【新しい人材育成の形】「越境学習」を通じた能力開発2つのパターン
本シリーズでは、人材育成の現場でキーワードとなりつつある「越境学習」とは何か、これまでの社員研修とは何が違うのかを語れるようになるために、押さえておきたい「越境学習」の基本を全5回でお届けします。

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前回の記事では、「越境学習を通じた能力開発」について、実践事例としての二枚目の名刺「NPOサポートプロジェクト」の紹介と、そこから越境学習を通じて“攻め”と “守り”の7種類の能力が開発されることを紹介しました。

今回は、「越境学習の能力開発にどんなパターンがあるのか」について、二枚目の名刺「NPOサポートプロジェクト」の調査を通じた定量データを用いて、明らかにしていきます。

1)「越境学習」効果の定量化方法――事前・事後のアセスメントによる検証

これまで、越境学習の学習効果は、なかなか定量的に明らかになっていませんでした。その背景には、越境学習自体の実践例が少なく、どのような人材能力を開発するのか実態に迫ることが難しかったことがあげられます。

今回、NPO法人二枚目の名刺では、このような越境学習の効果をなるべく定量的に明らかにすべく、「NPOサポートプロジェクト」*参加者の、事前・事後のアセスメントを通じた調査を実施しました。(図表1)
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*「NPOサポートプロジェクト」の内容については、前回の記事をご覧ください。

具体的な手順としては、過去のプロジェクト参加者のインタビューに基づいて、「越境学習の能力開発フレームワーク」を作成し、さらにそこから、質問票(39項目・5段階評価)を作成しました*1。この質問票に対して、プロジェクト事前・事後のタイミングで回答してもらうことで、プロジェクトBefore/Afterの変化を定量的に明らかにしたのです。

また今回の調査では、この事前・事後の調査について、参加者本人の回答と他者(本人の上司・同僚等)による回答の両方を実施しました。これは、本人回答を通じて「本人の意識にどれくらい変化が起きたか」という「意識変容」と、他者回答を通じて「本人の客観的な行動にどれくらい変化があったのか」という「行動変容」の両方にアプローチするためです。

このように、意識変容/行動変容という切り口から見た場合、「越境学習を通じた能力開発」について大きく2つのパターンがあることが分かってきました。

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*1これらのフレームワーク・質問票は、法政大学大学院石山恒貴教授、東京経済大学小山健太先生との協働で作成されました。あらためて御礼を申し上げます。

2)「越境学習」を通じた能力開発のパターン(1)―本人に意識変化の自信がつく

1つめのパターンは「本人に意識変化の自信がつく」というパターンです。このパターンの場合、アセスメント結果としては、本人評価(意識変容)では事前よりも事後評価が上がり、他者評価(行動変容)では本人ほどには評価が上がらない、というデータとなります。

例えば、実際に「NPOサポートプロジェクト」を次世代リーダー開発の取り組みとして実践した某人材サービス企業の場合、本人評価は図表2のように、全体として上がっていることが見て取れます。これは、プロジェクトで異業種メンバーとの実践経験やNPOの熱いビジョンに触れ、様々な気づきや刺激を通じて、本人の考え方・意識が変わったからです。その意味で、越境学習を通じた意識変容が実現されているといえます。

一方、事後評価について本人と他者(上司)評価を比較したのが、図表3です。ここでは、全体として、他者評価よりも本人評価の方が高いことが見て取れます。つまり、本人の意識変容としての変化は起こりつつも、他者から見た場合、それがまだ行動変容には表れていない、という状況であることが分かります。

つまり、越境学習を通じて実現できた意識変容を、積極的に行動へ結びつけていくことが重要になります。このパターンの場合には、他者評価が本人評価に近づいていくことで、“目に見える成長”を実現できるようになるのです。

3)「越境学習」を通じた能力開発のパターン(2)―目線が上がり、行動が変わる

2つめのパターンは、「本人の目線が上がり、行動が変容する」というパターンです。
このパターンの場合、アセスメント結果としては、本人評価は事前よりも事後が下がる一方、他者評価は事前よりも事後が上がる、というデータが出ます。なぜこのような変化が起こるのでしょうか。

例えば、某外資系アパレル企業で実施したNPOサポートプロジェクトの場合、本人評価の事前/事後に図表4のような変化が表れました。

この評価の中身をプロジェクト参加者本人に伺ったところ、異業種のメンバーや物事の考え方の違うNPOとプロジェクトに取り組むことで、自分の通用しない部分が見えたり、社内では強みだと思っていた部分は外部と比べるとそうではなかったことが分かった、という声が上がってきました。

つまり、外部の世界に触れたことで目線が上がり、これまで十分と考えていた能力を「まだまだ」と感じるようになった結果、相対的に事前よりも事後の評価が低くなったのです。これは、越境学習を通じて自身の能力の壁を感じ、内省が起こった結果であるともいえます。

しかし、このような経験をした社会人に何も変化がなかったわけではありません。下記図表5にも表れているとおり、他者(同僚)評価については、事前よりも事後の評価の方が高くなっています。これは、本人が「まだまだ」と感じていている能力でも、他者からみた場合は目に見える行動の変化が表れているといえます。

本人が「まだまだ」と感じている部分では、普段の業務においても強く意識することが増え、その結果、周囲からみると「行動が変わった」といえるような変容が起きているのです。

このパターンでは、本人の自己評価が他者評価に近づいてきた際に、まさに“手応え”として成長を感じることができると考えられます。

4)重要なのは、「越境」したその後 ―どれだけ組織が受け入れられるか

以上、越境学習の能力開発の2パターンを見てきましたが、どちらのパターンにおいても、最終的に、意識変容/行動変容の両方を実現できることが重要になります。それを実現しようとした場合、とりわけ越境学習においては、学習の“その後”がポイントとなります。つまり越境先で培った経験や学びを、普段の業務へ還元・実践できるかどうかが学習の価値を決めるのです。

このような還元・実践を実現するには、本人の実践だけでなく、組織としての対応も必要となります。つまり、「越境先の経験や実践をどうやって組織として受け入れていくのか」、「新しいものの見方が風化して戻ってしまわないように組織としてどう継続していくか」が問われるのです。

5)まとめ:企業文化によって「越境学習」の効果にちがいはあるのか?

今回は、越境学習の効果について、意識変容(自己評価)/行動変容(他者評価)という切り口から明らかになってきたパターン2つをご紹介しました。この内容は厳密な科学性を考慮した場合には慎重になる必要がありますが、今後の越境学習の能力開発を考える際の一つのポイントとなってくると考えられます。

しかし、能力開発のパターンの切り口はこれだけではありません。特に、前回記事で紹介している「越境学習を通じた能力開発7種類」については、それぞれ、どの能力がどんな企業において開発されやすいのか、特徴的なパターンがあると予想されます。

次回は、この定量分析のもう一つの切り口として、7種類の能力評価の比較から、越境学習の人材開発効果を考えてみたいと思います。

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松井 孝憲

松井 孝憲

NPO法人二枚目の名刺 理事・ディレクター。「NPOサポートプロジェクト」を人材開発プログラムとして立ち上げ、企業との協働を実践する。現在は、大学との協働を通じたプロジェクトの効果の実証研究や、行政との協働を通じたプロジェクトの地域展開に取り組む。