株式会社エンファクトリー代表加藤健太

 

兼業・副業・複業を解禁する企業がここ数年でじつに増えた。「2枚目の名刺」を持つ働き方を選ぶ人の増すなかで、会社組織と個人の双方にはどんな化学変化が起きているのか。また、双方のあり方は今後どう変わっていくのか。
今回、すでに兼業・副業・複業を組織として取り入れ活躍する企業の現在を追いかけ、その背景や変化、課題などを聞き、そこに生きる組織と個人の関係性を見つめ直す連載としてスタートする。

第1回は、2011年の会社創設時から「専業禁止!!」という画期的な人材ポリシーを掲げ、社員に兼業・複業を推奨して邁進を遂げる企業の「いま」を聞いた。登場するのはオンラインショッピング・ギフト事業の「株式会社エンファクトリー」(本社・東京)。企業側の理念や社員の思いとは。前編では代表取締役社長の加藤健太さんに、このポリシーを持った経緯と約6年貫いてきた現状、今後の展開について語ってもらった。

株式会社エンファクトリー代表取締役社長・加藤健太さん(かとう・けんた、以下加藤さん)
株式会社リクルート(現・株式会社リクルートホルディングス)を経て、AllAboutの創業メンバーとして財務、総務、人事、広報、営業企画などあらゆる業務を担当し、取締役兼CFOとして2005年にIPO上場。2011年、現在の株式会社エンファクトリーを分社し、代表に就任。「スタイルストア」「COCOMO」「TSUKURITTE」など数々のコンテンツを運営。

「個人の自立」が組織に何を与えるのか

昭和から平成に変わって、加藤さんが何度も痛感してきたこと。それは、「頑張って働いていれば良かった時代」の終焉だ。
かつては、会社とは滅多に潰れないものだったし、給料も年々上がり続けていくものだった。終身雇用、退職金、年金、それらが皆、保障されていた。 ところがリーマンショック、東日本大震災などを経て、環境は急変した。転職が当然のこととなり、終身雇用が崩れていった。サービスや労働力が国境を超える一方で、国内を代表する大企業がバタバタと倒産。年金など従来のシステムは制度疲労を起こしている。そんな中、インターネットの普及で、個人が自分のやりたいことに参画するハードルは下がってきた。
どれもこれも、従前の常識が通用しない、混沌の時代を私たちは生きている。

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データを見せながら時代の変化を話す加藤さん

この端境期の不確実な社会、生き抜くカギとはいったい何か。 リクルートから生活総合情報サイト「All About」を立ち上げ、シビアな経営局面にぶつかりながらも運営に奔走していた時期に、加藤さんの出した答えの1つはこれだった。
これからは、個人が適応能力を培ったうえで、生きる力を身に付けていくしかない。個人の自立こそが肝心で、企業としても個人の自立を応援していくことが必要なのではないか」。
個人が主体となって業務を実践し、苦労しながらも喜びを見出していく。そうすれば、一人ひとりが「生きる力、活きる力」を付けられるはずだ。 そんな思いが強まって、新会社設立の際にたどり着いたポリシーが「専業禁止!!」。つまりパラレルワークの推奨だ。

その斬新な発想が話題を呼んだ。
「何よりも大事なのは自分で考え、自分をデザインすること。そういった自立した人材、プロの人たちが集まって、一緒に積極的に仕事をするようになれれば、すごく気持ち良いじゃないですか。それを目指したかったのです」。加藤さんはそう強調する。

個人と組織は対立項ではない。個人の共同体=会社なのだから

かつて昭和の時代、企業の価値とはすなわち有形資産だった。大きな工場、高いビル。目に見えるものこそが価値だった。ひるがえって平成の今、企業にとっての価値とは人間だ。加藤さんの古巣・リクルートには、人間こそ財産という企業風土が深く根付いており、それが理念の根幹に流れている。

「ファイナンス(お金)の視点と、キャリア(働き方)の視点。結局、どちらも表裏一体なんです。『なぜ働くの』って、まずはメシを食うため。だから『個人』という資産をいかに自分が換金していくか。個人も自分視点だけではなく外側から見ていく視点が必要なんですね」

実際エンファクトリーで働いている個人はどのような人が多いのだろう。 「専業禁止」といっても社員全員、兼業必須というわけではない。
現在は社員30人のうち13人が兼業・副業・複業を持つ。 そのようなさまざまな働き方の社員がいる中で、加藤さんが特に重視しているのは、社員一人ひとりの「気付き」。

仕事の楽しさに、気付く。
自分自身に向く仕事だと、気付く。
そうやって別の仕事を持つことで、改めて自己の能力や目線を高めていく。

「若い人のほとんどがそうですが、自分が何者で、どう生きたいかが決まっていない。いつの間にか自分の意図しないところで決まるなんて生き方をするのでなく、仕事を通じて自分を知る機会に活かしてほしい」

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個人と組織の関係性はこれまでと明らかに変わる。その実感を語る。

