人事向け企業フォーラム

201710月、企業の人事・採用担当者向けにあるフォーラムが開催された。「変化」の時代に活躍するグローバルリーダー育成の在り方~人事部門は今何をすべきか?と題された場には様々な企業規模の人事・採用担当者が総勢40名集まった。

異業種研究交流によって人と企業の成長へ寄与することを目指す一般社団法人企業研究会と、新興国にて社会課題を解決するNPOや企業への留職という人材育成事業を手がけるNPO法人クロスフィールズの2団体による共催フォーラム。日系企業と外資系企業それぞれでグローバル人材育成を推進したゲスト2名を迎えての基調講演と、グローバル人材育成に取り組む企業人事担当者によるパネルディスカッションを含めた密度の高い時間が参加者と共有された。

日本企業でグローバル人材が質・量ともに不足している現状がある

「日本の経営資源不足の中で僕が一番問題だと思っているのは、グローバル人材が質・量ともに不足していることだと思っています。今までは国内だけをマネージすればよかった。例えば海外の事業を買収したり、グローバルにビジネスを展開し始めたりすると、日本にいながら日本と海外のオペーレーション両方をマネジメントしなければならない。こういう事態は現に増えているし、今後はもっと加速するでしょう」。

元日立総合経営研究所取締役社長であり現在EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社のシニアアドバイザーである山口岳男氏(やまぐちたけお 以下山口氏)は冒頭の基調講演で述べた。

人事向け企業フォーラム山口氏

山口氏は、1975年日立製作所に入社し人事責任者として日立アメリカ社ニューヨーク、日立グローバルストレージテクノロジー社にて勤務を経験、企業のグローバル化とこれを支えるグローバル人事についての見識と幅広い経験を実体験を伴いながら培ってきた。

日本人にしかできない仕事は今後激減するでしょう。だとしたらこれまでのルールはもはや変えるしかない。グローバルビジネスというのは、文化やビジネスの方法が違う修羅場の中で仕事していくということ。それらを乗り越えてまとめて行く経験をやりたいと思えるその原点はなんですよ」。

自分は仕事を通して何をやりたかったのか。その志を実際の経験と照らし合わせて、自分のステークホルダーに伝えていくこと。ほとんどのビジネスパーソンはそれを忘れているのではないかという問題提起が山口氏から投げかけられた。

グローバルリーダーに求められるものとは何か

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「グローバルに活躍するリーダーの育成における要点は、山口さんの話に偶然にも重なりますが、大きく3点あります。1つは志、自分は何がしたいのか、というメッセージ。2つ目はAgility(アジリティ)。新しい職場、新しい海外赴任地に行った時、現地の状況を把握した上で、打ち手やソリューションが素早く導き出せる能力です。適応力とも言います。そして3つ目はResilience(レジリエンス)。日本語では忍耐強さ、我慢強さとも言いますが、一度くらい叩かれて失敗しようとも前を向こうとする、そのような姿勢が大切だと思います」。

金成和喜氏(かねなりかずよし 以下金成氏)は、1978年米国企業であるP&Gに入社、その後2001年スイスの外資企業であるネスレに入社しコミュニケーション/人事関連業務を担当、39年間の外資系企業での勤務経験を生かし、グローバル人材における要点や資質についてプレゼンテーションを展開した。

“留職”を実践している各社の背景

ビジネスにおける修羅場の体感やそれを実体験することで培える適応力や逆境に打ち勝つ力。先の山口氏や金成氏もグローバルに活躍する人材に必要なことだと言っていたが、それを実際に自社組織の中だけで経験させて育成し、本人をトランスファーさせることはなかなか難しい現状がある。

そこで日本の企業で働いている人を、新興国に送り、刻々と変わる社会情勢と日本と全く違う文化・ビジネスの展開がなされる現地のNPOや企業に入り、貧困・環境などの社会課題解決のために動いていく仕組みがある。

山口氏、金成氏双方の対談から「志」というキーワードが浮かび上がってきたが、その「志」を持つための原体験となりえるのが「留職」という越境プログラムだ。クロスフィールズが打ち出すこのプログラムを導入した日本企業3の人事担当者が今回のパネリストたち。各社の導入の狙いや効果を聞く。

