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※この記事は、森・濱田松本法律事務所・荒井太一弁護士からの寄稿文です。

はじめに

2018年1月、厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成し、公表しました。これは、厚生労働省「柔軟な働き方に関する検討会」(以下「本検討会」という。)における議論を踏まえて作成されたもので、この中で、副業・兼業に関わる現行の法令や解釈がまとめられています。

さらに、これまで、厚生労働省が公表していた「モデル就業規則」においては、労働者の遵守事項として、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」との規定(以下「副業禁止規定」という。)が存在しましたが、このたび、このガイドラインの公表に合わせてモデル就業規則が改定され、副業禁止規定が削除されるに至りました。

本項では、副業禁止規定が削除されるに至った理由と新モデル就業規則において新たに規定された副業制限規定の解説をおこなうとともに、各企業が副業に関する規定を定める際のポイントについてあわせて解説します。

副業禁止規定が削除されたわけ

デファクトスタンダードとしての副業禁止

これまで、一般的な日本企業においては、ほとんどの企業が副業を禁止してきました。中小企業庁委託事業「平成26年度兼業・副業にかかる取組実態調査事業」においても、副業・兼業を認めていないとする企業は85.3%にも及びます。いわば、副業・兼業の禁止は日本の雇用文化において、デファクトスタンダードとなっていたといえます。

だからこそ、モデル就業規則においても、いわば当たり前のように副業禁止規定が記載されていたものと推測されます。

副業禁止は、実は多くの裁判例で否定されている

ところが、司法の場では、多くの裁判例において、副業禁止規定の効力は基本的に否定されており、ごく例外的・限定的な場合にだけ有効性が認められています。

厚生労働省が公表した「副業・兼業の促進に関するパンフレット」に紹介されている裁判例とその概要は以下の通りです。

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  • マンナ運輸事件(京都地裁平成24年7月13日)

運送会社が、準社員からのアルバイト許可申請を4度にわたって不許可にしたことについて、後2回については不許可の理由はなく、不法行為に基づく損害賠償請求が一部認容(慰謝料のみ)された事案。

  • 東京都私立大学教授事件(東京地判平成20年12月5日)

教授が無許可で語学学校講師等の業務に従事し、講義を休講したことを理由として行われた懲戒解雇について、副業は夜間や休日に行われており、本業への支障は認められず、解雇無効とした事案。

  • 十和田運輸事件(東京地判平成13年6月5日)

運送会社の運転手が年に1、2回の貨物運送のアルバイトをしたことを理由とする解雇に関して、職務専念義務の違反や信頼関係を破壊したとまでいうことはできないため、解雇無効とした事案。

  • 小川建設事件(東京地決昭和57年11月19日)

毎日6時間にわたるキャバレーでの無断就労を理由とする解雇について、兼業は深夜に及ぶものであって余暇利用のアルバイトの域を超えるものであり、社会通念上、会社への労務の誠実な提供に何らかの支障を来す蓋然性が高いことから、解雇有効とした事案。

  • 橋元運輸事件(名古屋地判昭和47年4月28日)

会社の管理職にある従業員が、直接経営には関与していないものの競業他社の取締役に就任したことは、懲戒解雇事由に該当するため、解雇有効とした事案。

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これらの裁判例のうち、①は副業を禁止したことが違法とされた事例、②〜⑤はいずれも副業禁止規定に違反して解雇された事例ですが、②と③では解雇が無効であると判断され、他方、④と⑤では解雇が有効であると判断されています。

こう見ると、解雇が認められた事案と否定された事案はちょうど半々であるかのように見えますが、実際には、解雇を有効とした④と⑤の裁判例でも、判決文の中で以下のように述べられています。

④「労働者は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く。

⑤「元来就業規則において二重就職が禁止されている趣旨は、従業員が二重就職することによって、会社の企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大であり、あるいは従業員の会社に対する労務提供が不能若しくは困難になることを防止するにあると解され、従って右規則にいう二重就職とは、右に述べたような実質を有するものを言い、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないと解するのが相当である。」

すなわち、いずれの裁判例でも、副業禁止規定をそのまま有効としているのではなく、会社の事業に格別の事情がある場合にのみ有効としています。

当然、副業禁止を違法とした①や、副業禁止を根拠としてなされた解雇を無効とした③、④の裁判例も同様であり、これらを要すると、むしろ裁判例はいずれも「労働者が副業をすることは基本的に自由である」「各企業が副業を禁止することは原則としてできない」との点で一致しています(④と⑤の裁判例は、「例外」的な事例であったために解雇が認められた。)。

