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ソーシャル・ビジネス(自然環境・貧困・高齢化社会・教育などを含めたさまざまな社会課題を解決するために取り組む事業)に取り組む企業やNPO団体などに関わり、その場所で働くことを「ソーシャルキャリア」と呼び、フォーラムが開催されたのは2015年から。

そのスタート地点にはひとりの女性の奮闘がありました。

「人が仕事にやりがいを持つこと。社会課題を解決するということ。私はそれを同時にやりたい」

彼女の想いは、所属していた総合人材サービス、パーソルグループのパーソルキャリア株式会社(旧:株式会社インテリジェンス、以下パーソルキャリア)が動くきっかけとなり、そして多くの企業、団体を巻き込んでいくことに。

DODAソーシャルキャリアフォーラムを立ち上げた竹内麻衣さん(たけうちまいさん、以下竹内さん)の今までとこれから、絶え間なくあふれ続ける想いをお聞きしました。

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「はたらくを楽しもう」を増やしたい

竹内さんがパーソルキャリアで働く中で、会社の主事業である転職者に企業をつなげていく仕事を通して、感じていたことがありました。

「私自身仕事はずっと楽しみ続けていたタイプ。でも多くの友人や皆が憧れる大手人気企業に就職した先輩にも『仕事が楽しいってすごいね、信じられないね』という感じで言われて。長い間転職支援の仕事をしてきましたが、確かにポジティブな目的ではなくネガティブな理由で転職しようとしている人もいるという現実を見てきています。仕事に楽しさを見出せていない人、仕事の先にある目標や志が見つけられていない人が多く、それは常々悲しいなと思っていました」。
“はたらくを楽しもう”。
この言葉はまさに竹内さん自身がそれを体感していること、そして、思いの外働く人たちとそれを共感できていないジレンマもありました。

「ソーシャルセクターで働く人たちは年収や肩書き以上に志を大事にして働いている人が多いと感じました。向き合う社会課題は深刻だし、それゆえに仕事は楽ではないし、待遇が決して良いわけでもない。でも、そこに強い目標や志のある人が多い。『この場所素敵だな』ってそう思ったのです。そこから、社会課題解決のために志を持って働く団体や人を応援したいと思いました」。

その思いは2013年に初めて認定NPO法人Teach for Japan(ティーチ フォー ジャパン 以下、TFJ)と関わりを持ったことから始まり、多くのNPO団体に出会うきっかけとなります。

竹内さん自身は、当初はDODAの顧客としてTFJに関わっていましたが、次第にのめり込むことになり、プロボノ(社会人が自身の専門分野や知識、スキルを活かしておこなう社会貢献活動)としてTFJの人事・採用として活動してきました。

「私の両親はとても厳しかったんです。年間300日くらい物事の大小に関わらず怒られていました。それもあって『私はダメな子どもなんだ』と自分自身を認められなくなってしまった。そのコンプレックスは30代になってもなくなりませんでした。転職支援の現場でも、やはり子どもの時の教育や判断がその先のキャリア選択に及ぼす影響を日々感じていたんです。そんな時TFJのフェロー(教師)と子どもたちとの “一人ひとりの可能性を信じ、半歩先を照らす”という関係性を知って。学校の先生という存在を通じて、いろいろな悩みや苦しみを持った子どもたちの人生を変えることができる。自分のコンプレックスを溶かしてくれたTFJの事業に大きく共感しました」。

NPO団体に心身ともに深く関わっていくことで、ソーシャルセクターで働く人々の日々、考え方、価値観、難しさとやりがいを体感していました。

そこから各団体が社会課題を解決するために奮闘するあり方と社会課題そのものにも目を向けるように。

さまざまなNPO団体に出会って繋がりが出来ていく中で、ある事象に気がつきます。
“どうやらプロボノ活動をした人は前向きにキャリアチェンジしているケースが多いようだ”ということ。

「プロボノを通してなぜキャリアチェンジや転職をするかというと、理由は3つあるように感じています。自分の志って何?というのをNPOの人たちに触れて改めて考え始めるということが1つめ、社外でアウトプットをすることを通じて『あぁ、自分のスキルや経験って他の場所でも活用できるんだ』と実感することが2つめ、文化や分野が異なる世界に出て視野が広がるということが3つめ。それによってキャリアチェンジを考えるってなんて素敵なことだろうと思えた。働くことにおいて本質的だなと」。