「なにも(兼業・副業を)絶対やる必要はないが、主・副の副でいくと、どっちも『主』でやらないと。『自分事』なんです。自分でやって、何かあったら自分が責任を取る。カネの流れも学ぶ。それこそが肝心なんです」

続いて加藤さんからは「企業×個人」といった定義付け自体に疑問があるようだ。
そもそも会社って、個人の共同体ですよね。対立項ではない。副業(複業)を『自分事』でやることで、本業である会社の中で自分がどう甲斐性を出していくかという視点も形成されるんです

主体的、自立的に動ける人が増え、我が身のマネジメントができるようにもなる。そんな個人が外に出て行けば、さらにいろんな繋がりやネタ、新しい機軸を生み出す「気付き」を得る。それを会社に持ち帰って活用。言うなれば「疑似的なオープンイノベーション」が可能になり、それは企業にとってもメリットだという。
「まさにwin-winの関係です。専業禁止としてスタートしてから6年。この感覚は全く変わっていないところです」。

会社を離れる人であっても、共に歩む相利共生の世界

未だ兼業・副業・複業について懐疑的な人も多い。 「副業にいそしむ余裕があるならば、本業に専念すべし」。こんな考えを持つ人も当然いるだろう。 加藤さんはこう反論する。

「『会社のことに身が入ってないじゃないか』なんて言う人がいるけれど、そもそも誰も身なんて入っていない(笑)。そんなことより、期待したい関係性があるんですよ」

本業専念の社員同士の場合、そこから生まれる関係性は「1×1」どまり。ところが、社員自身が主体的に別業務に関与している「パラレルワーカー」や、同社を退職、もしくは独立起業した社員「フェロー」が絡んでいけば、その関係性は飛躍的に増幅していく。そこで実現し得る新たな事業やサービスこそに期待したい。加藤さんはそれを相利共生の関係性と呼ぶ。 これは同時に、いろんな人たちと知り合う接点を持つことにも繋がる。

「そんな『緩やかな繋がり』こそ大切にしていきたい。その繋がりによって生まれる仕事の『粒』は、大企業ほど大きくはない。だけど、いろいろな事象が出てくる。そして、形成された繋がりの中では既に『信頼の残高』が積み上がっているから、あまりハズレを引くことがないんです」

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こうしてノウハウを培っていった社員たちが起業していく。他企業の人からは「優秀な人が辞めていって、大丈夫?」と聞かれることが多いというが、前述の通り、そんな彼らの多くが「フェロー」として同社と引き続き連携していくので心配無用だという。同社のもつ多大なコンテンツを、惜しまず彼らに提供。かわりに情報やネタ、リソースを、彼らから持続的、断続的、そして適時にアクセスできるメリットが同社には生まれる。
「まさに相利共生。所属しても離れても、互いに使いたいところを使い合う、いわばパートナー。これこそ人的資産の強みです」。

組織/会社とは機会提供の場。「個人」がより機会に出会うにはどうしたらいいか

社内の年齢層は20~30代で、価値観はひとそれぞれ。それを統一していこうとの発想は最初から無い。
「バラバラ凸凹だけど、自分たちで考え、自己を築いていく。会社はそのような個人の能力を高める場でありたい」。
会社とは機会提供の場であること、加藤さんはそれを繰り返し主張する。

そんな「個/個人」を支援するエンファクトリーが、さらにその個/個人を強める機能を搭載した「Teamlancer(チームランサー)」を2017年11月9日本格始動させた。フリーランスで働く人同士がチームを作り、メンバー募集や仕事相談、PRを可能にするウェブ上のプラットフォームだ。登録ユーザーの紹介や仕事上の強みなどが一覧できるほか、相場観や見積もりといった仕事上の案件について不特定多数の登録ユーザーに「ざっくり」相談できる機能もつけた。現在、登録ユーザーは約500人。現在はリリースによるキャンペーン(チームアップするためのキックオフ代を負担する)をスタート。加藤さんはチームランサーについてこう話す。

「個人がビジネスや世界観、自分の幅を広げるのはなかなか難しい。チームランサーを通じて、いろんな凸凹の個人がうまく集まり、そのチームがミッションをこなしていく契機になれば」

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働く個人が、いかに自己を客観的に評価し、能力を高め、激変する社会の波にのまれず泳いでいくか。その一点に心血を注ぐエンファクトリーの思いが、サービスの機能アップデートにも深く投影されている。

後編では、同社で実際にパラレルワーカーとして活躍を続ける社員2人に、日々の奮闘ぶりや、そこで抱いている課題などについて聞く。

後編に続く

写真:海野千尋

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加賀 直樹

加賀 直樹

ノンフィクションライター兼、韓国語翻訳家。週刊AERAの連載「現代の肖像」執筆メンバー。同誌の各特集の取材にも携わる。元・朝日新聞記者。手がけた著書は「戦争体験・朝日新聞への手紙」「吹奏楽の星」など多数。