「日立では入社10年目までにグローバル人材となれるような人材育成計画があります。実践と語学と基礎的なスキルの3分野があり、留職は2012年から実践の分野で導入し、述べ34名が新興国のNPOや社会的企業へ派遣されました。スタート時点ではITプラットフォーム事業本部内で始めたものが今は日立全体のプログラムに拡大しました」。

企業人事向けフォーラム後藤氏

株式会社日立製作所(以下日立製作所)システム&サービスビジネス統括本部サービスプラットフォーム・プロダクツ人事部主任の後藤沙織氏(ごとうさおり 以下後藤氏)は一部署で取り組んだ留職プログラムが社内で多部署へ広がり拡張し始めたことを伝えた。

味の素株式会社(以下味の素)イノベーション研究所次長兼総務部長高木久志氏(たかぎひさし 以下高木氏)は社内での人財における戦略とのマッチングについて話す。

「味の素には人財戦略として価値創造ストーリーを作りグローバルに成長するためのビジョンをドライブしていくリーダーや、そのビジョンを実現するプロフェッショナルを育成したいと考えています。コーポレート研究を行うイノベーション研究所内で、20158月、201710月にカンボジアやインド、インドネシアへ研究員を派遣しました」。

企業人事向けフォーラム高木氏

ISIDでは留職を導入する理由の中心は、当初は、グローバル人材育成という位置づけでしたが、昨今は、それに加え、働き方改革を進める上での重要な施策という位置付けです。生産性を向上させるということと多様性を尊重することの両立が鍵であり、留職はその中でも多様性を尊重する方で個人の多様性を広げる経験ができると考えました。20142月から開始し、2015年、2016年とインド、ベトナム、カンボジアへ1名ずつ派遣、2018年春にも派遣予定です」

企業人事向けフォーラム今村氏

株式会社電通国際情報サービス(以下ISID ワークスタイルイノベーション室WSI推進部長兼管理本部人事部今村優之氏(いまむらまさゆき 以下今村氏)は、他2社と比べて人材育成だけではなく働き方改革との繋がりを見据えて社内にプレゼンテーションした制度設計の方向性を発表した。

“留職”という越境活動で感じた成果

グローバルリーダーに必要な要素だと言われた「志」。留職経験者にはそのような志があったのだろうか。また当事者における変化や成果、ひいては組織への効果についても各社から語ってもらった。

企業向け人事フォーラムスピーカー企業3社

後藤氏 「留職プログラムに参加する社員の人選は本人からの手挙げと選抜との両方で実施しています。志というものが明確にあった人物かと言われるとそうではないパターンもありました。ただ、効果としては、留職者は仕事に対する姿勢が変わることは感じています。課題を見つけ、周りを巻き込みながら仕事をしていくようになりますね。タフな環境でのビジネスの経験によって、自分が変わるだけではなく、持ち帰った組織にも還元されている。また、留職した現地団体への還元としても、留職したNGOでシステムを構築した社員は、日立の現地法人とNGOを巻き込んでプロジェクトを立ち上げ、自分が離れてもシステムが継続して使われ続けるような取組みを作りました」。

高木氏 「これまでに留職をした4名は自分を成長させたいという意欲が非常に強かったです。長期間研究所で働く社員も多くいる中、2015年度の留職経験者は、本社に異動しグローバルなCSV戦略策定・推進や品質保証体制強化というチャレンジングな分野で活躍しています。本人が仕事において持つ志が変化したことも、留職の成果として感じています。一方で、派遣した人数そのものが少ないため、組織風土に与えるインパクトとしては現時点では弱い部分もあります」。

今村氏 「ユニット長や部長などを説得してこのプログラムに参加するフローになっているため、そもそも志がないとできないですね。留職経験者の声として自分のWantよりも相手のNeedの価値であったり、リーダーは特殊能力ではなく熱意と作戦で実行できるという体感だったり、当事者の気持ち・行動の変化が見えています」。

グローバルリーダーを育てるために、文化もビジネススタイルも違う新興国の社会課題最前線の場所で自分がプロジェクトを作り回していくという経験は、その後の仕事へ確実に生きるということが各社で成果として上がっている。

今後の日本企業においてグローバルに展開していく企業が増加していく中で、グローバルに活躍するリーダーを育てることが不可欠になっていくとしたら、このような場所を変えて越境することの必要性をもっと感じる機会が増えていくかもしれない。

写真:NPO法人クロスフィールズ提供