 

志を持って社会課題解決をしていこうとする人が、本業なり複業なりで関わることで本人は働くことに対しやりがいを持つし、多くの人がこのセクターに関わることで社会課題解決のスピードが上がる。

竹内さんの感じる本質は、これからの働き方の概念にも繋がるものだと感じました。

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DODAソーシャルキャリアフォーラムで大切にしているマッチングの機会。どのNPO団体も多数の希望者が集う。

DODAソーシャルキャリアフォーラムをどのように作ったか

DODAソーシャルキャリアフォーラムを1番初めに開催したのは2015年の夏。当時プロボノとして関わっていたTFJのファウンダー松田悠介(まつだ ゆうすけ)さんとも話す中で、パーソルキャリアの事業の1つである求人情報・転職サービス「DODA」(以下DODA)でソーシャルセクターの求人・採用特集を作ろうというイベントの企画が始まりました。
圧倒的に人手不足だが求人・採用費をかけられないこと。

団体によっては一般企業との賃金/給料差、仕事内容の違いがあること。

少人数で組織化しているからそもそも採用・人事担当者がいないこと。

 

そんなソーシャルセクターの組織が抱える課題に沿って、求人・採用を求めるソーシャルセクターの企業・NPO団体を集め、どんな人を求めているか伝えられる仕組みを作り、さらに希望者と各企業・NPO団体らと直接にコミュニケーションが取れる時間を入れ込むことを作ろうと決め、フォーラムの設計は進み始めました。

「ひとりでなんでもやりましたね。各NPO団体との取引の申請、求人特集作り、イベントの企画立案、運営、など、初めはほぼ全ての作業を社内ひとりで行ってきました」。

DODAのWebサイトにおける「非営利団体」というキーワードの注目の高さ、合計13団体のソーシャルセクターの求人掲載をしたところ求人特集に2000~3000の「いいね!」の反応があったこと、PVの伸び、延べ700人の応募があったこと、イベントに400名以上のエントリーがあったことなど、この取り組みを経て、様々なファクトが実証され、この領域への手応えを感じ始めました。

そこでの知見や実績をもとに企画したのが「DODAソーシャルキャリアフォーラム」です。2016年3月、7月、11月と参加団体や集まる人数は変わりますが、フォーラムは開催され少しずつ実績を積んでいきました。マッチングがぐっと増えた時もあれば、参加者が伸び悩むことも。
“プロボノを通してソーシャルセクターに入った人は離職しづらい”という新たな気づきも得て、転職の前にまずはプロボノを体感してもらう仕組みに変容する、転職もプロボノも両方体験できる場にするなど、内容は深まっていきました。

「大阪でもやってほしいという声をもらい、2017年5月では初の関西地区でのフォーラムを開催しました。関西では130人程の人が集まり、こんなに集まってくれて嬉しい!という関西のNPO団体から声が上がりました。また、NPO同士が集まる場というのはあまりなかったようで、参加したNPO同士が一致団結してくれたきっかけにもなったと聞いています」。

「また、特に嬉しかったのは、このイベントをボランティアで手伝ってくれる後輩たちの存在。本業も忙しい新卒2年目の二人を中心に、ボランティアスタッフを30名近く集めてくれたり、イベントの改善提案をくれたり。ひとりで始めたイベントも、共感者が増え、このイベント自体でもプロボノとして活躍してくれる人が増えるようになりました。ひたむきに頑張る彼らを見ていると、彼らとこの思いを実現したいと強く思うようになりましたね」。

ソーシャルセクターそのものが注目されてきたこの頃、着実に増えていく参加団体、「職員として働く」だけではなくインターンやプロボノなど多様な働き方を考えて参加している希望者たち、そして同じ熱意を持ってくれる人たちとの協力。

このフォーラムを通してどんどん繋がり拡大し続けるものを感じたようです。

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自分の立ち位置がやっと少し明確になって自信になった、と朗らかに笑う竹内さん