こうした、兼業・副業を一律に禁止することはできないとの考え方は、労働法の分野では通説として確立しており、有力な学者もほぼ異論なくこの考え方を支持しています。

したがって、これまでは、法律的には正しくないのに、企業も労働者も(そして厚生労働省も)「副業はダメ」と言い続けてきたことになります。

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新しいモデル就業規則の副業制限規定

今回、副業の促進にあたり、モデル就業規則は改定され、上記裁判例の考え方に合わせ、原則として副業ができることを明記した上で、企業は、例外的な場合にのみ副業を制限する規定となりました。

具体的には、以下のような規定となっています。

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(副業・兼業)

第67条  労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。

3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。

1 労務提供上の支障がある場合

2 企業秘密が漏洩する場合

3 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

4 競業により、企業の利益を害する場合

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第1項「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」には、これまで裁判例が再三指摘していた、副業・兼業が原則として自由であることが記載されました。

逆に、第3項では、例外的に制限できる副業・兼業として、4つの類型が記載されています。これらはいずれも、裁判例などで例外的に制限することができるとされたものです。

—1号「労務提供上の支障がある場合」

いわば当然のこととして、本業への労働契約条の義務に支障が出てくるような副業・兼業は本業先の企業が制限することが可能です。たとえば、長時間労働を余儀なくされる副業や、そもそも本業の所定労働時間と重なってしまっているような副業をすると、本業に対する労働契約上の義務の履行がおこなえず、労働契約の内容に違反することになります。業務時間中に副業の仕事をしたり、副業が忙し過ぎて居眠りするようなことはもちろん許されません。

—2号「企業秘密が漏洩する場合」

これも本業先にしてみれば当然制限すべきことです。企業秘密は本業先の財産ですので、これを漏洩するような行為は副業・兼業に限らずしてはいけません(もっとも、副業・兼業を開始する前から企業秘密を漏洩するようなことが明らか、という場面は少ないかもしれません。)。本業で開発中の技術やノウハウについて、副業先に教えたり、利用したりすることは許されません。

—3号「会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合」

違法行為や反社会的行為、その他、本業の名誉を毀損しかねない副業は、本業の事業に影響がおよび兼ねませんので、制限することが可能であると考えられています。たとえば、本業として勤めている企業を明らかにした上で反社会的行為をおこなえば、本業の名誉や信頼を毀損することになり得ます。

また、たとえば、本業のクライアントに対し、副業として営業をかける、などの行為も本業の名誉や信用を傷つける行為といえますし、本業の人的または物的資産を、不当に利用していると評価される可能性があるため、信頼関係を破壊する行為となりえます。

—4号「競業により、企業の利益を害する場合」

いわゆる競業避止義務を規定したものであり、これもいわば当然の規定です。本業のライバル企業に副業として勤務するようなことがあれば、本業のビジネスに悪影響が生じることは比較的明らかと言えます。もっとも、この「競業」の範囲は、必ずしも明らかではないことも多いといえます。たとえば、本業が多数の事業部を抱えている場合に、自分が関与しているビジネスと全く関係のない事業部を「競業」と評価するべきか、この点は会社ごとに判断は分かれる可能性がありますので、会社とコミュニケーションをとることが必要でしょう。

また、本業で培ったスキルやノウハウを生かして副業・兼業を行いたい、というニーズも多いと思います。この場合であっても、本業の秘密情報や人的・物的資産を使うのでない限り、特段問題となるものではありません。本業で磨いたスキルといっても、個人に帰属するスキルを使うことについては原則として制限は及ばないと考えられす。

なお、この副業が制限されるかという観点において、「副業で儲けている」か否かは関係がありません。もちろん、ボランティアであれば、競業避止といった問題はおきづらいとはいえますが、しかし、法的には本質的な差異にはなく、副業で儲けていること自体は副業を制限する理由にはなりません。

 

最後に、第2項「労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする」ですが、これは、副業を開始する前に、本業がその内容を届け出てもらうことで、第3項記載の制限事由に該当するか事前に判断できるよう制度として担保するものです。

副業によるトラブルを避けたいなら本業先と相談しよう

なお、厚生労働省のモデル就業規則はあくまでも就業規則のサンプルに過ぎず、法的拘束力があるものではありません。したがって、実際に各社の就業規則の副業禁止規定・副業制限規定がどのようになっているか、必ず確認する必要があります。

また、いずれにせよ、副業・兼業をおこなうにあたっては、自分の上司や人事部などと相談し、トラブルのないよう、なぜ副業を行いたいのか、どういった内容なのか等話し合いをおこなうことが望ましいといえます。

 

以上、本稿ではモデル就業規則の改正の経緯や、今後も制限されうる副業・兼業について解説を行いました。

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荒井 太一

荒井 太一

厚生労働省労働基準局で勤務した初めての弁護士であり、労働基準法および労働契約法をはじめとする労働関係法規に豊富な知見を有する。 著書『実践 就業規則見直しマニュアル』(労務行政)等多数