新しい時代に求められる公務員像と2枚目の名刺の必要性とは?~2枚目公務員 江上昇さんインタビュー(前編)~

法令による副業禁止や独特の職業倫理など“2枚目の名刺”を持とうと思ったとき、民間とは少し異なる環境にある公務員。そんな公務員が「2枚目の名刺を持ちやすい社会の雰囲気をつくる」という目的で立ち上がったのが「公務員×2枚目の名刺プロジェクト」だ。

そんな雰囲気づくりの一環として今回、尼崎市役所職員であり数多くの2枚目の名刺を持って活躍している江上昇さんに、仕事以外の活動を始めた経緯や個人・組織そして地域にとっての意義などについてお話を伺うことに。

ちなみに江上さんにインタビューをした筆者(金治)は、子育てをしながら兵庫県姫路市役所に勤める地方公務員だ。仕事とは別に地域での社会活動などにも取り組んでおり、同じように“2枚目の名刺を持つ公務員”として、江上さんのお話からヒントを得られれば、そんなことを思いながらインタビューをさせていただいた。

江上昇さん
1978年大阪市生まれ。尼崎市在住。大阪大学文学部卒。元松竹芸能漫才師。
2006年尼崎市役所入庁。「まちをおもしろくする」というビジョンを、“給料もろてるお仕事”(仕事の意)と“給料もろてないお仕事”(2枚目の名刺の活動の意)の両面から実現している。~江上さんが取り組む“2枚目の名刺”の活動~
尼崎市の若手職員の勉強会「夜カツ」発起人
NPO法人ファザーリング・ジャパン関西のメンバー
ビブリオバトル普及委員
尼崎市の元漫才師職員による「お笑い行政講座」

2枚目の名刺の活動を始めたきっかけ

金治:本日は、尼崎市役所職員であり精力的に2枚目の名刺の活動を行っている江上昇さんにお話を伺いたいと思います。今、どんなお仕事をされていらっしゃいますか?

江上:平成18年に尼崎市役所に入庁し、現在12年目です。尼崎市は学校教育に力を入れており、その政策の中で現在は教育政策を考える研究所の事務を担当しています。科学的根拠(エビデンス)に基づいた教育政策を立案するのが仕事の一つです。もう一つは、尼崎市内で住民自治が進んでいる自治会の運営に携わりながら、新しい地域振興体制を創っていく仕事をしています。

金治:お仕事もしながら、2枚目の名刺の活動も精力的にしておられますが、そもそも役所の外に飛び出したきっかけは何だったのでしょうか?

公務員x2枚目の名刺

尼崎市の若手職員の勉強会「夜カツ」

公務員x2枚目の名刺

発表者が制限時間内におススメの本についてプレゼンテーションをし、会場に集まった参加者の投票によって最も読みたいと思われた一冊を決定する、書店での「ビブリオバトル」

江上:入庁後ずっと内部管理系の部署で、予算決算、行革、条例審査、総合計画などの仕事をしてきたのですが、特に予算の執行管理や条例関係のお仕事は、自分で考えて行動するのではなく、各課が考えたものをどうやってうまく進めていくか、という仕事です。そのプロセスで地域の人と関わったり、自分で新しく事業を立案したり、という仕事ができず、モチベーションを保つのが難しかったのです。ある時に「仕事でできなければ、プライベートの時間を使って、外で勝手にやればいい」と気づきました。

金治:「外でやればいい」と気づかれたきっかけは何だったのでしょうか?

江上:入庁1~2年目に業務改善運動に携わったことです。当時の実行委員の方から、業務改善運動の全国大会を尼崎市でやるということで、元漫才師というだけで司会を頼まれまして、その運動を通して他の自治体の職員さんと知り合うことができました。役所の中だけでなく、外を向いている人と出会ったんです。その出会いをきっかけに、私の中で、仕事以外で活動するという選択肢が生まれました。

自分の価値を高めていかなければならないという危機感

金治:その後、実際にどんな活動をスタートされたんでしょうか? また、その理由を教えてください。

江上:はじめにスタートしたのは、平成24年に始めた庁内の勉強会「夜カツ」ですね。なぜか働き者が集まる部署にいつも配属してもらって(笑)。私以外周りは全員管理職とか、全員が優秀な先輩でその中に若手一人とか、そんな状況で、入庁数年の私が活躍できるはずもなく……。自分の強みを活かして価値を高めていかなければならないという危機感が大きかったのです。

それから「夜カツ」の立ち上げ当時は、尼崎市が民間企業からの出向で顧問(副市長に次ぐポスト)の方を採用し、市の方向性として変革の雰囲気が生まれたタイミングだったんです。このタイミングであればいけると思いました。

あとは、過去に活動していた庁内の自主研究会もなくなっていたので、新たに創りたいと思ったということもあります。

金治:良いタイミングだったんですね。実際の立ち上げはどのように行ったのでしょうか?

江上:私が中心となって、先ほどお話した顧問の方と一緒に立ち上げました。当時の局長2名をゲストとしてお呼びし、トークライブを開催したのですが、庁内の自主研究会の登録に5名の名前を記載する必要があったので、手伝ってくれる職員を廊下や駐輪場でナンパしまして5人揃えました。

2回目以降は、1回目のアンケートの「時々なら手伝っても良い」に〇をつけてくれた職員に熱烈なメールを送り、運営メンバーを20名程度に増やしました。そのうち、毎回企画に加わってくれるコアメンバーは5~6人ですが、平成24年の立ち上げ以降、現在39回まで続いています。

自主研究会の代表は1~2年で変わり、その都度総選挙で決定する仕組みにして、若手を巻き込むようにしています。総選挙では、全員に演説させて最後はあみだくじ、なんて方法をとったりしています(笑)

一番前の真ん中に座る公務員が必要

金治:そもそも、江上さんが公務員になろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

江上:28歳のときに、大学卒業後5年間情熱を注いだお笑い芸人を辞めることを決意し、業界に残るか他の仕事に就くか迷っていたのですが、どうせなら全く関係ない公務員の世界に行ってみようと思いました。

金治:転職してみて、公務員の世界にはどう感じましたか?

