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※この記事は、森・濱田松本法律事務所・荒井太一弁護士からの寄稿文です。

はじめに

「働き方改革」が進展する中で、副業・兼業解禁に関わる議論も論点の一つに上がっている。一部の先進企業では、副業規程の緩和・撤廃を含めた対応を始めており、話題性とともに、人材を集める有効な手段にもなっている。また、社員がキャリア研鑽の機会を求め、社外で取り組みを行うような動きも広がってきている。

こうした環境のなか、企業の人事担当者は、これまでほとんど議論の対象とならなかった、就業規則の副業・兼業の制限条項に向き合う必要が生じている。

就業規則の副業・兼業の制限条項の有効性

現在、企業のほとんどは、就業規則において、「会社の許可なく他人に雇い入れられること」を禁止しており、この違反を懲戒事由としている。しかし、多数の裁判例においては、この規定をそのまま有効とは認めていない。すなわち、会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の副業・兼業は禁止の違反とはいえないとしている(菅野和夫「労働法(第11版)」671頁)。

たとえば、労務提供に支障をきたすほどの長時間の副業・兼業や、競業会社の取締役への就任、病気による休業中の自営業経営など、例外的な場合にのみ二重就職の禁止に抵触すると解されているが、有力な学者も、「労働時間外の時間をどのように利用するかは労働者の自由であり、その時間に自己の労働力を利用する自由も職業選択の自由(憲法22条1項)によって保障されている。したがって、兼職は原則として労働者の自由である」と断言している(土田道夫「労働契約法」103頁)。

したがって、現在規定されている副業・兼業制限規定は多くの場合、無効又は一部無効であると考えられ、もし従業員が兼業をしても、原則としてこれを禁止したり懲戒を課したりすることは難しい。つまり、現在の「働き方改革」があろうとなかろうと、既にほとんどの副業・兼業は法的に認められていると言える。

副業・兼業において収入を得ることそのものを問題視する企業も存在するが、上記の通り、この点は副業・兼業制限規定の有効性の判断においては基本的には考慮されない。副業で本業を上回るほどの収入を得ても問題はないといえよう。ただし、上記の通り、労務提供に支障をきたす蓋然性が高い副業・兼業は制限することが可能であるため、本業への職務に専念できないような場合には問題となる(もっとも、これは収入を得ない副業・兼業であっても本業の職務に専念しなければならないことに変わりはないので、本質的な差異とは言えない)。

認められない兼業の具体例

逆に、禁止できる副業・兼業は下記の通りだ。

  1. 本来の職務と重複する兼職(勤務時間が重複するなど、そもそも両立し得ない職務)
  2. 副業において過度な長時間労働が予想されるなど、労務提供に支障をきたす蓋然性が高い兼職
  3. 競業他社における就労

たとえば、仕事中に副業・兼業先のメールを確認することは、専念義務に違反すると言え、1の類型となる。また、昼間の居眠りや体調を崩しがちになるまで副業・兼業をおこなうようなものは2の類型としてやはり制限がされる。3については「競合他社」の範囲については様々な考え方があることから、この点について明確に定めておくことはトラブルを避けることにもなろう。もっとも、これについてもあまりにも広範に定めた場合には、一部が無効と判断される可能性が存在する。

情報管理について懸念する企業も多いが、他社に情報を流出させてしまう行為は兼業制限の問題というよりも守秘義務に違反する行為であり、もとより禁止されている。また、社用のパソコンを兼業先で使用するのではないか、といった懸念についても、企業が通常定めている設備規程等で対処できるだろう。

副業・兼業が発覚した場合の人事部としての対応

まず、上記基準に照らして、当該副業・兼業が競合他社への就労であるか、について確認を行うことになるだろう。さらに、これをクリアした後、労務提供に支障をきたしているか、について検討を行うことが求められる。具体的には、上司又は同僚やパソコン上の記録などをもとに就労状況について確認を行うことになるだろう。

調査において、競合他社への就労が発覚したような場合や労務提供に支障をきたしているような場合は、懲戒処分を課すことが可能となる。他方、そうした事情がない場合については上記の通り、そもそも制限をおこなう根拠が無いことから、懲戒等の手続きを行ったとしても無効と判断されるおそれがある。