ソーシャル×人材が私の強み

活躍をし続けている彼女から葛藤や悩みの要素を外側からは感じませんが、内側では迷いと不安とが混在しもがきながら前に進んできた経緯があったようです。

「私は採用としても営業としてもマーケィングとしても、スキルは中途半端でこれっていう強みがないと自己分析しています。その上、本業とプロボノ、DODAソーシャルキャリアフォーラム、ICCカンファレンス(経営者を中心に500名以上が集まるイノベーション・カンファレンス)のボランティアスタッフなど、活動を増やし続けた結果、体がボロボロになったこともありました。その当時は自分なりに必死で、そして楽しくて、気づかなかったのです。でも体が崩れれば、仕事面にも精神面にも当然悪い影響が出てきます。痛みを伴うほどの疲労が数カ月とれず、仕事もうまくいかず、這うように起きて、外では明るく振舞うものの、帰ると一人涙してしまうような日が続きました」。

進み続けるのではなく、一度立ち止まった経験があること。
さまざまな活動を精力的に進めていた竹内さんでも、体を休めたり、内省をしたり、一度活動を止め自分を見つめる時間を持ったことは、自分自身を充電させるだけではなく、その周りの人たちとの関係性を見つめ直す大切な時間になったようです。

「辛かったのを救ってくれたのは、いつの間にか積み上がっていた信頼関係。『とてもいい機会だから続けてほしい』『大阪でもやりましょう』というソーシャルセクターの人たちからの声、『またやりなよ』『次の企画はどうしますか?』というパーソルキャリアの上司の応援や後輩の意欲、『自分も目標を見つけました!』という部下の笑顔、『あなたにはこんな力と可能性がある』というソーシャルセクターやICCカンファレンスの繋がりで出会ってきた人たちの言葉でした」。

今回竹内さんが新たなステップを踏むことに決めたのも、これまで出会ってきた人の繋がりから生まれ、想定しないポジションでチャンスをもらえたことがきっかけでした。

2017年7月パーソルキャリアから一般社団法人Japan Innovation Network(ジャパンイノベーションネットワーク、以下JIN*1)に出向し、大企業においてイノベーションを加速するためのプラットフォームづくり、コミュニティづくりに参画することになりました。
7000人社員がいた会社から10人のメンバーで動くベンチャー団体へ。今の心境を聞いてみました。

「SDGs*2を推進するSHIP(SDGs Holistic Innovation Platform)というプラットフォームの構築にも関わることとなり、ソーシャルセクターへ今までとは別の形で関わることになりえると思っています」。

TFJに関わり始めたスタートから早4年。

パーソルキャリアで働くこととTFJで採用・人事のプロボノ活動。
同社でマネジメントする側にもなり、その間も本業とは別でDODAソーシャルキャリアフォーラムを年間3回開催。
そしてこれからはJINで新しい仕組みづくりに走りながら、DODAソーシャルキャリアフォーラムを手がけていく。
本業とは違う別軸を常に持ち、プロジェクトを推進してきたというところは、まさに2枚目の名刺としての生き方そのものだと思います。

「私は『ソーシャル×人材』をやり続けようと思った。プロボノとして、職員として、優秀な人とソーシャルセクターが繋がり、社会課題を解決していくスピードが加速していく変化は、これからもっと大きくなるんじゃないかなと考えています。これは私だからできることかもしれないな、と」。

迷い悩みながらも2つの場所を手放さず前に進んできたからこそ見えた自分の強みという領域。
竹内さんの奮闘と活躍は今後も続いていくだろうと思える言葉でした。

 

*1 一般社団法人Japan Innovation Network(ジャパンイノベーションネットワーク):経済産業省が提唱する「フロンティア人材」にて、イノベーションを興し続ける産官学のベストプラクティスの調査を世界中で行い、日本企業が起こすべき経営変革を加速させるため、提言の実行組織として2013年7月に有志が集い設立された団体。

 

*2 SDGs:2015年「持続可能な開発サミット」がニューヨークの国連本部で開催され、2030年までに達成すべき17の目標と169のターゲットからなる持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)に193カ国が合意。SDGsは途上国のみならず、先進国を含む全ての国の達成目標であり、日本政府もその達成にコミットしている。

写真:ハラダケイコ