江上:芸人の世界と比べるのもおかしい話かもしれませんが、はみ出ない、目立たない、人と違うことはしない、という世界に、真逆だなと感じました。
でも、今の時代に合った、もうちょっと良いバランスの公務員像があるんじゃないかな、と。

金治:“もうちょっと良いバランス”とは、具体的にどんな公務員像でしょうか?

江上:これは私の口から言わなくても、国がそういう流れを示していますが、ここ10年くらいの新しい公共、地方創生という政策を見ていると、研修で一番前の真ん中に座る公務員も必要なんじゃないかと。

市役所の研修って、いつも後ろの方から席が埋まって、一番前の真ん中は最後まで空いてますよね。それすごく嫌いで、いつもわざと最前列の真ん中に座ってやるんですが、この後ろから座るシステムは、公務員の仕事に求められていた、昔からの習性だと思うんです。目立たず、横並びで人と違うことはしないのが最善、という価値観から来ている。

確かに昔なら、国からの事務を淡々とこなす職員が求められていたのかもしれませんが、地域の強みを活かしてその地域ごとに最適化していこう、という現在は、一番前の真ん中に座る公務員が求められていると感じています。

また尼崎市では、地域に権限と予算を配分して、地域の課題をその地域で解決していくという、新しい地域振興体制の再構築、という考え方を平成28年度に打ち出しました。その体制を実現するために求められる職員像として、地域の人と共に活動できる「地域型職員」を推奨しています。「夜カツ」の運営メンバーの中で、実際に地域に飛び出している職員も増えています。

公務員x2枚目の名刺

金治:そういった“求められる公務員像”についての江上さんの想いと、ご自身が2枚目の名刺の活動をされていることとは、やはり関係があるのでしょうか?

江上:求められる公務員像には、市民の方から求められる公務員像と、行政が職員に求める公務員像があると思うのですが、前者でいうと、①地域の立場に立って②思いを共有して動けて③それを達成できる能力と調整力を持っている、ことが求められることだと思います。ハートが必要ですし、それだけではダメで、実現する能力も持ってないといけない。OJT(オンジョブトレーニング)で身につけられるものだけでは足りないし、OJTで得られる行政内の知識や調整能力も当然必要です。両方を備えたハイブリッド型の公務員にならなければ、と思います。

後者でいうと、私は「自分の好きなこと」を「好きなように」取り組んでいるように見られていると思いますが、ちゃんと市の施政方針や市が目指す大きな方向性を踏まえながらやっています。大局的な流れの中に身を置きながら、自分のできる範囲でその流れを「こっちの方がいいんじゃないですか」と引っ張っているつもりです。好きでやってることではあるのですが、根底には尼崎市の職員としてまちのために何ができるか、というものが確固として存在しているというか、その動機や方向付けの部分は真面目にストイックに踏み分けているつもりです。意外と真面目なんですよ。

プライベートの時間について庁内から質問が出ること自体が課題

金治:なるほど~市の方向性の中で活動していらっしゃるんですね。2枚目の活動をする中で、壁にぶつかったり、役所の中や外で大変だったこともあるかと思いますが、江上さんご自身がしんどかったな、と思った出来事はありますか?

公務員x2枚目の名刺

インタビューはご家族同席で和やかな雰囲気の中で

江上:活動の多くは市民の方と一緒に、ニーズのあることをやってますので、批判されたことはありません。むしろ、庁内や、他都市の公務員の方から「そんなことやっていいんですか?」と訊かれることはあります。そんなときは、「プライベートなので良いも悪いもありません。趣味と同じ扱いですよ。」と答えています。プライベートの時間についてそんな質問が出ること自体、課題だと思っています。

あと、大変だと思うのは、2枚目のほうは自分の代わりがいないので、体調管理や、家庭とのバランスを意識しなければならないことです。

(奥様の視線)、、、(笑)

金治:(笑)。家庭とのバランスで意識されていることを教えてください。

江上:「笑っている父親が社会を変える」というミッションのもと、講演会やセミナーなど、さまざまな事業に取り組んでいるNPO法人ファザーリング・ジャパン関西のメンバーになっていて、家庭を一番に、ワークライフバランスを考えながら日々過ごしています。夜や土日に不在になるときは、すべての予定に、妻の事前承認を得ています。それから私は5人家族なのですが、自分が自由に使える時間は全体の5分の1だと考えるようにしています。できてませんが(笑)

(奥様の視線)、、、(笑)

江上:事前承認はしてるよね?(笑)

奥様:そうだね(笑)

後編につづく

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金治 諒子

金治 諒子

公務員×2枚目の名刺プロジェクトメンバー。 母であり、妻であり、プライベートで社会活動に携わる姫路市職員。孤独な子育てを経験し最愛の子ども達の前で笑えない日々を過ごす中で、社会と自分の在り方に疑問を持ち、地域に飛び出すようになる。子ども達の世代まで持続可能な繁栄を願う。そのためにまずは、母自身が自分の人生に主体性を持って行動する。