副業・兼業規制の理由と解禁の意義

そもそもこうした兼業禁止がどのように生じてきたかについては様々な要因がある。たとえば、労働契約の本質は、従業員が企業に労務を提供し、これに対して企業が賃金を支払うというものである。しかし、典型的な日本型雇用の場合、企業が従業員の雇用を保障する代わりに職務や勤務場所を限定しないという慣行が存在する。こうした慣行のもと、次第に企業が従業員の生活全般に対しても影響力を持っていったと考えられる。筆者としては、こうしたなかで企業が労働者に対し忠実義務を幅広く求め、兼業を禁止することがいわば当然となったのではないかと考えているが、この点は専門家による検証に委ねたい。

いずれにせよ、産業構造が激しく変化する時代では、大企業でも雇用を維持するのが難しい。上記の仮説のとおり、兼業禁止の大前提として雇用保障があったが、今後の経済の中で一つの事業が永続し続ける保障はなく、従業員がリスクを分散したいと考えることも当然であろう。また、従業員のキャリアに対する考え方も大きく変化しており、職務について限定せず幅広く職務を行うというスタイルではなく、特定のキャリアを意識的に形成していきたいとの要望も強まっている。かかる従業員側の要求が増えてくれば、人材の確保という観点から兼業・副業を禁止する企業が劣後していく可能性は否定できない。

企業にとっても、既存の組織外のネットワークから、従業員が新たな情報やアイデアを持ち帰ってくることは、新たな事業の創出や拡大の機会となることも考えられるほか、社内では提供できない分野について従業員がキャリアについて向上させ、そのスキルを本業に活かせるということもある。

さらに、より大きな視点で捉えれば、労働力が減少してく時代において、経済活動を維持・成長させるためには、企業も個人も生産性を上げていくことが重要なポイントになると考えられる。たとえば、ベンチャー企業の事業に対し、大企業で勤務している経験豊富なキャリアを有する人材が助言を行えば、有望なベンチャー企業の成長が促進されるといったことも期待されるのではないだろうか。

兼業・副業を認めた場合の法的論点

兼業・副業を認めた場合、人事部として検討すべき法的論点も存在する。すなわち、労働基準法38条1項によれば、労働者が複数の事業場で労働した場合、その労働時間は通算して計算しなければならない。したがって、その通算された労働時間をもって、労働時間や割増賃金等の規制に服することとなる。

この点、昭和23年に出された行政通達においては、同一使用者の複数の事業場で就労する場合に限らず、複数の使用者の下で就労する場合も含むとの解釈が示されている。しかし、そもそも兼業・副業の事実を知ることができない使用者に対しても労働基準法の規制をかけることは不公平でもあるし、仮に知っていたとしても他の使用者の下における業務についてコントロールする権限を有しないにも関わらず、責任のみ負わせることは不合理である。

こうした兼業・副業に伴う長時間労働のリスクは、その利益を享受する立場でもある労働者において負うべきである(当然のことながら、労働者に兼業・副業をおこなう義務はない)。したがって、労働基準法38条1項は複数の使用者の下でなされた労働時間については適用されないとの解釈も有力である。なお、労働行政の解釈に立った場合であっても、使用者が兼業の事実を知らない場合は、故意が存在しないため労働基準法違反は成立しないということになろう。

また、これは行政としての課題であるが、労働災害の「業務起因性」の判断において、特に脳・心臓疾患や精神疾患については、本業と兼業・副業先のいずれの業務から生じたものであるか不明確になり、判断が難しくなるといった点も挙げられている。人事部としては、法令上定められた労働者の健康管理措置を遵守し、労働者の健康管理に留意することとなろう。

今後の副業・兼業規制のあり方

副業・兼業の一律禁止は公序良俗違反として無効と評価される可能性が高いことに加え、上記の社会情勢の変化をもふまえれば、現在の副業・兼業規制を前提として労務管理を行うことは望ましくないと言えよう。したがって、兼業・副業の許可制にしたうえで、許可事由を明記することが考えられる。かような手法であれば、自社の利益を確保しつつ、従業員の権利を過度に制限することも避けられることになるからだ。

他方、従業員に対して、企業に対する誠実義務を遵守するよう求めることは当然に認められるし、ここから派生する守秘義務、競業避止義務に違反した場合には懲戒処分を課すことがありうることを十分認識させることが必要となろう。

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荒井 太一

荒井 太一

厚生労働省労働基準局で勤務した初めての弁護士であり、労働基準法および労働契約法をはじめとする労働関係法規に豊富な知見を有する。 著書『実践 就業規則見直しマニュアル』(労務行政)等多数