんです。カットに対しての価値観が日本とは全然違いました。カット料金もめちゃくちゃ安くて。日本円にすると150円〜200円くらいなんですよ!

ーーーそうなんですね!全然知らなかったです。驚きですね!

小山﨑:日本ではこのあたり(小山﨑さんのサロンcanvas.のある川崎)でもカットは4000円くらい。都心だと5000円くらいはしますよね。ハサミノチカラに協力してくれてるジュウドさん(フィリピンの有名カリスマ美容師)のサロンはマニラの中心部にあって、彼のカット料金は日本円にして1万5000円なんです。だけど、フィリピンの郊外に行くとカットの相場は150円〜200円。

なんでこんなに違うんだろう?と考えたのですが、マニラの中心地はヘアスタイルにも多様性があるんです。ショートカットの人がいたり、ミディアムの人がいたり。ヘアカラーもハイライトを入れている人がいたり。ヘアスタイルをファッションとして楽しんでいるんです。すごくオシャレ。富裕層で経済的に余裕があるからこそできることなんですが。

郊外の人たちはお金がないから、女性は伸びた長い髪を縛っている。髪をカットするというのはオシャレではなく、ただ伸びた部分をそろえるだけという感覚なんです。

ーーーオシャレとしてヘアカットするのではなく、必要に迫られて仕方なくって感じなんでしょうか。

小山﨑:本当に貧しいところだと、自分でカットしちゃうからガタガタだったりしますよ。郊外に行くと、ボブスタイルの人とかいないんです。みんな同じ髪型です。女性は長くて、男性は刈り上げ。伸びた分だけ自分たちで切る。

湿度の高い国なので、カットよりもストレートパーマの方が需要があるんです。髪がまっすぐということの方が重要。

ーーーストレートパーマの料金はどのくらいなんですか? 

小山﨑:日本円で4000円〜5000円くらいなので、日本の相場の大体1/3くらいですね。

ーーーそれでも郊外に住んでる人たちにとっては高額ですよね。小山﨑さんは実際に現地のサロンで施術を受けたそうですが、いかがでしたか? 

小山﨑:まず、お湯が出ません。これはマニラの中心地であってもそうです。ボイラーの設備はやっぱり日本は長けてるなと思います。フィリピンでも高級ホテルだとお湯が出るんですけど。ヘアサロンではお湯が出ないところがほとんどです。先ほどお話ししたカット料金1万5000円のジュウドさんのサロンでも水しか出ません。まぁ、フィリピンは暑いので水でもちょうどいいくらいなんですけど(笑)。でも最初はヒヤっとしますよね。

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フィリピンにサロンを作るために、会社を設立

ーーーそうですね、慣れるまではちょっと冷たいかも。 

小山﨑:シャンプーの仕方も荒いですし、フェイスガードもしない。ガシャガシャ洗うから水が飛び散るし、シャンプーも雑に泡立てて適当に流して終わり。ブローもしてもらったのですが、僕の髪って直毛だから乾かすだけでストンってなるんですよ。でも向こうではブラシで丁寧にブローする。直毛だから乾かすだけで大丈夫なのに、わざわざブラシで丁寧にやるんですよ。カットよりもブローの方が大切なんでしょうね。

今回自分で実際に体験してみて、今までハサミノチカラアカデミーでは子ども達にカット中心で教育してきたんですけど、これからはシャンプーや縮毛矯正を教育の中心に切り替えた方がいいと気づきました。それで今、アカデミーのスタジオにシャンプー台を設置することを考えています。今年4月のアカデミーからはシャンプーと縮毛強制の教育を始めようと話しているところです。それから、日本で合同出資して、株式会社を作ろうと考えています。その会社から出資してフィリピンにサロンを作るということになると思います。

ーーーそれはいつ頃実現しそうですか? 

小山﨑:年内は難しそうなので、2019年度中には実現させたいと思います。

ーーー価格帯はどうされるんですか? 

小山﨑:それは現地の相場にある程度合わせます。僕らがやろうとしていることは、利益を求めることではなくて、アカデミーで育てた子どもたちを受け入れる場所を作ることなんです。アカデミーを卒業した子が働けるサロンを作りたいんです。現地のサロンを視察して、日本の丁寧な技術が強味になると感じたので、日本流を上手に取り入れつつ、現地の人たちのニーズに添えば、うまくいくのではないかと思います。

 

子どもたちの未来に続く道を作る

ーーー貧困地域の子ども達は、そもそもプロの美容師に切ってもらったことがないという話を聞きましたが、それでも美容師になりたいと希望している子はどのくらいいたんですか? 

小山﨑:美容師になりたい子はたくさんいると思います。アカデミーの一期生も、最初募集したときは20人くらい集まったんです。それから卒業まで5年間、いろいろな事情があって最終的に卒業できたのは5人でしたけど。日本だと、貧しくても例えば奨学金を受けるとか、自分の努力次第で道は探せるじゃないですか。でもフィリピンでは奨学金制度もないので、勉強したくてもできない子どもが多いんです。個人の努力だけではどうにもならない。だから、美容師になりたいけど、どうやってなるの?なれないでしょ?という感じなんだと思います。

ーーー最初から諦めざるを得ないような状況なんですね。 

小山﨑:そうですね。だから男の子は安い賃金で肉体労働をして、女の子は夜の仕事をする。そういう仕事に流れていってしまう子は非常に多いです。孤児院にいた子が、仕事につけなくてホームレスになったり。

そういう現状を何か少しでも変えようと設立したのがハサミノチカラアカデミーなんです。「これで一生食っていける」というものを、何か作れないかと思って。日本でずっとカットしてばかりいるんじゃなくて、自分たちの技術をフィリピンの子どもたちに教えて、彼らが自立できるような道を作っていければと思っています。

ーーーアカデミーで技術を教えるだけでなく、働き先を作るところまできたというのは、とてもすごいことだと思います。 

小山﨑:僕らがやっているアカデミーの目的は、子どもたちがちゃんと自立できるようにすることです。サロンで働いて、自分の力でお給料を稼ぐ。それができて初めて自立したと言えると思います。でも、まだまだそこまで出来ていない。だから、僕たちのこのハサミノチカラは、活動しているというだけで満足しちゃいけないんです。結果はまだ何も出ていないんですよ。

ーーーどういった結果を目指していますか? 

小山﨑:現地にサロンを作って、自分たちがアカデミーで教育した子どもたちがそこで働いて、お客様が通ってくれてお給料を自分の力で稼げたときに、やっと結果が出たと思うんじゃないでしょうか。その時に、ようやく「やってて良かった」と思うんじゃないですかね。次は、その子たちが、自分より若い人たちに技術を教えて美容師として教育していく。そんなサイクルができたら、僕たちはフィリピンに行かなくてもよくなる。そうなるのが理想です。

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ハサミノチカラの活動は、フィリピンの子どもたちに具体的な「自立」の道を示してくれる。

技術を教えるだけでなく、その先を見据えて、子どもたちが将来働ける“場”を作ることを目標に動き出したハサミノチカラ。2019年のサロンオープンを目指し、今年はさらに具体的なアクションを起こしていくだろう。小山﨑さんの言う“結果”が出る日は、きっとそう遠くない。

 

次回は、ハサミノチカラにも参加し、地元福島の美容のために活動している佐藤涼さん(株式会社ユアーズ代表)にお話を伺う。

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ライター

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カメラマン

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遠藤真耶
ライター
美容業界誌2誌の編集長を務めた後、2017年3月よりフリーランスの編集者として独立。撮影のキャスティング業も並行して行なっている。