「働き方改革は実現するのか?」

一般社団法人at Will Workが開催した「働き方を考えるカンファレンス2017」。SPECIAL SESSION「日本人は本当に働きすぎているのか?」のイベントレポート(後編)です。

登壇した竹中平蔵、白河桃子、小口日出彦、西村創一朗の各氏が、テーマについて意見を語った【前編】は>こちら

終身雇用・年功序列はもうすでに崩れている

それぞれの視点で違いはあるものの、“柔軟な働き方”が重要だという点では一致している。しかし、言葉でいうほど簡単ではない現状が日本にはある。その理由の一つに、終身雇用、年功序列などの日本ならではの仕組みがあるのではないかということがあぶり出されていく。まずは竹中氏と白河氏がそのあたりを語った。

竹中:「終身雇用、年功序列は戦後にできたある意味ではすごく新しい概念です。労働力が不足していた時代に、若い人を社内で教育すればそれなりに企業は成長するという社会状況の中で定着しました。でも現実に私たちがイメージするような終身雇用、年功序列という中で働いているのは、全体の2割くらいで、現実はもう崩れています。重要なのは、いろんな人がいることを前提に制度を作らなければならないとうこと。個人の生き方の問題とも関わってくるので、議論がまとまらないこともありますが、守らなければならない原則は、雇う側の力が強く、雇われる側が弱いという世界共通の原理です。大前提として雇われる人の権利が守られなければならない。残業の上限が60時間という話がありましたが、時間で働く職種においては健康管理上の留意のために必要です。しかし一方で、そうではない職種の場合、ホワイトカラーエグゼンプション(労働時間規制適用免除制度)と時間制限はコインの両面なので、同時に議論していかないといけません」

白河:「今の企業の管理職は長時間働いて地位にたどり着いたという圧倒的な成功体験あります。でもそれが前提になってしまうと、効率的に仕事を終わらせるということを考えないで働いてしまう。それは今の企業組織のDNAに近いと言えるでしょう。そこにしっかり終わりを意識させ、ここまでで成果を出してくださいとやってみます。最初は不満も出ます。でも続けていくと新入社員もどんどん入ってきて社内のDNAがだんだん変わってきます。そうすると生産性高く働いて、可処分時間をどう使おうかという、まさに自己計算をたくさんやるような人が増えて、変化のきっかけにつながっていくのではないでしょうか」

人生設計に合わせて、会社や働き方を選ぶ

ベテラン組が日本の制度の側から働き方について言及する一方で、若手組は、個人の思いを重視することに着目しているのは興味深い。

小口:「例えば子どもが小さくて、これだけ稼がないと学費が賄えないなどという場合は、確かに転職へのハードルにはなりますよね。ただ、それによって今いるところから動けないと思い込んでしまうと、そこで発想が止まってしまいます。じゃあ工夫できることはないのかと考えないと。人は考えることができるので、僕は動けない、工夫できないなんてことはないと思っています。私たちが生きている世の中は平和でいろんな選択肢があるわけですよ。さっきまで悩んでいた自分は間違いだと思うだけで景色は変わります。

そういった意味では、可処分時間はものすごく重要なキーワードですよね。かといって17時で会社が帰してくれるから時間が取れるというわけではないんです。テレビを見たり、スマホをいじったりする時間を減らすなど、可処分時間をとるのだという意識がなければ時間は生まれません。人生って、しばしばうまく行かないって決まっているんです。計画通りにはいかないんです。それはみんなわかっていいます。だからこそ、苦しいこともある、だけど人生は楽勝気分でいくぞと思うことも大事ですね。行き詰まった時に、俺は間違ったんだと認めて、気持ちを変えればいいんですよ。もちろん簡単には変わらないですよ。一日3回くらい変えてみても、朝の状態に戻っていたりします。それでいいんです。ダメな自分もあって構わない。ダメだと思い込んでいた俺がダメだと思えば全然ダメじゃない」

西村:「リクルートは成果さえ出していれば、6時に帰ろうが7時に帰ろうが何も言われない会社でした。そうはいっても平日はフルタイム勤務で在宅ワークはNGという働き方ではちょっと人生設計が難しいなあと思ったんです。というのは、昨年2月に長女が生まれた時に、もしこの先人生の中で後悔することがあるとするならば、娘ともっと一緒に過ごしておけばよかったということだろうと思いまして…。子どもと一緒に過ごしながら自分のやりたい仕事をやるという、二兎を得るためには、会社員ではなく経営者になるしかないと思って退社を決めたんです。今は週に2回は完全在宅で、娘を抱っこしながら家でパソコンを打っています。仕事にならないこともありますが、働き方を全部自分でデザインできることで、今までよりも生産性があがったなと肌で感じています。

今政府で議論されているのは働き方というより、働かせ方改革になっているというのが僕の本音で、国や企業がどうしていくかということは大事ですが、一方で個人が変わらなければ仕組みが変わっても何も変わらないのではないかと思います。個人がさまざまな選択肢から選び、仕事に就くべきだと感じますね」

そこに白河氏も呼応する。

白河:「今の日本の労働時間は、制限速度のない高速道路状態になってしまっている。電通で起きた過労死事件を発端に、制限速度を設けようという声が経営者側から上がっているんです。働かせ方改革と言われますが、いざとなったら社員が無限に働いてくれるということを前提に描いていたビジネスモデルを変えようという動きが経営者の方から出てきている。ビジネスモデルを転換しなければならない時期に転換できない経営者から離れるという覚悟も、働く側に必要なのではないかなと思いますね。なかなか簡単に転職とはいきませんが、自分の市場価値を知るために一回転職エージェントに登録してみるのもいいと思います。まず、そこがはじめの一歩かなと思います」

働き方改革は実現するか

約40分のセッションの最後は、それぞれが働き方改革への期待を述べた。もちろん、一筋縄ではいかない問題であることも含めて。

「高度経済成長を起こした終身雇用が誕生して以来、半世紀ぶりに雇用のイノベーションを起こす絶好のタイミングだと思うんです」(西村)、「制度の側ではなく、実態側は急ピッチで変わり始めています。『日本人は本当に働きすぎているか』という問いの“日本人”という主語を疑わしく思うほど、従来の枠組みにしばられない中で仕事をしたいと思っている人たちが多いと感じます」(小口)という言葉はむしろ現実味にあふれている。

そして最後は竹中氏がこの言葉で締めくくった。

「制度と人々のメンタリティーが好循環を起こしながら変わっていくような形を作っていかなければいけません。何年か前に“残業するほど暇じゃない”という面白いコマーシャルがありましたが、ものすごく素敵なコピーだと思いました。これからの人生のことを考えると、自己投資など、ものすごくやるべきことがたくさんあって、目の前の仕事で残業するほど私は暇じゃないんだと、そういうメンタリティーをそれぞれが持つことが大事だということです」。

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写真:ハラダケイコ
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